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ひとつめ【自殺した親戚霊のお話】

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難波しぶ子はその日、両親と普通にリビングで談笑していた。

よくある日常のひとこま。

リビングには明るい笑い声が響き、暖かな平和な空気が流れていた。


突然、しぶ子の脳内に、とても小さい頃のしぶ子が、パン工場にいる景色がみえはじめた。

寮みたいな1室には二段ベッド。

刑事みたいな人が、「このベッドの下で遺体は発見された」とか、そんな話をしている。

場面が切り替わり、

パトカーに乗ってはしゃいでいるしぶ子の姿。
工場の人からは「これ食べてね」って食パンを貰っている場面。

少し気になったしぶ子は、見えた景色を親に話をしてみた。

でも、「そんな記憶はない」と言う……

わざど黙ってくれてるのかな??とも思ったけれど、かなり気になってきてしかたがなくなり、詳細を更に話してみる事にした。

「パン工場で働いていた親戚が、昔、その寮の二段ベッドの下で自殺したはず。記憶にない?」


すると、急に思い出したのか

「あぁ!あった。すっかり何十年も前の話で忘れていたけど、でもそんな…当時は小さすぎてあなたはさすがに覚えてないはず??」


すると、親の横にその親戚霊の男性が現れた。


自殺をしてからかなり経過するのに…
まだ成仏できてないのか………


しぶ子は、さらに深く波長を合わせた。

茶柱のたつ、湯気があがる緑茶の映像が脳内を流れた。

「その人が今来ている。どうも、温かなお茶を飲みたいみたいだから、お茶をいれてみよう」

そしてすぐ、急須に茶葉と熱いお湯を注ぎ入れ、テーブルに置くと、皆で手と手を合わせた。


でも、それがどうしても届かない……
どうして………??


すると、色々な感情がなだれ込んできた。


自分はここにいる……
気づいて……自分はここにいる……

小さい頃のしぶ子に、その親戚の記憶は一切なかった。記憶があるはずの親ですら、話すまで、何十年の時の流れの中では、既に記憶から消えていた。

人は忘れる生き物だ。
いい意味でも悪い意味でも、忘れてしまう生き物だ。

「私はこの親戚の方の記憶がないからダメみたい。少しでいいから思い出して!」

親は、色々記憶の糸を手繰り寄せてるようだった。しぶ子は様子を伺った。

すると、ゆっくりその親戚は消えていった。。
でも、それは成仏の消え方ではなかった。

壊れてしまった色々が、少しだけ癒されただけで、時間が流れれば流れる程に、修復はとてもとても困難になっていく。

そのあと、いくら探してもその親戚霊の姿を
見つける事はできなかった。


死んだら楽には決してならない。
それは、普通に天寿を全うしてもそう。

死んだあとの方が、私が視えてる世界的には、生きてるより数千倍大変そうだったりする。

それを知れば知るほどに、学べば学ぶほどに、人生がどれだけ地獄でも、血を吐くくらい辛くとも
私は長生きしたい!
(あちらに帰りたくない!
恐ろしく働かないとだめなのはわかってる!!)




そして何よりも


自殺は絶対に


絶対にしてはいけない。



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