148 / 934
五章
2
しおりを挟む
そんな僕の想いを察してくれたのだと思う。北斗と二階堂は阿吽の呼吸で歩みを止め、聴く姿勢を整えてくれた。二人の友と紫柳子さんに敬意を込め、僕は見解を述べる。
「紫柳子さんは、何らかの武術の達人だと思う。僕の祖父母と同じ気配を、紫柳子さんは持っているんだ」
僕に首肯したのち、二階堂は北斗へ顔を向けた。
「なあ北斗、お前は紫柳子さんの頭脳を、どう感じた?」
「あれほど聡明な女性を、俺は他に知らない。あの人は俺に慢心するなと助言してくれたが、俺にとってはあの人の存在そのものが、己の未熟さを気づかせてくれる助言だったよ」
緊張に身を強張らせ北斗は答えた。しかしそんな北斗とは真逆に、二階堂は体全体で息を吐き、いつものラフな気配をまとう。二階堂と同じ気持ちだった僕も緊張を解き、普段の自分に戻った。なぜなら、能力に差のあり過ぎる家族と暮らしてきた僕らは、ずっとこうして自分を守ってきたからだ。こういう場面でダメージを最も少なくしてくれるのは、笑うことなのである。
「北斗が舌を巻く頭脳を持ち、猫将軍が認める武術の達人でもある人。正直、差があり過ぎて、俺は笑う事しかできない」
「僕も同意。紫柳子さんについてあれこれ考えるのは、僕にはお手上げだよ」
僕と二階堂は顔を見合わせ、アハハと笑った。そう僕らは、これ以上考える事を放棄した。だって考えたって仕方ないもんね、アハハハハ~~!
そんな僕達二人を、北斗は何か言いたげな顔でしばし見つめていた。でも数秒後、得心したようににっこり笑い、ポンと手を打った。
「魅力的な女性は、得てしてミステリアスなものだ。それを暴くは無粋の極み。ミステリアスな女性は、ミステリアスなままにしておくか」
僕と二階堂は「「賛成」」と声を合わせた。そして並んで歩きながら、今日出会った大人の女性のミステリアスな魅力を、競うように話し合っていった。これも素敵だった、あれも素敵だった、やっぱ女性は未知の部分があるからこそ、魅力的なんだよなあ。
だが、僕は完全に忘れていた。
いや今回は、二階堂も完全に忘れていた。
秋葉原から帰って来た今の僕らは、秋葉原に行く前の過去の僕らとは、違うという事を。
独り先頭を歩いていた北斗はこれ見よがしに肩を落とし、残念そうに呟いた。
「二人がそこまで言うなら、これもミステリアスなままにしておこう」
それを耳にしたとたん、僕と二階堂は電撃カートリッジをくらったが如く痙攣し、立ち止まった。そしてその直後、僕らは猛ダッシュで北斗に追いつきその手元を覗き込む。そこには紫柳子さんから送られた、未開封のデジタル名刺が映し出されていた。
「ちょ、ちょっと待った! 北斗、それどういう意味だ!」
「ん? 何を慌てているんだ二階堂。この名刺を家に着くまで開かないで欲しいとあの人が顔を赤らめた理由も、ミステリアスにしておくんだろう」
「なにっ、お前その理由を知っているのか!」
「いや知らん。プロトコールの授業で習ったことを用いれば、推測可能なだけだ。だが二人とも『あの人が顔を赤らめた理由』も、考えないことを望むんだよな」
やっちまったと僕と二階堂は頭を抱えた。ああまったく、僕は幾度繰り返せば学ぶんだ。自分に無理だから他の人にも無理だなんて、なぜ考えちゃったんだよ、この残念脳ミソめ!
「ごめん北斗。紫柳子さんが新忍道をしているか否かについて考えることを放棄したのは、間違いだった。僕には不可能でも、他の人には可能なことが、この世には山ほどあるんだよね。だからこそ僕らは、一人では辿り着けない正解を得るため、皆の得意分野を持ち寄って議論するんだよね。そうだよね北斗!」
議論については完全に同意なのだが、と肯定しつつも言葉を濁す北斗へ、二階堂が取りすがった。
「北斗、俺らはさっきの行動を改める。あんなふうに、自分と同種の人間だけで自分に都合の良い結論を出し、そこに逃げ込むようなことを、俺らはもうしない。だからどうか、あの人が顔を赤らめたことへの推測を、俺らに聞かせてくれ!」
北斗は困ったような、もしくは作戦が大成功してほくそえんでいるような、そんな複雑な表情を浮かべた。
「いや、お前らの言い分はもっともだし、二人がそう言うなら俺も推測を話す事にやぶさかではないが、なにぶんもう」
北斗は右手を持ち上げ何かを指し示し、言った。
「二階堂の家に着いちまったから、話は無理だな」
「うっぎゃあ~~!」
「何てこった~~!!」
僕と二階堂は今度こそ本当に頭を抱え、己の不徳を責めた。
そして僕らは時計を確認しつつ、兎にも角にも三つの結論を出した。
一.紫柳子さんが新忍道をしているか否かは不明だが、もししているなら、本部チームに加わる技量を体得していると考えて間違いない。
二.刀と銃は互いの得意不得意を補完し合う関係にあるため、刀が利用可能になれば、まったく新しい3DG攻略法を開拓できる。
三.そしてその先駆者たるべきは、日本の新忍道本部をおいて他にない。
この三つを北斗が超高速タイピングし保存した時点で、時刻は午後五時二十五分。目の前にある二階堂邸の門扉を直ちに潜れば、五時半までに帰宅するという約束を違えることは避けられるはず。
僕らは飛び込むように、二階堂家の敷地へ駆け込んだのだった。
「紫柳子さんは、何らかの武術の達人だと思う。僕の祖父母と同じ気配を、紫柳子さんは持っているんだ」
僕に首肯したのち、二階堂は北斗へ顔を向けた。
「なあ北斗、お前は紫柳子さんの頭脳を、どう感じた?」
「あれほど聡明な女性を、俺は他に知らない。あの人は俺に慢心するなと助言してくれたが、俺にとってはあの人の存在そのものが、己の未熟さを気づかせてくれる助言だったよ」
緊張に身を強張らせ北斗は答えた。しかしそんな北斗とは真逆に、二階堂は体全体で息を吐き、いつものラフな気配をまとう。二階堂と同じ気持ちだった僕も緊張を解き、普段の自分に戻った。なぜなら、能力に差のあり過ぎる家族と暮らしてきた僕らは、ずっとこうして自分を守ってきたからだ。こういう場面でダメージを最も少なくしてくれるのは、笑うことなのである。
「北斗が舌を巻く頭脳を持ち、猫将軍が認める武術の達人でもある人。正直、差があり過ぎて、俺は笑う事しかできない」
「僕も同意。紫柳子さんについてあれこれ考えるのは、僕にはお手上げだよ」
僕と二階堂は顔を見合わせ、アハハと笑った。そう僕らは、これ以上考える事を放棄した。だって考えたって仕方ないもんね、アハハハハ~~!
そんな僕達二人を、北斗は何か言いたげな顔でしばし見つめていた。でも数秒後、得心したようににっこり笑い、ポンと手を打った。
「魅力的な女性は、得てしてミステリアスなものだ。それを暴くは無粋の極み。ミステリアスな女性は、ミステリアスなままにしておくか」
僕と二階堂は「「賛成」」と声を合わせた。そして並んで歩きながら、今日出会った大人の女性のミステリアスな魅力を、競うように話し合っていった。これも素敵だった、あれも素敵だった、やっぱ女性は未知の部分があるからこそ、魅力的なんだよなあ。
だが、僕は完全に忘れていた。
いや今回は、二階堂も完全に忘れていた。
秋葉原から帰って来た今の僕らは、秋葉原に行く前の過去の僕らとは、違うという事を。
独り先頭を歩いていた北斗はこれ見よがしに肩を落とし、残念そうに呟いた。
「二人がそこまで言うなら、これもミステリアスなままにしておこう」
それを耳にしたとたん、僕と二階堂は電撃カートリッジをくらったが如く痙攣し、立ち止まった。そしてその直後、僕らは猛ダッシュで北斗に追いつきその手元を覗き込む。そこには紫柳子さんから送られた、未開封のデジタル名刺が映し出されていた。
「ちょ、ちょっと待った! 北斗、それどういう意味だ!」
「ん? 何を慌てているんだ二階堂。この名刺を家に着くまで開かないで欲しいとあの人が顔を赤らめた理由も、ミステリアスにしておくんだろう」
「なにっ、お前その理由を知っているのか!」
「いや知らん。プロトコールの授業で習ったことを用いれば、推測可能なだけだ。だが二人とも『あの人が顔を赤らめた理由』も、考えないことを望むんだよな」
やっちまったと僕と二階堂は頭を抱えた。ああまったく、僕は幾度繰り返せば学ぶんだ。自分に無理だから他の人にも無理だなんて、なぜ考えちゃったんだよ、この残念脳ミソめ!
「ごめん北斗。紫柳子さんが新忍道をしているか否かについて考えることを放棄したのは、間違いだった。僕には不可能でも、他の人には可能なことが、この世には山ほどあるんだよね。だからこそ僕らは、一人では辿り着けない正解を得るため、皆の得意分野を持ち寄って議論するんだよね。そうだよね北斗!」
議論については完全に同意なのだが、と肯定しつつも言葉を濁す北斗へ、二階堂が取りすがった。
「北斗、俺らはさっきの行動を改める。あんなふうに、自分と同種の人間だけで自分に都合の良い結論を出し、そこに逃げ込むようなことを、俺らはもうしない。だからどうか、あの人が顔を赤らめたことへの推測を、俺らに聞かせてくれ!」
北斗は困ったような、もしくは作戦が大成功してほくそえんでいるような、そんな複雑な表情を浮かべた。
「いや、お前らの言い分はもっともだし、二人がそう言うなら俺も推測を話す事にやぶさかではないが、なにぶんもう」
北斗は右手を持ち上げ何かを指し示し、言った。
「二階堂の家に着いちまったから、話は無理だな」
「うっぎゃあ~~!」
「何てこった~~!!」
僕と二階堂は今度こそ本当に頭を抱え、己の不徳を責めた。
そして僕らは時計を確認しつつ、兎にも角にも三つの結論を出した。
一.紫柳子さんが新忍道をしているか否かは不明だが、もししているなら、本部チームに加わる技量を体得していると考えて間違いない。
二.刀と銃は互いの得意不得意を補完し合う関係にあるため、刀が利用可能になれば、まったく新しい3DG攻略法を開拓できる。
三.そしてその先駆者たるべきは、日本の新忍道本部をおいて他にない。
この三つを北斗が超高速タイピングし保存した時点で、時刻は午後五時二十五分。目の前にある二階堂邸の門扉を直ちに潜れば、五時半までに帰宅するという約束を違えることは避けられるはず。
僕らは飛び込むように、二階堂家の敷地へ駆け込んだのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】
道雪ちゃん
ファンタジー
2024年の年末、世界中に突如ダンジョンが出現した。
大学生・三上ひよりも探索者になることを決意するが、与えられた職業は――世界で一人しかいないユニーク職「Lv.1チンピラ」。
周囲からは笑われ、初期スキルもほとんど役に立たない。
それでも、生き残るためにはダンジョンに挑むしかない。
これは、ネット住民と世界におもちゃにされながらも、真面目に生き抜く青年の物語。
※基本的にスレッド形式がメインです
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる