18 / 19
chrysalis
少女は窓辺で微睡んで。
しおりを挟む
ーーー。
ーーーー。
ーーーしー。
ーそーーしょ。
あそびましょ。
…?
あ、たし…
アタシ…は…?
うまれたちっちゃなおんなのこ。
いまにもきえそなおんなのこ。
かのじょのいのちにせんれいを。
そのたんじょうにしゅくふくを。
あかんぼうにはななにんのあね。
おみずをくみにみんなでかけっこ。
…ここは?
てを…つないで…
がらすのみずいれひとつきり。
あたしのものだとおおげんか。
ななにんめのてにわたったひょうしに
そこなしいどにぽっちゃんこ。
…まわる。
…まわる。
ねぇ…あたしのてをとる
あなたはだあれ?
みんなびっくり。
おくちあんぐり。
あたふたあたふたちんぷんかんぷん。
みんなのとうさんもうまちかねて。
てを、ーー
はなす。
どうしたの?どうしたの?
あたしたちまるをえがいて
ずっとずうっとくるくるまわるの。
あなたがいなくちゃわたしたち
ちぎれてまっかにばらばらよ?
でも、でも…
「私、行かなくちゃいけないよ。
約束…したんだもの。」
このこ!このこ!わたしって!
ほんとうに?ほんとうに?
ふらふらふらふらひとりきりで?
くすくす。くすくす。
ゆらゆらゆらゆらあかりもなしに?
けらけら。けらけら。
「…ごめんなさい。
私やっぱりこのままは
どうしてもいや。」
……………………………………
……………………………………
……………………………………
……………………………………
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
「…さよなら。」
暖かい、光が、差し込む。
風に、カーテンが、ゆらゆら揺れる。
この身体をつつむ安堵に、こころを、委ねる。
そうしてゆっくり、瞼をあける。
白塗りの光景。これは、知らない天井。
私、ベッドであおむけでいる…
「あてっ…」
誰かの声。誰かの声。
私の病室、私の空間だから、
1人っきりにしてくれたって…
「いっちち…こんなにおサイホウって
難しかったかなぁ…」
…だれ…か…の、
こ…え…
「…カナ…ちゃん…?」
ガタッ…
椅子から勢いよく立ち上がる音。
彼女が、彼女が。
両手をベッドについて覗き込んでくる。
「気が付いたの?!冴綺りん!
まってて…今ナースさんよんでくるか、ーーー」
溢れる。溢れ出す。
あぁ、そっか…
私って…こんなにナキムシだったんだ…
「カナちゃん…!カナちゃん…!」
「えぇ?!どうしてそんなに泣いて…
何処か痛いところが…お薬のせいとか!
ええっと…ええっとぉ…」
あたふた、あたふた。
頭を抱えて歩き回る彼女。
ホントに…カナちゃんらしいや…
「あぁ!そんな顔クシャクシャにして泣いて!
え、えーと。あった!すぐ泣き止む100の秘伝書!
~いないいないばぁの基本が全て~…
い、いないいない…ばぁっ!」
それ、病室の本棚に置いてあった
子供をあやすための育児書でしょ。
「…ッフ、アッハッハ…!
ハッハッハッハ!」
「な、何よこれ!笑いはするけど
全然泣き止んだりしないじゃん!」
その後、情緒をグッツグツに煮込んだ闇鍋の如き
様相の病室に医療スタッフが駆けつけ…
覚醒後の検診が無事終了した。
病棟の清潔さをたたえた白い横開きのドアを開いて
緋翅水冴綺に割り当てられた室内に入る。
「冴綺りん、ホントにもう歩けるの?
可奈子車椅子押すよ?」
「いいの。リハビリにもなるしね。」
5日も眠ってたんだから無理しないでね。と
再び彼女は椅子について作業に熱を込める。
「カナちゃん、そんなになって何をいじってるの?
ここにいる間、ずうっとしかめっ面よ…」
「そ、そう?ホラ可奈子ってば不器用だから
マネージャーなのにみんな私に気ぃ使って
この手の仕事は回ってこなくって。」
見ると彼女の膝の上にはあの晩、
破れてしまったスカートが。
針を摘む指には絆創膏が彼女の白い肌を
覆い尽くすほどに張り付いていた。
「…ねぇ。カナちゃん、どうして
私なんかのためにそこまでしてくれるの?」
「いいの、いいの!冴綺りんが起きるまで
可奈子ヒマを持て余してたんだから。」
………
うつむく。
私はベッドの上。
最愛の親友が傍で付き添ってくれている。
とても、とても、幸せ。
それでも…
「いいや。あなたにこんな丁寧な献身を
受ける資格なんてない。
私、あなたとの約束を裏切った。
それにあなたほどの優しい人に
許さないとまで言わせたのよ。」
彼女との友情が確かなモノだったのと同様に
彼女との離別もどうしようもなく現実なのだ。
それに。
アノ夜を思い出す。
両の手のひらが震える。
右腕のアザが痛み出す。
鮮烈な悔苦の充満した煉獄。
視界に広がるのが死の積み上がった獄門台なら
どれほど良かっただろう。
アレはまだ生きていた。
縫い付けられた生存の中で絶え間ない
灼熱に身を焼かれ続けていた。
あの絶叫は脈動の証明であり、
あの炎上は生命の発現だった。
そんな、そんな惨苦の蹂躙するアノ夜に。
私は、私は。
通りすがりを名乗る彼女を置いてきた。
全身に伝播した震えを、唯一自由な左手で
自らの右肩を掴み抑え込む。
「そんなこと言ったって、冴綺りん…!」
瞼を閉じ深呼吸。
吐く息にすら漏れ出す不安定さを
呼息運動にて抑え込む。
「…私、あなたに引き止められても、
あんな凄惨な光景を目の当たりにしても、
また踏み入れてしまうだろうから。
親友として結んだ約束を守れない。」
この震えが、怯えが。
アノ夜の出来事全てが現実だったことを物語っている。
もちろんあの煉獄も。
暗闇の淵にいた私を掬い出した慈愛も。
「だから私、あなたの隣にいていいはずがない。
どれだけ誤魔化しても、カナちゃんの心配を裏切っ…」
少女の懺悔は、そこで停止した。
目の前の親友が突然ベッドに上がり込んできたからだ。
「ちょ…カナちゃ、ーーー」
「冴綺りんの…バカッッ!!」
仰向けの私に馬乗りになり、
拳をその胸に振り下ろす。
ポカッ
戸惑う私のことなど気に留めない様子で
華奢な両手で胸を叩き続ける。
ポカッ
ポカッ
ポカッ
…その。こんな事言うべきではないかもだけど。
私の腫れ上がった右腕でだって
カナちゃんより強く殴れると思うの…
「バカッッ、バカッッ、バカッッ!!
すぐそんなこと言って!すぐ可奈子を置いて行って!」
………
「可奈子が冴綺りんと親友辞めるわけないでしょ!」
「で、でもあなた私のこと許さないって、ーーー」
「ワカンナイよ!可奈子ってバカなんだもん!
いっつもみんなに助けてもらってばっかだし、
テンサチだって42点らしいし!」
偏差値のことかな?
「でも、でも…!
冴綺りんの見てるものが何か
ワカンナクなっちゃったって…!
冴綺りんが可奈子の心配振り切って
危ないところに行こうとしてたって…
可奈子のこと置いていくって…!
あなたとは親友続けられないなんて謝らないでよ…!
そんな辛そうに頼まれたって…
可奈子、冴綺りんとゼッコーなんて、
ゼッタイゼッタイ、ゼーッタイっ…
許してなんて…あげないんだから!」
「へ…?ユルさないってそういう…?
で、でもカナちゃんの最後のあの目は…」
「でも、じゃないの!」
「あ、あんな冷ややかな目ぇ向けといて…!」
「そ、そりゃあ…ヤッキになって?
ちょっと冴綺りんにイジワルしたくなって…
ソレもコレも、冴綺りんが悪いんだかんね!」
え…じゃああれが…
あんなものが…演技…?
一瞬、否10秒ほどの硬直。
緋翅水冴綺は呆然として、
「…ねぇ?…冴綺りん?」
「…あなた、女優で食っていけるわよ。
ホント。実際マジで。」
ちょっと…呆れちゃったかも…
俯いて苦笑。
一方大女優さんは此方の気も知らず
えっ、そ、そうかなぁ…なんて
頬を赤らめている。
………
………
………
「ねぇ、カナちゃん。」
「なぁに?冴綺りん。」
「私、もう取りこぼさない。
大切な結束を。失った色彩も。
だから…もう少し。
もう少しだけ、危なっかしい友人を
近くでいて、見守っていてほしいの。」
「…バカ。もうユルさないって
可奈子、何度も言ってるじゃない。」
そう言って。
彼女は優しく、こんな人でなしに。
涙を目一杯讃えて、微笑んだ。
ぐうぅうう…
体の奥からぐぐもった音。
私?彼女?
或いはその両方だったかも。
彼女が、笑いながら涙を拭う。
「ははっ、冴綺りん5日も何も
食べてないんだから何か口に入れないとぉ。」
実のトコロ…6日分抜いてるの…
「可奈子、何か買ってくるね!
此処のキャンディバー
病院の品揃えなのに結構美味しいのよ!」
そう言ってカナちゃんは病室を後にした。
珠木可奈子が軽い足取りで
清潔な白のドアを出てくる。
学校終わりに毎日面会時間終了まで。
彼女はすっかり第二居住区病棟の構造を
把握していた。
購買部のある方を向く。
すると、目の前に
壁に体を預けた白シャツの
女性が俯いている。
可奈子は病棟の質素さの中に
上手く馴染めない美しさを放つ
彼女に駆け寄った。
「その、ありがとうございます!
家族以外面会謝絶のところ、
ナースの方々に口利きして頂いて。
冴綺…じゃない、水冴綺ちゃんも
今ではすっかり元気そうです!
お母さんも、顔覗きにいってあげてください!」
「あ…えぇ、かまわないわ。
こちらこそその、娘のためにありがとうね。」
失礼しました!と一礼。
駆け足禁止の廊下を走り去っていく。
ため息。
とりあえず、無事…なのね。
それにしても。
「水冴綺。イイ友達、居るじゃないの。」
なら、私の出る幕はないわね。
立ち去る。
可奈子の走り去るその反対へ。
ヒールの甲高い音が、遠ざかっていった。
~緋翅水冴綺の運命の歯車は廻り出した。
混迷の渦、不確かな実存、逸る脈動。
でも、それでも、今だけは。
物語の黎明と対極の薄暮の中。
少女は、窓辺に微睡んで。~
ーーーー。
ーーーしー。
ーそーーしょ。
あそびましょ。
…?
あ、たし…
アタシ…は…?
うまれたちっちゃなおんなのこ。
いまにもきえそなおんなのこ。
かのじょのいのちにせんれいを。
そのたんじょうにしゅくふくを。
あかんぼうにはななにんのあね。
おみずをくみにみんなでかけっこ。
…ここは?
てを…つないで…
がらすのみずいれひとつきり。
あたしのものだとおおげんか。
ななにんめのてにわたったひょうしに
そこなしいどにぽっちゃんこ。
…まわる。
…まわる。
ねぇ…あたしのてをとる
あなたはだあれ?
みんなびっくり。
おくちあんぐり。
あたふたあたふたちんぷんかんぷん。
みんなのとうさんもうまちかねて。
てを、ーー
はなす。
どうしたの?どうしたの?
あたしたちまるをえがいて
ずっとずうっとくるくるまわるの。
あなたがいなくちゃわたしたち
ちぎれてまっかにばらばらよ?
でも、でも…
「私、行かなくちゃいけないよ。
約束…したんだもの。」
このこ!このこ!わたしって!
ほんとうに?ほんとうに?
ふらふらふらふらひとりきりで?
くすくす。くすくす。
ゆらゆらゆらゆらあかりもなしに?
けらけら。けらけら。
「…ごめんなさい。
私やっぱりこのままは
どうしてもいや。」
……………………………………
……………………………………
……………………………………
……………………………………
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
だめよだめよだめよだめよだめよだめよだめよ
「…さよなら。」
暖かい、光が、差し込む。
風に、カーテンが、ゆらゆら揺れる。
この身体をつつむ安堵に、こころを、委ねる。
そうしてゆっくり、瞼をあける。
白塗りの光景。これは、知らない天井。
私、ベッドであおむけでいる…
「あてっ…」
誰かの声。誰かの声。
私の病室、私の空間だから、
1人っきりにしてくれたって…
「いっちち…こんなにおサイホウって
難しかったかなぁ…」
…だれ…か…の、
こ…え…
「…カナ…ちゃん…?」
ガタッ…
椅子から勢いよく立ち上がる音。
彼女が、彼女が。
両手をベッドについて覗き込んでくる。
「気が付いたの?!冴綺りん!
まってて…今ナースさんよんでくるか、ーーー」
溢れる。溢れ出す。
あぁ、そっか…
私って…こんなにナキムシだったんだ…
「カナちゃん…!カナちゃん…!」
「えぇ?!どうしてそんなに泣いて…
何処か痛いところが…お薬のせいとか!
ええっと…ええっとぉ…」
あたふた、あたふた。
頭を抱えて歩き回る彼女。
ホントに…カナちゃんらしいや…
「あぁ!そんな顔クシャクシャにして泣いて!
え、えーと。あった!すぐ泣き止む100の秘伝書!
~いないいないばぁの基本が全て~…
い、いないいない…ばぁっ!」
それ、病室の本棚に置いてあった
子供をあやすための育児書でしょ。
「…ッフ、アッハッハ…!
ハッハッハッハ!」
「な、何よこれ!笑いはするけど
全然泣き止んだりしないじゃん!」
その後、情緒をグッツグツに煮込んだ闇鍋の如き
様相の病室に医療スタッフが駆けつけ…
覚醒後の検診が無事終了した。
病棟の清潔さをたたえた白い横開きのドアを開いて
緋翅水冴綺に割り当てられた室内に入る。
「冴綺りん、ホントにもう歩けるの?
可奈子車椅子押すよ?」
「いいの。リハビリにもなるしね。」
5日も眠ってたんだから無理しないでね。と
再び彼女は椅子について作業に熱を込める。
「カナちゃん、そんなになって何をいじってるの?
ここにいる間、ずうっとしかめっ面よ…」
「そ、そう?ホラ可奈子ってば不器用だから
マネージャーなのにみんな私に気ぃ使って
この手の仕事は回ってこなくって。」
見ると彼女の膝の上にはあの晩、
破れてしまったスカートが。
針を摘む指には絆創膏が彼女の白い肌を
覆い尽くすほどに張り付いていた。
「…ねぇ。カナちゃん、どうして
私なんかのためにそこまでしてくれるの?」
「いいの、いいの!冴綺りんが起きるまで
可奈子ヒマを持て余してたんだから。」
………
うつむく。
私はベッドの上。
最愛の親友が傍で付き添ってくれている。
とても、とても、幸せ。
それでも…
「いいや。あなたにこんな丁寧な献身を
受ける資格なんてない。
私、あなたとの約束を裏切った。
それにあなたほどの優しい人に
許さないとまで言わせたのよ。」
彼女との友情が確かなモノだったのと同様に
彼女との離別もどうしようもなく現実なのだ。
それに。
アノ夜を思い出す。
両の手のひらが震える。
右腕のアザが痛み出す。
鮮烈な悔苦の充満した煉獄。
視界に広がるのが死の積み上がった獄門台なら
どれほど良かっただろう。
アレはまだ生きていた。
縫い付けられた生存の中で絶え間ない
灼熱に身を焼かれ続けていた。
あの絶叫は脈動の証明であり、
あの炎上は生命の発現だった。
そんな、そんな惨苦の蹂躙するアノ夜に。
私は、私は。
通りすがりを名乗る彼女を置いてきた。
全身に伝播した震えを、唯一自由な左手で
自らの右肩を掴み抑え込む。
「そんなこと言ったって、冴綺りん…!」
瞼を閉じ深呼吸。
吐く息にすら漏れ出す不安定さを
呼息運動にて抑え込む。
「…私、あなたに引き止められても、
あんな凄惨な光景を目の当たりにしても、
また踏み入れてしまうだろうから。
親友として結んだ約束を守れない。」
この震えが、怯えが。
アノ夜の出来事全てが現実だったことを物語っている。
もちろんあの煉獄も。
暗闇の淵にいた私を掬い出した慈愛も。
「だから私、あなたの隣にいていいはずがない。
どれだけ誤魔化しても、カナちゃんの心配を裏切っ…」
少女の懺悔は、そこで停止した。
目の前の親友が突然ベッドに上がり込んできたからだ。
「ちょ…カナちゃ、ーーー」
「冴綺りんの…バカッッ!!」
仰向けの私に馬乗りになり、
拳をその胸に振り下ろす。
ポカッ
戸惑う私のことなど気に留めない様子で
華奢な両手で胸を叩き続ける。
ポカッ
ポカッ
ポカッ
…その。こんな事言うべきではないかもだけど。
私の腫れ上がった右腕でだって
カナちゃんより強く殴れると思うの…
「バカッッ、バカッッ、バカッッ!!
すぐそんなこと言って!すぐ可奈子を置いて行って!」
………
「可奈子が冴綺りんと親友辞めるわけないでしょ!」
「で、でもあなた私のこと許さないって、ーーー」
「ワカンナイよ!可奈子ってバカなんだもん!
いっつもみんなに助けてもらってばっかだし、
テンサチだって42点らしいし!」
偏差値のことかな?
「でも、でも…!
冴綺りんの見てるものが何か
ワカンナクなっちゃったって…!
冴綺りんが可奈子の心配振り切って
危ないところに行こうとしてたって…
可奈子のこと置いていくって…!
あなたとは親友続けられないなんて謝らないでよ…!
そんな辛そうに頼まれたって…
可奈子、冴綺りんとゼッコーなんて、
ゼッタイゼッタイ、ゼーッタイっ…
許してなんて…あげないんだから!」
「へ…?ユルさないってそういう…?
で、でもカナちゃんの最後のあの目は…」
「でも、じゃないの!」
「あ、あんな冷ややかな目ぇ向けといて…!」
「そ、そりゃあ…ヤッキになって?
ちょっと冴綺りんにイジワルしたくなって…
ソレもコレも、冴綺りんが悪いんだかんね!」
え…じゃああれが…
あんなものが…演技…?
一瞬、否10秒ほどの硬直。
緋翅水冴綺は呆然として、
「…ねぇ?…冴綺りん?」
「…あなた、女優で食っていけるわよ。
ホント。実際マジで。」
ちょっと…呆れちゃったかも…
俯いて苦笑。
一方大女優さんは此方の気も知らず
えっ、そ、そうかなぁ…なんて
頬を赤らめている。
………
………
………
「ねぇ、カナちゃん。」
「なぁに?冴綺りん。」
「私、もう取りこぼさない。
大切な結束を。失った色彩も。
だから…もう少し。
もう少しだけ、危なっかしい友人を
近くでいて、見守っていてほしいの。」
「…バカ。もうユルさないって
可奈子、何度も言ってるじゃない。」
そう言って。
彼女は優しく、こんな人でなしに。
涙を目一杯讃えて、微笑んだ。
ぐうぅうう…
体の奥からぐぐもった音。
私?彼女?
或いはその両方だったかも。
彼女が、笑いながら涙を拭う。
「ははっ、冴綺りん5日も何も
食べてないんだから何か口に入れないとぉ。」
実のトコロ…6日分抜いてるの…
「可奈子、何か買ってくるね!
此処のキャンディバー
病院の品揃えなのに結構美味しいのよ!」
そう言ってカナちゃんは病室を後にした。
珠木可奈子が軽い足取りで
清潔な白のドアを出てくる。
学校終わりに毎日面会時間終了まで。
彼女はすっかり第二居住区病棟の構造を
把握していた。
購買部のある方を向く。
すると、目の前に
壁に体を預けた白シャツの
女性が俯いている。
可奈子は病棟の質素さの中に
上手く馴染めない美しさを放つ
彼女に駆け寄った。
「その、ありがとうございます!
家族以外面会謝絶のところ、
ナースの方々に口利きして頂いて。
冴綺…じゃない、水冴綺ちゃんも
今ではすっかり元気そうです!
お母さんも、顔覗きにいってあげてください!」
「あ…えぇ、かまわないわ。
こちらこそその、娘のためにありがとうね。」
失礼しました!と一礼。
駆け足禁止の廊下を走り去っていく。
ため息。
とりあえず、無事…なのね。
それにしても。
「水冴綺。イイ友達、居るじゃないの。」
なら、私の出る幕はないわね。
立ち去る。
可奈子の走り去るその反対へ。
ヒールの甲高い音が、遠ざかっていった。
~緋翅水冴綺の運命の歯車は廻り出した。
混迷の渦、不確かな実存、逸る脈動。
でも、それでも、今だけは。
物語の黎明と対極の薄暮の中。
少女は、窓辺に微睡んで。~
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる