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31話~器の大きさ~
しおりを挟む「私は嫌です!!」
爽の声がマシンの狭い室内に反響した。
全てを軍師に委ね、ひとまず女王の元へ帰る事にしたJは、帰る前に爽のマシンの確認をする事にした。
Jが来ている事を知った爽は喜びマシンへ駆けつけたものの、そこで初めて色々な策の話を聞かされ、納得がいかずそんな叫び声をあげたのだった。
「軍師殿はいわば恩人です。芝居でも敵対したくはありません。」
「気持ちはわかりますが……、あなたは本来この時代に生きてはいけない存在なんです。」
「分かっています、でも……こんな策は納得出来ない…。」
爽は、苦渋の表情を浮かべて黙りこんでしまった。
「僕も海人さんの担当になって、海人さんが柊さんの未来の姿に納得出来ない姿を、とても近くで見てきて、今ここにこうして居るんだと思います。
だから、納得出来ない事を無理に曲げて欲しいとは、僕の口からは言えません。でも……。」
Jはそう声をかけながら、爽のマシンの通信システムの修復作業を終えて、起動のスイッチを押した。
すると、壁面がスクリーンに変わり、映像が流れはじめた。
突然の事に爽が驚いていると、女王の姿が映し出された。
「爽……、元気と聞いて安心しています。これ……あの日かけてもらったブランケット。もうこんなにボロボロになってしまうぐらい、時が流れてしまった。
お互い大事な場所や人が増えてしまったけれど……あなたが生きていて良かった……本当に良かった……。」
女王が声を詰まらせ話せなくなった所で、映像は途切れた。
「こ、これは………。」
爽は呆然と、もう映像が消えた壁面を見続けた。
「此方へ来る前に、女王にお願いしてメッセージ映像を撮らせてもらったんです。再会出来るのはもう少し先になりそうだったので。」
「ブランケット、あんなの処分して良かったのに…。」
「爽さんに直接返したかったんですよ、きっと。」
Jは優しく語りかけた。
「昔からそうだった……。彼女はすぐに無理をする人なんです…。」
Jは黙って頷いた。
「律儀な優しい人なんです……。私の事なんて見捨たら良かったんだ……。」
爽の目から涙がこぼれ落ちていた。
◇
「爽さん、マシンも飛行が可能になった事ですし、軍師殿に相談して、一度女王に会いにいきませんか?」
Jが泣き顔の爽に、語りかけた。
「では、少し病で伏せっている事に数日致しましょう。」
背後からいきなり声がして、二人が振り返ると
軍師がマシンに乗り込んでくる所だった。
「もうすっかり手慣れたものですね。」
マシンは、景色に溶け込ませている、にも関わらず、中へ普通に入ってきた軍師を見てJは感心をした。
「まだまだ手探りですけど、多少は位置を覚える事が出来てきましたからね。そして、爽の作業を見るのは本当に楽しいのです。」
軍師は、好奇心の塊の様な満面の笑顔を向けた。
「では、僕のマシンで爽さんを女王に会わせに連れて行ってもいいですか?」
「はい、少しであらば病という事で私がうまく計らっておきましょう。」
軍師は即答をした。
「有り難うございます。マシンの修復も順調ですし、女王のクニと魏は、数分で移動できます。テスト飛行も兼ねて、少し行き来をしておきたいのです。」
「私こそお忍びで一度行ってみたいものですね。見聞をひろめたい。」
「えぇ、近いうちにお忍びで是非。では今から早速向かいましょうか爽さん。」
「い、今からですか??」
流石に今すぐだとは思っていなかった爽が驚いていると、Jは早速身支度を整えながらこう答えた。
「善は急げと古の言葉が物語る様に、出来る事は今やっておかないと、いつ何が起きるかわかりませんからね。」
「そうですね……。いきなり過去で生きてしまったりとか、確かにいつ何が起きてもわからない。」
爽が自分自身を振り返りながら答えつつ、早速身支度をはじめた。傍らで軍師はそれをあたたかく見守った。
「軍師殿と敵対する策は、本意ではありません。でも、その策を演じる事が私の勤めなのかもしれません。」
俯きながら、爽は軍師にそう語りかけた。
すると軍師は、おもむろに傍へと寄り
無言で肩を二回叩いたあと、マシンから出ていった。
「器が大きな方ですね。」
Jはそう言いながら軍師の背中を見送ると、爽を自分のマシンに誘(いざな)い女王の元へと向かった。
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