MOON~双子姉妹~

なにわしぶ子

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45話~卵子~

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沙羅は暖と廊下でわかれてから、大和の部屋に戻ると、最近始めた勉強を再開した。

大和の部屋には、色々な端末や機器が溢れていて、使い方を最近詳しく教わった事もあり、沙羅の学ぶ意欲を自然に掻き立てた。

最近は、母親になる過程や、出産の仕組み、自分には母親が物心がついた時から居なかった事もあって、教わる事もなく知らなかった世界を、学びたい気持ちでいっぱいになっていた。

「勉強熱心だね」

気づくと、いつの間にか大和が背後に立っていた。

「大和に教わってから、とても学ぶ事が楽しくなってきたわ。今はこの端末から、細胞分裂について教わっている所なの」

「それならこっちの方がわかりやすいと思うな」

大和は背後から、沙羅の両手に自分の両手を重ねると、端末を操作しつつ、資料の引き出し方法のレクチャーをはじめた。

沙羅は大和から色々を教わりながら、自分の左手に重ねられた大和の左手をそっと見た。
そこには自分とお揃いの結婚指輪があった。沙羅は気づくとその指輪に見入っていた。

「沙羅、ちゃんと聞いてる?」

大和から尋ねられて、我にかえった沙羅は少し慌てながら、「聞いてるわ」としどろもどろに答えた。

「とりあえず勉強熱心なのはいい事だよ。またわからない事があったら聞いてくれたらいい。あと、今から検査をしてもいい?」

「また、血液検査?」

「いや、今度は奥の部屋にある装置で、身体全体を直接調べたいんだ。」

「わかったわ……」

沙羅は端末の勉強を一端終わらせると、大和の隠し部屋に一緒に着いて行った。

奥の部屋の階段を降りて行くと、相変わらずゴボゴボという人工子宮カプセルに満たす、その液体の音が耳についたけれど、沙羅は気にせず一緒に奥へと進んだ。

すると、そこには銀色の四角い装置が置かれていた。

「これは何?」

始めて見るその装置を目の前にして、沙羅は怖い気持ちが沸き上がってきた。

その気持ちを察した大和が、沙羅を安心させるかの様に笑顔を向けながら語りだした。

「この装置は色々万能なんだ。痛みもなく色々いわば、手術みたいな事が出来る」

「つまり、ここが小さな病院って事?」

「そうだね、沙羅のケアとかでは出来ない事専門って言ったらいいかな。例えば、卵子を取り出したり、逆に子宮に戻したりが可能だよ」

「直接、針を刺したりしなくていいって事?」

「正確にはそれをしているけれど、本人は気づかないままそれが出来るって言ったらいいかな」

「痛みがないのは、素直に有り難いけど……」

沙羅はその話を聞いて詳細はわかったものの、少なからず残る不安感に襲われながら、その装置に触れた。

銀色のその装置から、ひんやりとした温度が伝わってきた。

「とりあえずこの装置の中に横たわってもらっていい?全身を調べて問題がないなら、そのまま沙羅の卵子を卵巣から取り出したいんだ」

「卵子を??それは、中で眠っていたらすぐ終わる?」

「あぁ、少し時間はかかるけどね、横たわればすぐ眠ってしまうようになっている。終わったら俺があとでちゃんベッドまで運んでおくから、次に目覚めた時は沙羅はベッドの上だから安心して?」

「大和はずっとその間、傍にいてくれる?」

「今から少し詰めないといけない問題が出来て、遥に呼ばれてるんだ。それが終わればすぐに戻ってくるよ」

「そんな問題が?じゃあ…仕方ないわね」

沙羅は少し寂しそうに呟きながら、その装置の傍らに立った。

「じゃあそこに横たわって?」

大和は忙しく機器の操作をしながら、沙羅を装置に横たわらせた。

沙羅は隠し部屋の高い天井を黙って見上げた。
思っていたより中は、ベッドの感じに近く、そして暖くすら感じた。

「沙羅ゆっくり目を閉じてごらん」

沙羅は大和の言葉のままに目を閉じた。
その瞬間、何がそうさせたのかはわからないままに、意識が落ちていった。

大和はその沙羅の様子を確認すると、装置の蓋を閉じて、スイッチを押した。

その瞬間、装置の中に真っ白なガスが注入された。
真っ白になった装置の中で、何が起きてるのか全く見えない状況になったのを、大和は確認すると

「あとは、待つだけだ」

そう言い残して、隠し部屋を出ていった。


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