海人と柊~女装男子~

なにわしぶ子

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21話~ハヒコの話~

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この周囲にはムラがいくつかあって、それらをひとつに束ね、ひとつのクニとなっています。

元々、このムラには王がいて、この土地を束ねていたんですが、病で亡くなりました。すると、戦が絶えず起きるようになってしまったのです。

ムラの者みんなで、これからどうしようかと頭を抱えていた時でした。目の前に突然、見た事のない不思議な女性が現れたのは。

話を聞くと、とてもおかしな事を言われるので、
最初は敵国の策のひとつかと、かなり警戒もしたのですが

ちょうど私がその時に、戦で負っていた左腕の傷を見つけると、持っておられた何か布のような物をつけてくれて、
そうしたらなんと!!翌日には不思議な事に、傷が綺麗に治っていたのです。

私はとても驚いて、これはおてんとう様の導きに違いないと。
新たな王を遣わしてくださったのだと、そう思いました。

そこで、ムラ中で相談をし、近隣のムラを束ねるクニの、新たな王になってもらう事にしたのです。

その話をヒメコ様にすると、自分は行く場所もないからとても有難いと言って頂けて、ただ、いくつか条件を言われました。

それは決して、自分が人前に出ないように取り計らってほしいという事。

住居には私以外、誰にも近寄らせないで欲しいという事。

その上でなら、自分の持つ力や知識で、この土地の平和な生活を維持出来るだけ様にしたいと思うとそう言ってくれました。

あと……。

時間がかかっても、いつか魏へ渡りたいと。
そこに会いたい人がいると、その協力をしてほしいという事でした。

まさか、海の向こうのクニにお知り合いがいるとは。
同盟を結ぶは、強力な後ろ楯になる。

私はその交流の深さにも驚いて、その条件をのむと同時に、女王に生涯遣えていくと心に誓ったのです。




「それで、魏にはもう行かれたんですか?」

話を聞いていたJが尋ねた。

「それから、まずはヒメコ様のお告げを受けて、その通りの船を作りはじめました。
時間がかかってしまいましたが、なんとか最近になり形にする事ができて、長旅も出来るぐらいのものになったのです。
それで今回、魏に使者を送る事になり、少し前に船で旅立った所で、今頃は、陸にあがっている頃合いかと。

使者の者には、ヒメコ様の会いたい方、探している方の目の特徴を知らせ、ヒメコ様と同じ色の目、目の中に斑点をもつ者がいないかを探ってくるように伝えてあります。」

「なるほど、爽もヒメコさんと同じく、目にチップが入ってるはずだもんな。言葉通りの目印って訳か。」

海人が、食事を終え満足した顔でそう言うと、Jが険しい顔つきで口を挟んだ。

「待ってください。ヒメコ様がこちらにきた時の年齢、確かまだ若かったはずですよね。
魏に使者を送るのに、そんなに時間かかかったんですか?
推測で申し訳ないですが、ヒメコ様を見たところかなりな時間の経過を感じます。」

「船作りにかなり時間が必要でした。ヒメコ様のお告げ通りに、なかなか作る事ができず、あと、隣の敵国が海を渡る邪魔をして
なかなか思い通りにならなかったのです。」

「そんな、その間ヒメコ様はじゃあずっと?
ここで王として過ごしてきたと?」

Jはハヒコを見つめながら、質問を投げ掛け続けた。

「はい、王として、本当に皆から慕われ
クニは更に大きくなりまとまっていきました。
全てはおてんとう様の化身である、女王のお陰なのです。」

「でも、魏にヒメコ様は行きたいと、そう言わなかったんですか?」

「言われましたが、私達がそれは困るとお願いをしました。
王が少しでも不在とならば、また戦が激化し
沢山の血が流れる。それは避けたいと話すと
ヒメコ様は残るとそう言ってくれました。」

「それでは身体をはって過去へ来た意味がない。」

Jは、ハヒコの話を聞いて、納得がいかない感情を
隠す事なく表面に出し始めた。

「J落ち着いてよ。使者の人が爽を見つけてくれるかもしれないしさ。その報告を楽しみに待とうよ。」

海人が、Jの様子を察知して宥める様に声をかけた。

「海人さん、そんな簡単にいかない事は、僕たちが一番わかってますよね?」

「そ、それは……。」

Jは、もはや泣きそうにすらなっていた。
そんな風に言われると、海人はもはや黙りこむしかなかった。

「ヒメコ様は長い年月の中で、大切なものがきっと増えてしまったんです。
自分自身が行く事を諦めるほどに。
おそらく、目の特徴だけでは、使者の方々が爽さんを見つける事は困難だと思います。

今そこにいるかもわからない。それなりの探索する技術力が必要です。
ヒメコ様も、その辺りはおそらくわかっているはず。既にもう、諦めているのかも。
でも、僕は諦めてほしくない。」

「それは俺も同じ気持ちだよ。そして俺も、柊を
絶対に諦めないさ。」

Jはコクりと頷いた。

「僕と海人さんがこの時代に遭難した事は何か意味があるのかもしれませんね。
爽さんを見つけろって事なのかも。
そして本来生まれた時代に、爽さんとヒメコ様を還すんです。
すると、大きく未来が変わるのかもしれません。
柊さんの未来も変わるのかもしれません。」

「根本の禁忌をやり直さなければ、その先の禁忌はやり直しがきかないって事か。
一緒に魏に俺達が渡ればなんとかなったかもだけどさ。
でも、船はもう出た後で、もう今頃使者団は陸なんでしょ??
今から合流もできないし無理だよな。」

「大丈夫です。僕に考えがあります。
僕に任せてください。」

すると、ふたりのやり取りを呆然とみていた
ハヒコが、やっと口を開いた。

「あのう……ところで……聞いてませんでしたが
お二人はどこからこられたんですか?」

「あぁえっと、なんて言ったらいいのかな…
えっと………。」

Jが言葉を選びかねていると、海人が満面の笑顔で、ハヒコに向かってこう言った。

「ミライって大きなクニがあってさ、そこから俺達は来たんだ。
おてんとう様の導きで、化身である女王と同盟を結びたくてね。」

「おぉ……!!なるほど、そうでしたか!」

ハヒコが感激している姿を、Jが困り顔でみていると

「でも、あながち間違いじゃないだろ?」


海人はJに小声で囁くと、小さくウインクをしてみせた。

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