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好き? 私を? キミが?
そんなわけない、だって彼には格好悪い所ばかり見せてるし、そもそも私たちはつい先日合コンの場で出会ったばかりだ。もし好意を持ってくれてるのだとしたら嬉しくないわけじゃないけど、仮にそうだとしてもまだ一緒に住むレベルの付き合いにはない。
と言うか、えっ、私の気持ちは無視?
私は彼のことを好きだなんて言ってない。好きかどうかさえ分からない状態なのに。
「ふふ、まあ一緒に住むかどうかはともかく、美味しいもの作ってあるから、一緒に食べよ?」
呆気にとられながらもグルグルと考え込む私に、彼がそう声を掛けた。美味しいもの、と聞いて、私のお腹がグーと鳴る。
うぅ、私のお腹め……。
「食べたら、亜矢さん家に車で送っていくから。……今日のところは、ね」
そう言って私の返事を聞かずに、彼の家の方面のホームへと私の手を引いて歩き始めた。私はもう抵抗するのを諦めて、彼に手を引かれるまま。それに気づいた彼はちょっと得意げな顔でにこにこしている。
なんだかんだ言って結局彼の思うつぼなのが悔しくて繋がれた手を解こうと手の力を緩めると、それを察知したらしい彼が手にギュッと力を入れて放してくれない。
ジロリと睨んだけど相変わらずのふんわりとした笑顔で返されて、結局私の右手は返って来なかった。
都会の電車は次々とやって来るので、私たちがホームに着くのと同時ぐらいに電車がホームへと滑り込んでくる。ホームも電車も混み合っていて、東京に出て来てもう十年近くになるけど人の多さには相変わらず慣れない。
朝のラッシュほどではないけどそれなりに混んでいる電車に乗り込んで、今日も酸素の薄さにうんざりする。
たくさんの人が乗り込んできたことで、私たちは反対側の扉の前まで追いやられててしまった。身動きが出来ず、しかも、どこにも掴まる所がない。
「亜矢さん、大丈夫?」
「うん……」
「僕に掴まってていいよ」
「……大丈夫」
「じゃあ、僕が亜矢さんを捕まえとく」
「……は?」
言われた意味が分からず顔を上げると、満足げに微笑んだ彼の左手が私の腰へと回された。向かい合わせに抱き寄せられた状態で電車が動き出してしまう。
「えっ、ちょっとっ」
「んー?」
「この手は何?」
「ええ? だって、電車が揺れるからね。危ないから」
「大丈夫だってば……」
むしろ、この状態の方が全然大丈夫じゃない、危なすぎる。だって、身体が密着してしまう。
よくない、精神衛生上、とてもよくない……。
車内はかなり混んでいて、そんなに自由に身動きできるような状態でもない。彼の手を振りほどきたい気持ちは山々だけど、混雑した車内ではどうしようもない。
電車は時折ゆらゆらと揺れて、そのたびに私の腰に回されていた腕がぐっと彼へと引き寄せられる。
心臓に悪い。
この人は本当に、いつも予想外の行動で私の心臓を壊しに来るから始末が悪い。自分の気持ちを正常に保つのが難しくて胸が苦しくなる。
どうにかして早く動きすぎる心臓を宥めようと、私は小さく深呼吸をした。
けれど、それが間違いだった。こんな風に密着した状態でそんなことをすればどうなるか、少し考えれば分かりそうなものなのに。
胸一杯に吸い込んでしまった彼の匂いで余計に心臓が暴れて、ますます息苦しくなってしまって……。
「……亜矢さん?」
彼がすぐ目の前で小さく問いをたてる優しいその声音も、私の心臓の動きを早めるのに加担する。息苦しくてたまらなくなって、けれど息を吸い込めば吸い込むほど状態が悪化していく。
「大丈夫? 苦しい?」
「だ、いじょうぶ……」
ドキドキしすぎて声が掠れる。そんな自分の状態を知られたくなくて顔を背けると、私の腰を抱く彼の手に力が入った。
「僕にもたれてて良いからね?」
そんなわけない、だって彼には格好悪い所ばかり見せてるし、そもそも私たちはつい先日合コンの場で出会ったばかりだ。もし好意を持ってくれてるのだとしたら嬉しくないわけじゃないけど、仮にそうだとしてもまだ一緒に住むレベルの付き合いにはない。
と言うか、えっ、私の気持ちは無視?
私は彼のことを好きだなんて言ってない。好きかどうかさえ分からない状態なのに。
「ふふ、まあ一緒に住むかどうかはともかく、美味しいもの作ってあるから、一緒に食べよ?」
呆気にとられながらもグルグルと考え込む私に、彼がそう声を掛けた。美味しいもの、と聞いて、私のお腹がグーと鳴る。
うぅ、私のお腹め……。
「食べたら、亜矢さん家に車で送っていくから。……今日のところは、ね」
そう言って私の返事を聞かずに、彼の家の方面のホームへと私の手を引いて歩き始めた。私はもう抵抗するのを諦めて、彼に手を引かれるまま。それに気づいた彼はちょっと得意げな顔でにこにこしている。
なんだかんだ言って結局彼の思うつぼなのが悔しくて繋がれた手を解こうと手の力を緩めると、それを察知したらしい彼が手にギュッと力を入れて放してくれない。
ジロリと睨んだけど相変わらずのふんわりとした笑顔で返されて、結局私の右手は返って来なかった。
都会の電車は次々とやって来るので、私たちがホームに着くのと同時ぐらいに電車がホームへと滑り込んでくる。ホームも電車も混み合っていて、東京に出て来てもう十年近くになるけど人の多さには相変わらず慣れない。
朝のラッシュほどではないけどそれなりに混んでいる電車に乗り込んで、今日も酸素の薄さにうんざりする。
たくさんの人が乗り込んできたことで、私たちは反対側の扉の前まで追いやられててしまった。身動きが出来ず、しかも、どこにも掴まる所がない。
「亜矢さん、大丈夫?」
「うん……」
「僕に掴まってていいよ」
「……大丈夫」
「じゃあ、僕が亜矢さんを捕まえとく」
「……は?」
言われた意味が分からず顔を上げると、満足げに微笑んだ彼の左手が私の腰へと回された。向かい合わせに抱き寄せられた状態で電車が動き出してしまう。
「えっ、ちょっとっ」
「んー?」
「この手は何?」
「ええ? だって、電車が揺れるからね。危ないから」
「大丈夫だってば……」
むしろ、この状態の方が全然大丈夫じゃない、危なすぎる。だって、身体が密着してしまう。
よくない、精神衛生上、とてもよくない……。
車内はかなり混んでいて、そんなに自由に身動きできるような状態でもない。彼の手を振りほどきたい気持ちは山々だけど、混雑した車内ではどうしようもない。
電車は時折ゆらゆらと揺れて、そのたびに私の腰に回されていた腕がぐっと彼へと引き寄せられる。
心臓に悪い。
この人は本当に、いつも予想外の行動で私の心臓を壊しに来るから始末が悪い。自分の気持ちを正常に保つのが難しくて胸が苦しくなる。
どうにかして早く動きすぎる心臓を宥めようと、私は小さく深呼吸をした。
けれど、それが間違いだった。こんな風に密着した状態でそんなことをすればどうなるか、少し考えれば分かりそうなものなのに。
胸一杯に吸い込んでしまった彼の匂いで余計に心臓が暴れて、ますます息苦しくなってしまって……。
「……亜矢さん?」
彼がすぐ目の前で小さく問いをたてる優しいその声音も、私の心臓の動きを早めるのに加担する。息苦しくてたまらなくなって、けれど息を吸い込めば吸い込むほど状態が悪化していく。
「大丈夫? 苦しい?」
「だ、いじょうぶ……」
ドキドキしすぎて声が掠れる。そんな自分の状態を知られたくなくて顔を背けると、私の腰を抱く彼の手に力が入った。
「僕にもたれてて良いからね?」
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