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60話~立ち昇る何か~
しおりを挟むレストランから先に出た李留と暖は
自室に向かっていた。
「思えば、もうここに来てかなり経ちましたよね。改めて暖さんがいて良かったです、きっと僕は今頃ホームシックになっていたはずです」
「それは俺より、真琴でしょ?仕事仲間だったわけだしさ」
「えぇ……勿論、真琴さん沙羅さんもそうですけど、やはり異性と同性は違いますから」
「まぁね、頼もしくないお兄ちゃんで申し訳ないけど、いつでも頼って?」
「有り難うございます!あ、妖精さん……」
李留は暖の背後に視線を向けるとそう言って、暖にもわかる様に、妖精のいる場所を指差すと、心配そうに駆け寄って行った。
「妖精さん、どうしたんです?泣いてるんですか?」
ただならぬ李留の様子を、暖は黙って見守った。
李留は、妖精と暫くコンタクトを取ると、
暖の方にやってきて、説明を始めた。
「よくわからないんですが……もう手遅れだって……」
「どうしたの?母星の話?」
「いやそれが……」
「それが?」
「ここだって言うんです………」
*
大和はゴボゴボという人工子宮の試作品に囲まれながら、砂を再度入念に調べていた。
「問題なし。流石に俺も休むかな……」
大和は椅子から立ち上がり、沙羅の眠る部屋へ向かおうとしたものの、また椅子に座り直した。
沙羅はぐっすり眠っていた。
物音を立てたら、起こしてしまうかもしれない。
今日はここで休むとするか……
大和は椅子を簡易ベッドになる様変形させると、照明を落とした。
デスク上の砂のケースと、デスクライトのピンク色の明りだけが、部屋をぼんやりと包みこんだ。
ブランケットを被り、身体を横向きにして
大和は目を閉じると、身体は疲れているのに
神経は高ぶっていて、なかなか眠りにはつけそうになかった。
思えば、月に来てからはずっとこんな調子だ。
沙羅のケアを受けた時以外は………
「沙羅……」
大和はおもむろに起き上がると、沙羅の眠る部屋の方向を見つめた。
沙羅の傍で眠れば、すぐ眠れるかもしれない……
物音に気を付けないといけないけど……
大和は沙羅の元へ向かおうと簡易ベッドから立ち上がると、ピンク色のデスクライトが照らす、デスクの方をふと見た。
「何だ……砂から湯気が……」
大和は慌てて、デスクライトのカラーをホワイト色に変えた。
砂からは何も立ち昇るものもなく、特に変化は無かった。
「まさか……そんな………」
大和は再度、ライトをピンク色に戻した。
砂からは何かしらが立ち昇り、そして空間に拡散されているようだった。
大和は慌てて、自分の右手で鼻と口を押さえた。
そしてすぐ、その右手をゆっくりと元に戻した。
「今更押さえてどうなる……大丈夫、策はあるはずだ」
大和はそう言うと、その湯気の正体を調べるべく一心不乱に調査を始めた。
自分の知識の中にこんな現象はなかった。
実際これが悪いものでないかもしれない、ただ、悪いものだった時には、それを防ぐ策は早急に出さなければいけない。
『大丈夫、俺は今生きている。きっと、何てことはない。それを早く証明して、今度こそ眠ろう、沙羅の傍で……』
大和は、もはや誰も手出しは出来ない程の、殺気めいた状態にすら見えた。
それを嘲笑うかの様に、砂からは何かが立ち昇り続けた。
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