『不倫セラピ ~20歳年下の彼に溺れる夜~』

一条柚希

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第一話

―その指先は、私を女に戻した―

こんな場所で、人と待ち合わせをするなんて。
しかも、その相手が——若い、男性セラピストだなんて。
自分の行動を誰かに説明しろと言われても、きっと言葉にならない。

改札を出て、少し緊張気味にスマホの時刻を確認する。
午後の駅前は、人であふれていた。
だけど私は、その喧騒のなかで、ひとつだけ非日常の鼓動を抱えて立っている。

「柚希さん、ですよね?」

声をかけられて振り向くと、そこにいたのは——まるで若手俳優のような青年だった。
スラリとした長身、柔らかそうな髪、笑うと目元がくしゃっとなる。
その笑顔の奥に、妙に大人びた空気が漂っていて、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

「はじめまして。本日担当するリクです。……緊張されてますか?」

その口調は柔らかく、優しさとプロ意識が同居していた。
けれど、その瞳が一度、私の全身をすっと見たことに気づいてしまった。
たったそれだけで、自分が“女”として見られた気がして、思わず目を逸らす。

「大丈夫です。最初はみなさん、そうなんです。少し歩きますが、近くのホテルまでご案内しますね」

——ホテル。
この言葉を、日常の口に乗せるのは、いつ以来だろう。
若い男性と二人でラブホテルへ向かう。
しかも、施術という名の、密やかな行為を受けるために。

けれど私は頷いた。
自分から予約を入れ、足を運んだのだ。
それは、誰に求められたわけでもない、私自身の選択だった。

「こちらです」

駅から少し離れた、目立たない場所にあるスタイリッシュなホテル。
どこかビジネスホテルにも似ている外観に、わずかな安堵を覚える。

フロントでリクが手際よく手続きを済ませる間、私はその背中をじっと見ていた。
黒いTシャツの下に隠れた広い肩。
あの腕で、私はこれから触れられるのだと想像すると、膝が少し震える。

エレベーターに乗ると、空気が静かになった。

「不安なことがあれば、いつでもおっしゃってくださいね」
「……はい」

気の利いた返事はできなかった。
けれど、彼の手がそっと私の荷物を持ってくれたことに、胸の奥が少し熱くなった。

部屋に入ると、ふわりと香るアロマの匂い。
リクは手慣れた動作でタオルやオイルの準備を始め、やがて振り向いて言った。

「じゃあ、始めましょうか。……今日、ぜんぶほぐしていきますね」

その言葉に、体より先に、心がほどけていくのを感じた。

私は、施術ベッドの上に静かに横たわる。
ガウンに着替え、襟元を少し開いたとき、彼の手が、そっと肩に触れる。

その瞬間、身体がビクリと跳ねた。
——ああ、こんな感覚、何年ぶりだろう。

“女”として見られることを、もう諦めていた。
鏡を見るたび、くすんでいく肌を言い訳にして。
夫から求められなくなったのは、年齢のせいだと、自分に言い聞かせていた。

でも。

この若いセラピストの指先は、
そんな私の理性も、誤魔化しも、静かにほどいていく。

胸元のすれすれをなぞるように、滑る指。

「こことか、触れられるの久しぶりですか?」

耳元に落ちてくるその声に、思わず息を詰めた。

ああ、ダメだ。
私はもう、戻れないかもしれない——。
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