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89話~通信室で~
しおりを挟む通信室に入った遥と大和は、並んだ椅子に腰をおろすと、早速母星へコールを送った。
色々な機械音の中で、遥は、通信室を見渡しながら懐かしい感情に包み込まれていた。
昔は毎日の様にここで、母星へ報告を送ったものだ。
最近は、母星で真琴からのコールを毎日の様に受けてきた。
そんな意味で、この部屋は遥にとって特別だった。
「思えば、沙羅と真琴の父親に俺は挨拶すらしてないんだよな。もう、今更遅いけど……今はどう?元気にされてるのかな……」
そろそろパネルに現れるであろう、ホワイトの登場を待ちながら、大和がポツリと呟いた。
「えぇ……沙羅と暖の眠る墓地のすぐ傍に住宅街が出来たの。そこで、一人で暮らしてると聞いているわ。真琴の婚約者の鞍馬さんが、よくしてくれてるみたいね……」
「そう………」
大和は短く答えたあと、黙り込んだ。
遥も、それ以上何も言わなかった。
コール音が繰り返される中、通信状態が悪いのか
ホワイトが多忙なのか、なかなか繋がらず
静かな時間だけが流れ続けた。
「さすがに、遅いわね……ホワイトは何をしているのかしら……」
「まぁゆっくり待つさ。あと、遥にお願いがあるんだけど……」
「何?大和がお願いなんて珍しい」
「ホワイトには、俺と真琴が戻ると伝えて、実際はまた4人と希望を連れて母星に還ってほしいんだ」
「真琴は?」
「真琴は俺と残るって言ってる……」
遥は深く息を吸い込むと、ゆっくり心の整理をしながら息を吐いた。
「つまり、沙羅と真琴のお父様に、希望を会わせればいいのね?でも、機関にバレない様には流石に無理だと思うわ」
「勿論、希望は遥達の傍の方が安心出来る。ただ、一度でいいから会ってほしいんだ、沙羅の子供に、自分の孫に……」
「それは、親心?しょうがないわね、あとは私に任せてちょうだい」
「有難う遥……」
ザザ……ザザ………
すると、パネル画面が歪み映像を映し出し、ホワイトの姿を徐々に映し始めた。
「待たせてしまって申し訳なかった。少し沙羅と暖に会いに行ってたものだから」
ホワイトは、そう言うと画面の中に、大和を見つけ少し驚いた様子を見せた。
「大和か………」
「あぁ……ご無沙汰してます、上層部のホワイトさん」
大和が刺々しく挨拶する様子に遥は慌てながら、
自分もホワイトに挨拶をした。
「シャトルから到着時に報告はしたけれど、改めて無事4人、月のステーションに到着したわ。準備が出来次第、大和と真琴には還ってもらうつもり。それでいいかしら?」
「それが本当なら、それでかまわない」
遥は、見透かされたかの様なホワイトの言葉に言葉を失った。もう既に大和の魂胆など、ホワイトにはバレているのかもしれない。
「じゃあさぁ、それが本当じゃなかったら?どうするの?」
大和は再度刺々しい口調で、ホワイトに質問を投げかけた。
「大和と真琴には必ず還ってきてもらいたい。私からはそれだけだ」
「ふーん、相変わらず意味がわからないな。またあれ?分岐が変わるってやつ?」
「そうだ……それ以上は話せない」
「俺もそれを理解出来ないわけじゃないんだ。でも、分岐での選択肢、それは結局、誰かにとってのどちらも正解でどちらも不正解。ホワイトはそうだと思わない?」
「確かにその通りだ」
「じゃあ、それでいいんじゃない?その時の心が決めた選択肢、それで。じゃないと、沙羅の死を馬鹿にされてるようで、俺は我慢が出来ない」
ホワイトは、暫く黙り込んだ後
「私は母星で、大和も真琴を待っている、以上だ」
それだけ告げると、パネル画面から姿を消した。
「大丈夫かしら……ホワイトはもう全部をわかってる、そんな口ぶりだったし、戻らないとやはり大変な事になるのかも……」
大和は、もう姿が見えなくなった画面を見上げながら、こう呟いた
「大丈夫、何とかなるさ」
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