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1章ー記憶の旋律ー
最初の出会い
しおりを挟む「素敵なメロディー! なんて歌?」
振り返ると、同い年くらいの女の子が滑り台の階段に足をかけて、こちらを見ていた。
「え、あ……オリジナル……」
「すごい! 自分で作ったの?」
「うん……」
彼女は目を輝かせながら近づいてきた。
しばらく俺をじっと見つめてから、「うーん」と考えるように首を傾げ、思い出したようにパッと手を打った。
「あっ!たしか隣の家の……怜央くんだよね? 私のこと、わかる?」
「え?」
困惑する俺に、彼女は自分を指さして言った。
「な・ま・え。私の!」
「えっと……ごめん」
「もー、覚えてよねっ。鈴!私、如月鈴っていうの!」
思い出した。引っ越しのあいさつで、一度だけ顔を合わせたことがある。隣の家の女の子だ。
そう思った瞬間、彼女――鈴は右手を差し出して、思いがけない提案をしてきた。
「ねぇ、一緒に音楽作らない?」
「音楽……?」
「うん。私、歌詞は書けるんだけど、メロディーを作るのはどうしても無理だったの。だから――私が作詞、怜央くんが作曲!」
「俺が……作曲?」
「そう! 楽しそうじゃない?」
「いや……でも、俺は音楽の才能なんてないよ。俺の音楽なんて、下手くそだから……」
“下手くそ”――父さんの言葉が頭をよぎる。
心のどこかで、まだ引きずっていた。
自分の作った音に、自信なんて持てなかった。
けれど、鈴は力強く言ってくれた。
「そんなことない! 私は怜央くんのメロディー、すごくいいと思う!」
「え……?」
「私は好きだよ。もっと聴きたいって思ったもん」
その笑顔に、目が釘付けになった。
あたたかくて、まっすぐで――初めて、認められたような気がした。
胸の奥に、何かが強く響いた。
初めて感じる、不思議な気持ちだった。
「やろう!ねっ!」
差し出された右手を、俺は迷わず強く握り返した。
空が赤く染まるその瞬間、俺の中にも、真っ赤な何かが芽生えた。
「そういえば、なんでこんなところにいるの?家から結構遠いよね」
「それは……」
俺は、メロディーを父さんに聴かせたこと、下手くそだと言われたこと、全部を話した。
鈴は一言も口を挟まず、じっと俺の話を聞いてくれた。
話し終えるころには、なんだか情けなくなってしまって、俺はうつむいた。
どう声をかけてほしいかなんて、自分でもわからなかった。
そのとき――手に、ぽつんと水滴が落ちてきた。
「……雨?」
顔を上げると、涙を流している鈴がいた。
「えっ、な、なんで?」
「だって……すっごく悲しいもん。怜央くん、頑張って作ったのに……」
ああ、鈴は――俺のために泣いてくれているんだ。
鈴は俺の手をぎゅっと握って、真剣な顔で言った。
「絶対、絶対見返してやろうよ! 褒めてもらおう! 怜央くんの曲はすごいんだって、世界にだって伝えてやろう!」
「世界って……ずいぶん大きな夢だね」
でも、不思議と、その言葉に胸が熱くなる。
悔しかった。認めてほしかった――本当に。
視界が、滲む。
「やってやる……!父さんよりすごくなって、見返してやる!」
「うんっ! そうと決まれば――」
「うわっ!」
突然、鈴が俺の背中を勢いよく押した。
涼しい風が涙を拭い去り、同時に、俺の心も少しだけ軽くなった気がした。
砂場に着地した俺は、あとから滑ってきた鈴に手を差し出す。
「俺たちの目指すのは“世界”だ! 作曲は任せろ。絶対いい曲作ってやる!」
「うんっ!作詞は私に任せて。よろしくね!」
いつのまにか、あたりはすっかり暗くなっていた。
夜空に浮かぶ星の輝きが、俺たちをやさしく照らしていた。
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