海人と柊~女装男子~

なにわしぶ子

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25話~軍師殿のお茶~

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軍師は、Jを部屋へ招き入れると、お茶を振る舞ってくれた。

やはりこの国の方が文明が進んでいる。
温かなお茶を茶器で頂きながら、Jは旅の疲れが癒されるのを感じた。

「ところで、海の向こうのあなた様がこちらの国の言葉をどこで学んだのですか?」

軍師が、Jにそう尋ねた。
Jが、返事を少し思いあぐねいていると
その様子に確信したのか、更にこう続けた。

「さてはあなた、どこか遠い所からきたのでしょう?これは私のあくまで勘だが、多分……ミライとかいう所から。」

Jの茶器を持つ手が止まった。
そんなJにお構いなしに、軍師は尚言葉を続けた。

「実は、あなた様みたいな人間に会ったのが
私は二人目なんです。」

軍師はお茶を飲みながら、笑顔でJをみつめた。

「二人目ってどういう?」

すると突然、その言葉を遮るかのように、一人の男性が駆け込むかのごとく部屋へと飛び込んできた。

「軍師殿!いつになったら私を使者の方々に会わせてくれるのですか!」

髭を生やし、禅(たん)に身を包んだその男性は、Jの姿を見つけたその瞬間

「こ、これは失礼致しました。」と、慌てふためいた。

「そろそろお前が来ると思っていた所だ。念願の使者の方が、此方の方だよ。」

軍師がそうその男性に説明をすると、袖の中に隠していたJの腕時計端末が微振動をはじめ、Jにしかわからない合図を体中に送信してきた。

まさか……この人が…………?
Jは思わずその場に、勢いよく立ち上がっていた。

それを挨拶の準備と受け取った男性は、笑顔で近づいてくると
拱手(きょうしゅ)のポーズをした。

「私は、ソウソウと申します。お目にかかれて光栄です。」

Jが見つめたその男性の両目には、女王と同じ、斑点があった。
それに、イメージを再現したホログラムでの顔形にも近かった。

「あ、あの。はじめまして!あの、僕……あぁその前に、こ、こうでいいのかな??」

Jはしどろもどろになりながらも、拱手(きょうしゅ)のポーズをしてみせた。

「大変お上手ですね。是非、使者の方とお話を
したいと思っていた所なのです。」

爽は、屈託のない笑顔を向けると、一緒の席へとついた。

軍師が、茶器をひとつ持ってきて、爽の前に淹れたお茶を置くと

「使者殿。
あなた様はわざと流暢な此方の言語で私に返事をされたでしょう?そして恐らく、それは何かを探っていたからだ。
最初は情報を盗む為かとも思って見ておりましたが、恐らくは、このソウソウを探していたのでしょう?違いますか?」

Jは流石に怖くなってきた。
過去の人物にここまで見透かされるとは
思っていなかったからかもしれない。

「えぇ、まさにその通りですが、どうしてそこまで。」

「私は軍師ですからね。先の先の、そのまた
先まで見通す事が出来なければ、軍師等やれてはおらぬのです。」

にこやかに茶を飲みながら語る軍師に、Jが感心していると

「私を探していたとは、どういう事ですか?」

爽が不思議そうに、Jに尋ねた。

「一から説明してもよいのですが、軍師様は
既に色々を理解されているようですし、
まずはこれを見ていただけますか??その方が恐らく話が早い。」

Jは手のひらを上に向けて、女王のホログラムを
映し出した。

「これは一体………。」

さすがの軍師もこれには驚いて、身を乗り出して
ホログラムをみつめた。

「この方が、今回使者を送った我がクニの女王の
現在の姿です。少し時間を戻していきます。」

Jは、女王が爽を追いかけた年齢まで遡り、ホログラムを映し出していった。

「ま、待ってください!!
何故ここに彼女が!?彼女は未来の世界で生きているはずです!!」

爽が、その姿が誰なのか気づいたらしく理解出来ない様子でJに問い掛けてきた。

Jは、手のひらを閉じてホログラムを消すと軍師の方を見た。

「私はソウソウから既に色々聞いています。
勿論、他言はしませんから、私の事は気にせず
どうか話をしてやってください。」

Jは黙って頷くと、爽が更に問い掛けてきた。

「あなたは上層部の方ですか?勝手に時を
遡った私を捕まえに?もはや、それでも構わない。

私はずっと人を探しています。ご存知かわからないが、遭難者の女性です。その人を助けてくれませんか??
もし、私みたいに運がよければ、まだそちらのクニで生きているはずなんです。

あと、わからないのは、彼女が何故この時代にいて、おまけに王になどなっているかだ。」

Jの事を、自分を捕まえにきたと勘違いした爽は
まず遭難者の救助を懇願した。

爽の人の良さを感じながら、Jは自分も遭難者である事。
もう1人、海人という遭難者がいる事。
ふたりは女王に助けられたという事。

女王が爽を追いかけてこちらの世界に来ていて
遭難女性を無事元の時代へ還したあとも
自分は今もこの時代に残り、
爽を探し続けているという事。

その女王の代わりに、自分が爽を探しに来た事などを最初から詳細に話して聞かせた。

「自分のせいだ……。取り返しがつかないことを
してしまった。」

話を把握した爽は顔を右手で覆い、ただただ泣き続けた。

すると軍師が立ち上がり、爽の肩に自分の
手を置いて

「今、汝は画れり」

と、静かな口調で言った。

「孔子の言葉ですね。その言葉通り、自分で見切りをつけちゃ駄目です!諦めるのはまた早いです爽さん!」

Jは、爽を励ますがごとく声をかけた。

「情けない姿をお見せしてしまって。
ただ、遭難女性の事は本当に気持ちが楽になりました。クニに戻られたら、感謝の気持ちをどうか女王にお伝えください。

そうですね。お互い今は立場があるので
すぐには無理でしょうけど、いつか、再会が叶えば。」

涙を拭った爽は、にこやかに笑ってみせた。

そんな爽の肩に手を置いていた軍師は、二回ほど軽く、子供をまるで落ち着かせるかの様に、肩を叩いたあとで

「でも、再会がお望みではなかろう?ご使者殿。」

と、Jを見透かした目で見つめながら言った。

「勿論、お二人をミライに戻したい。
それが望みです。」

軍師はわかったというように、深く頷くと

「此方に着いてきてください。あなた様に是非お見せしておきたいものがあります。さぁ、ソウソウも一緒に。」

そう言うと、すたすたと退室してしまった。


爽とJは残っていたお茶を一気に飲み干すと
後へと続いた。
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