16 / 34
1章ー記憶の旋律ー
認めて欲しい
しおりを挟む「最近、音楽をやっているそうだな。」
いつも通りの朝食のはずだった。
学園が夏休みに入り、久しぶりに家族全員が揃った朝の食卓。けれど父のその一言で、胸に広がっていた幸せな気持ちは一瞬で吹き飛んだ。
……どこから情報が漏れたのだろう。さすが、この国を動かす宰相。侮れない。
「しかも、楽器を触るだけでなく歌まで歌うとはな。」
「あ、あの、少しだけ……興味が出てきて……」
「それは、将来に必要なことか?」
鋭い声が、胸の奥を貫く。
言い返せなかった。貴族令嬢としての務めは、家の名誉と地位を高めること。そのための教育を小さな頃から受けてきた。音楽は、そこに含まれていない。
「必要ないならやる意味もない。やめろ。」
その言葉が、重くのしかかる。
「やめろ」という父の声が頭の中で何度もこだまする。
……そうだ。音楽なんて、この先必要ない。
ほんの少し、今だけ興味があるだけ。
だから……
「───お言葉ですが、父上。私は、音楽をやめるつもりはございません。」
「……なんだと?」
父の険しい視線が突き刺さる。けれど、私は目を逸らさなかった。
生まれて初めて父に、反抗した。
「確かに、貴族令嬢に音楽は不要かもしれません。ですが私はその素晴らしさに触れてしまいました。もう、知らなかった頃の自分には戻れません。どんなに否定されようと、私は音を奏でることをやめません。」
重たい沈黙が部屋に流れる。
その静けさを破ったのは、母だった。
「まあ……この子がそこまで夢中になれるものに出会えたなんて。私は嬉しいわ。自分の気持ちをはっきり言えるようになったのも、立派な成長だと思いますよ。」
「そうだよ父さん!リリーは音楽の話をしてるとき、すごく楽しそうなんだ。やめろ、なんてあんまりだよ!」
母と兄が、私のために声をあげてくれる。
父はしばし目を閉じ、そしてゆっくりと口を開いた。
「……そこまで言うのなら、私を納得させるだけの音楽を奏でてみせろ。」
「……納得、ですか?」
「ああ。必要ないと思えば、すぐにでもやめさせる。────ちょうど一週間後、国王陛下とともに学園へ視察に行く予定がある。その場で演奏してみせろ。」
「なっ……!父さん、それは無茶だよ!護衛や関係者で、かなりの人数になるはずだ。リリーがそんな大勢の前で――」
「それほど口答えしたのだ。できるはずだろう?」
父の瞳が、私をまっすぐ射抜く。
漆黒に若干青みがかった父の目を見て思う。
……この瞳。こんな色をしていたんだ。あまりに見なかったせいで、忘れていた。
これは、最初で最後のチャンス。やっと、父が私を"見た"。
「……わかりました。やります。」
「リリー!?」
「無理しないでいいのよ……?」
ごめんなさい。
せっかく止めてくれているのに、私は……
けれど、伝えたい。父上にも、私が出会ったこの音楽の素晴らしさを。
「大丈夫です。言ったからには、やり遂げてみせます。音楽の力を、証明します。」
⸻
「――というわけで、協力してくれない?」
0
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界
小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。
あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。
過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。
――使えないスキルしか出ないガチャ。
誰も欲しがらない。
単体では意味不明。
説明文を読んだだけで溜め息が出る。
だが、條は集める。
強くなりたいからじゃない。
ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。
逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。
これは――
「役に立たなかった人生」を否定しない物語。
ゴミスキル万歳。
俺は今日も、何もしない。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
デイリーさんに叱られる〜転生先を奪われた悪役令息は、デイリーミッションで世界の秘密を知るようです〜
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
いじめっ子である八阪直樹を助けようとして死んだ桐野佳祐は、八阪直樹とともに転生することになったが、八阪直樹に転生先の神の使徒の座を奪われ、別の体で転生することになってしまう。
その体は生まれながらに魔王復活の器の役割をになう呪われた期限付きの命だった。
救いの措置として、自分だけに現れるデイリーミッションを使い、その運命に抗う為、本当の神の使徒として世界を救う為の、佳祐=シルヴィオの戦いが今始まる。
※こちらは1ヶ月の間毎日連載致します。
1ヶ月経過後、金土日更新となる予定です。
許可を得て転載しているものになる為、取り下げする場合があります。
弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜
秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。
そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。
クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。
こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。
そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。
そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。
レベルは低いままだったが、あげればいい。
そう思っていたのに……。
一向に上がらない!?
それどころか、見た目はどう見ても女の子?
果たして、この世界で生きていけるのだろうか?
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜
あいみ
ファンタジー
亡き祖母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。
困っている人がいればすぐに駆け付ける。
人が良すぎると周りからはよく怒られていた。
「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」
それは口癖。
最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。
偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。
両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。
優しく手を差し伸べられる存在になりたい。
変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。
目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。
そのはずだった。
不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……?
人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる