僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十四章

ステータスボード、1

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 二十四時間さかのぼった、昨日の午後六時過ぎ。
 場所は神社の台所の、夕飯のテーブル。
「眠留、あんた私達にナイショで楽しい事してるんだって?」
 人の悪い笑みを浮かべた昴が食事の手を止め、誤解を招く表現をあえてしてそう言った。
 と、頭の中で考えた途端。
「失礼ねえ。人の悪い笑みって何よ」「あのね眠留くん。楽しい事を秘密にされた私達の気持ちも、汲んで欲しいな」「コソコソするなんて、お兄ちゃんイヤラシイ!」
 三人娘の罠に、僕はまんまとハマってしまったのだ。そう、それは罠だった。しかも、僕の敗北が100%確定していた罠だった。負けを逃れるには、昴の人の悪い笑みを目にするや、
 ――昴はこの笑みをわざとしているのだから、頭の中ですらそれを考えてはならない
 と看破する必要があったため、残念脳味噌の僕には敗北の未来しかなかったのである。ならば残されているのは、これ以上の愚を重ねない事だけ。僕は新素材刀に関する一連の出来事を、夕飯の話題提供を兼ねて披露した。すると思いがけぬことが起こった。あろうことか、
「眠留はそんなに楽しい事をしていたのか、けしから~~ん!」
 と、祖父が演技抜きで声を荒げて僕を叱ったのである。正直、これにはいささか衝撃を受けた。いや、いささかどころではない、巨大な衝撃に僕は苛まれた。なぜならひょっとすると僕は今この瞬間、生まれて初めて祖父に叱られたかもしれなかったからだ。さすがにそれは無いだろうと記憶をさらうも、声を荒げて叱られた記憶を思い出せず、僕は荒波にもまれた小舟のごとき状態になってしまった。それを、不憫がってくれたのだと思う。三人娘は慌てて僕を慰め、その優しさに感激した僕は涙を滔々と流し、そしてふと気づくと、新素材刀によるモンスター戦が確立したら三人娘にもそれを楽しんでもらう約束をいつの間にか交わしていた。心に疑問がよぎる。この約束を交わすことが、罠の最大かつ最終的な目標だったって事は、ないかなあ・・・・
 という真相に辿り着きそうになった僕を阻止しようとしたのかは定かでないが、新素材刀に関するアレコレを三人娘が知った経緯を、昴が代表して話してくれた。
 それによると、僕の交友関係に比較的詳しい剣道部のお姉様が、薙刀部と撫子部のお姉さま方に今日の夕方、連絡を入れたとの事だった。
「私と輝夜は薙刀部の六年の先輩から、美鈴ちゃんは撫子部の六年の先輩から、今日の部活後に呼び止められたの。剣道部の友人が眠留に良くしてもらったそうだから、私達もあなた達にお礼を言わせてって、先輩方は仰ってね。六年生にもなると部が違っても皆さんとても仲が良いらしくて、先輩方は私達に、真摯に謝意を示してくださったわ。という訳で、私達からも言わせて。剣道部の件、ありがとう眠留」
「眠留くん、ありがとう」「ありがとうお兄ちゃん」
 去年の四月、騎士会に入会した僕は、真田さんと荒海さんの友人の先輩方から大層良くしてもらった。それは今年も変わらず、黛さんの友人の伊達さん達に僕はとても可愛がってもらっている。僕だって友人が大切にしている後輩を大切にするけど、六年の先輩方がそうだったように、三年後の僕はその想いがずっと強くなっているに違いない。そんな、今よりちょっぴり成長した自分を、「ありがとう」を介して三人娘に見せてもらえた気がして、僕は視界を覆いそうになる霞としばし戦わねばならなかった。
 まあでもそこは、さすが三人娘なのだろう。娘達は剣道の素人が新素材刀を手に3Dモンスターと楽しくかつ安全に戦うアイデアを次々披露することで、僕が霞みと戦う時間をさりげなく作ってくれた。と言うかそのアイデアのどれもこれもが秀逸だったものだから、僕は戦いを早々に切り上げて三人に加わり、そして四人で知恵を絞り合った結果、ある試みをしてみる事となった。その試みには高度な情報解析とプログラミング技術が必要だったため輝夜さんに発表してもらいたかったのだけど、三人娘にウルウルの眼差しで頼まれて僕に拒否できる訳がない。僕は諦めて、それを発表した。
「火曜日の一限終了までに、『精度』『剣速』『反射神経』『瞬発力』『持久力』の五項目からなるステータスボードを製作し、選択授業に使ってみる事になりました」
 そう僕らは、ステータスボードを作るアイデアを採用したのである。それは小説の中に登場するものに酷似した、右手の人差し指と中指を縦に振るだけで2D映像として手元に表示される、五項目からなるステータスボードだった。
 
 精度は、刃筋の左右の振れ幅。
 剣速は、モンスター切断時の切っ先の速度。
 反射神経は、モンスターの動きに対する反応速度。
 瞬発力は、体の移動速度。
 持久力は、上記四項目の持続力。
 
 これら五項目を数値化して成長を実感してもらうと共に、
 ―― モンスターの撃退ステータスの目安
 を設けることで、モチベーションを保ってもらおうと僕らは考えたのである。その大元となる最弱モンスターとして、架空の悲想を僕らは設定した。中心に1センチの核を持つ直径10センチのその悲想は、秒速1メートルで人の鳩尾めがけて真っすぐ飛んで来る。この悲想は体当たり以外の攻撃をせず、新素材刀の攻撃を避ける事もない。そんな架空の最弱悲想は、秒速2メートルの剣速と振れ幅5ミリの刃筋で中心核を切断すれば討伐可能。その悲想を二秒に一体ずつ、連続三体倒せるステータスを、

  精度10
  剣速10
  反射神経10
  瞬発力10
  持久力10

 とし、これを基にゴブリンやオークの撃退ステータスの目安を作ってゆく。という試みを、火曜の一限終了時までに完了させると僕は発表したのだ。と言っても、ステータスボード製作の圧倒的中心人物は輝夜さんであり、比率にすると輝夜さん八割、僕一割、昴と美鈴を合わせて一割といった所だろう。よって輝夜さんを製作責任者にするのが普通なのだけど、
「眠留、あんたが選択授業の責任者なのよね」
「私はあくまで眠留くんの手伝いをするだけよ」
「お兄ちゃん、ここはカッコイイとこ見せないと」
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