17 / 165
2巻
2-1
しおりを挟む第一話 購入制限!?
「うわっ!? 冷た!」
顔に何か冷たい物が降ってきたことで、俺はその場から飛び起きた。
「てか、頭が痛いんだけど!?」
なんだ、顔は冷たいし、頭は痛い! 何が起きたわけ!?
「……ようやく起きましたか、ユウスケ。もうとっくに朝ですよ」
目の前には美しい金髪をポニーテールにして、このキャンプ場の仕事着であるメイド服を着ている、ダークエルフのソニアがいた。彼女は、逆さにしたコップを手に持ち、碧眼をこちらに向けている。
「……おまっ、もしかして水をぶっかけたのか!?」
「こうでもしないと起きなかったのですよ。私とサリアで声をかけても揺すっても駄目でしたね。頭を引っ叩いて起こそうともしたのですが、結界の力でそれもできませんでした」
「す、すみません! どうにか起こそうとしたのですけれど……」
そう口にしたのは、こちらも美しい金髪碧眼のエルフ、サリア。
褐色肌を持つソニアとは異なり、真っ白な肌をしている女の子だ。
彼女も既に、メイド服を着ている。
胃がムカムカするし、頭もボーっとする。なんでこうなってしまったのか全く思い出せないので、順を追って振り返ってみよう。
俺――東村祐介は元の世界で神様の部下の手違いにより死に、お詫びに三つのチート能力をもらってこの異世界へと転生してきた。
一つ目が、異世界の住人であるソニアたちと会話ができたり、この世界の文字を読み書きできたりする能力だ。そして二つ目は、俺が指定した場所に不可視の結界を張れる能力。その範囲内では暴力や破壊などの犯罪行為を禁じることができるのだ。更に、俺の前世の世界で売っていた物を、こちらの世界の金銭と引き換えられるストアという能力ももらった。
授けられたのがこの能力だったのは、『キャンプ場を作る』という前世の夢をこちらの世界で果たしたいと俺が言うのを聞いて、神様が選定してくれた結果である。
ただその代わり、俺には魔法の適性がないらしい。
チート能力をもらっておいてなんだが、せっかくファンタジーの世界に来たのだから、どんな魔法でもいいから一度は使ってみたかったなあと思ってしまうが、それは高望みという物だろう。
ともあれ、俺は神様から授かった能力を使い、『イーストビレッジキャンプ場』を昨日オープンした。
……こんなに早く夢が叶うなんて、本当に幸運だ。
幸運と言えば、ソニアとサリアを雇うことができたのも相当ラッキーだったよな。
ソニアは元々Aランク冒険者だったが、ゆったりした日々を求めて冒険者を引退しようとしていた。彼女がパーティを脱退する場に居合わせていた俺は、ストアで取り寄せたお菓子やケーキで彼女の興味を引き、ひとまずキャンプ場作りを手伝ってもらうことにしたのだ。
それからなし崩し的に雇うことになったわけだが、現状彼女への報酬は、特別高く設定していない。代わりにストアで取り寄せた食べ物と、漫画を提供しているとはいえ、Aランク冒険者を雇うのにかなり金がかかることを考えると、破格の条件なんだよな。
そして、もう一人の従業員であるサリアは、狼の魔物の群れに襲われて、偶然このキャンプ場に逃げ込み、その縁でって感じだ。彼女も可愛らしいだけでなく、キャンプ場に必要な火や水を魔法で提供してくれる、かなり優秀な人材である。
ソニアとサリアを見ると、二人が怪訝そうな顔をしているのに気付く。
俺は一旦回想をやめ、ひとまず頭を下げる。
「ああ、すまん。普通に起こそうとしてくれたんだな、ありがとう。ところで今、何時だ?」
というかメイド服姿の二人に声をかけられつつ揺すられるなんていう、ありがたいシチュエーションの中、俺は意識がなかったのか。
……なんだかものすごくもったいない気分だ。
「もう十時ですよ。そろそろお昼の準備をしなければいけないので、無理やり起こそうとしたのです」
ソニアに言われて時計を見る。
「やべ!? もうそんな時間か!」
思わずそう声を上げると、締め付けられるような痛みが頭に走る。
この頭の痛みはなんだ? ……結局この頭痛の理由は、わからずじまいだった。
昨晩のことに絞って思い出してみよう。
確かキャンプ場のオープン初日のお祝いってことで、終業後に従業員三人と六人のドワーフ、獣人冒険者二人、サリアの住んでいたエルフ村のみんな、商業ギルドのギルマスで乾杯した。
そのあとみんなと酒を飲みながら、獣人冒険者のランドさんやソニアから冒険者の話を聞いたり、サリアの生まれ育ったエルフ村の村長さんであるオブリさんたちと話したり。そして、商業ギルドのマスターでハーフリングのジルベールさんの愚痴を聞いたりしたんだよな。
そうだ。確かそんな飲み会の最中、一度管理棟へ戻ってチーズケーキと酒をストアで購入したんだ。
このキャンプ場を一緒に作ってきたドワーフのダルガには看板を、オブリさんには魔物を遠ざける魔導具をオープン祝いとしてもらったから、そのお返しも兼ねて。
特にチーズが好きなエルフ村のみんなや、ケーキが好きなソニアがとても喜んでくれたんだよな。獣人やドワーフのみんなにも好評だったのを覚えている。
それでそのあとは酒が好きな人だけで持ってきた酒を――そうだ、酒だ! あれが原因だ!!
◆ ◇ ◆
「それじゃあせっかくだし、一本だけ特別な酒を出そうじゃないか」
俺の言葉に、ダルガが眉根を寄せる。
「なんじゃい、気持ちは嬉しいんじゃが、看板の礼ならいらんぞ。あれはただ暇だったから作っただけじゃからのう」
「ああ、チーズケーキもそうだが、別にこれは礼じゃない。こういう場では自分の持っているご飯や酒をみんなで分かち合う物だからってだけだよ。それにこの酒は珍しくはあるが、それほど高額なわけではない。遠慮なく飲んでくれ」
そう、この酒は別に高いわけではない。一本二千円くらいで買えてしまう。
「……ふむ。そういうことならありがたくいただくとしよう。それで、その酒はどういう酒なんじゃ?」
断ろうとしていたようだが、やはり興味はあったようだ。
そりゃこの流れで特別な酒と言われて、酒好きのドワーフが気にならないわけがない。
「この酒は『スピリタス』といって、俺の故郷で一番酒精の強い酒だ!」
俺がそう告げると、ドワーフたちが揃って声を上げる。
「「「おおおおお!!」」」
スピリタスは、世界で一番酒精が強いことで有名なポーランドの酒だ。そのアルコール度数はなんと驚異の九十六パーセント! 酒というよりアルコールその物と言っても過言ではない。
スピリタスはウォッカの一種だが、通常蒸留酒は一回から三回ほどしか蒸留しないところを、なんと七十回以上も蒸留して作られる。あまりのアルコール度数の高さから、日本ではガソリンと同じく危険物として扱われている。
え、ポーランド人って馬鹿なの? と言いたくなるかもしれないが、ポーランドの冬は寒くて長い。凍らない酒が必要であったため、アルコール度数の高いこの酒が生まれたというわけだ。
……それにしてもやり過ぎだろとは思うがな。
「これは酒精が強過ぎて本当にヤバいから、酒に弱い人はやめておくか、ジュースで割ったほうがいい。それと、飲める人でも一口分しか飲ませないからな」
当たり前だがこんな強い酒を一気飲みなんてしたら、間違いなく急性アルコール中毒でぶっ倒れる。キャンプ場のオープン初日にそんなことをさせるほど俺も馬鹿ではない。
ほんの少しだけ飲んで、スゲーとかヤベーとか言いながら、仲間内で楽しむのが正しいのだ。
俺もキャンプ場で仲間と一緒に数回ノリで飲んだが、大いに盛り上がった。まあパーティグッズみたいな物である。
とはいえ、少量飲んだだけでも口から火を噴きそうになるし、喉が痛くなる。本当に好きな人はこの痛みのあとに旨さを感じるらしいが、俺には全くわからなかった。
ジュースで割って飲むと普通に美味いんだけどな。
「ゴホッ、ゴホッ。何これ、喉が焼けそうだよ!」
「ウハァ! いかん、酒精が強過ぎる! 水、水!」
「ガハッ、俺にも無理だ! 街で出てくる酒を何十倍も濃くしたみてえだ!」
「ゴホッ! こんな濃い酒を飲んだのは初めてっす! これは酒なんすか?」
ジルベールさん、オブリさん、ランドさん、ダルガの元弟子が早速飲んだが、咳き込んでしまった。やはりこの酒は強過ぎる。
「ふ~む、じゃがその奥に確かに酒の味を感じるのう」
「うむ、間違いなく酒じゃとわかるな」
「そうじゃな。しかし、どうやったらこれほど酒精の強い物を作れるのか、想像もつかん」
おお、ダルガと、別の鍛冶場の元親方であるアーロさんとセオドさんは咳き込まずにこの酒を飲めるのか。
「ユウスケ殿、見事な酒をありがとう。感謝するぞ」
「喜んでもらえてよかったよ、セオドさん。さあ、まだまだ夜は長いぞ!」
そして、そのあとも宴会は続いた。
ソニアやサリアたちが管理棟に戻ったあとも、俺はみんなと飲み続けていたんだよな。
スピリタスを飲んだあたりから感覚がバグっていって、いつもより余計に飲んで酔い潰れてしまい……なんとか管理棟まで辿り着いたが、自分の部屋には行けず廊下で寝てしまったってとこか。
そのあと朝起きたソニアかサリアが食堂まで運んでくれて、わざわざ毛布をかけてくれたんだな、きっと。
◆ ◇ ◆
「……思い出した。道理で頭が痛かったわけだよ。他のみんなは大丈夫だったのかな?」
「朝キャンプ場を回ってきましたが、みんなテントにいるようだったので、大丈夫だと思いますよ。……いつ起きてくるのかまではわかりませんが」
今はまだそれほど寒くないからよかったが、寒い時期にテントの外で寝ていたら凍死する可能性まであった。俺も含めてハメを外し過ぎたみたいだ。ソニアには感謝しなければならない。
「やべ、そういえば朝早くに出発する予定のお客さんはもう出ちゃった?」
「ええ、とっくに出発されました。昨日ユウスケに指示された通りに、朝食のホットサンドを無料で提供したら、とても喜んでいましたよ」
他のみんなにはチーズケーキとスピリタスを振る舞ったからな。先に寝てしまった人たちにもサービスしないと、不公平になる。
とはいえオープン初日だけの特別サービスだがな。
「しまったなあ。せっかく初日に来てくれたんだし、ちゃんと見送りをしたかったのに」
確か今朝出発する予定だったのはソニアの知り合いの冒険者で、男三人と女一人の冒険者パーティだけだったはずだ。
「で、でもここの料理を褒めてくれましたし、きっとまた来てくれますよ!」
サリアはそう言ってくれるが、ソニアの知り合いだし、リップサービスの可能性もある。見送りにおっさん一人が増えたところで変わりはしないだろうけれど、それでも行くに越したことはない。これは反省しなければ……
そうはいっても、過去の失敗をいつまでも引きずっているわけにもいかない。
「だといいな。おっと、こうしちゃいられない、準備をするから先に昼食の仕込みを頼む」
俺の言葉に、ソニアとサリアが頷く。
「はい!」
「ええ!」
二日酔いで重い身体をどうにか動かして、急いで自分の部屋に戻って制服である執事服に着替える。
今日はまだオープン二日目。二日酔いでダウンしている暇はない。
着替えたあとは今日の料理の仕込みを二人と一緒にして、朝出発したお客さんの後片付けをする。ちゃんとテントを畳んで、テーブルやアウトドアチェアやゴミなどを纏めてくれていたので、片付けはすぐに終わった。実際にキャンプ場を運営する側に回ると、マナーのよいお客さんのありがたさがよくわかる。
テントやマット、寝袋には消臭スプレーをかけておく。一月に一度くらい洗濯して天日干ししておく予定だ。
それとは別に雨の日のあとはすぐに乾かさないと、テントはすぐにカビてしまうから気を付けないとな。
時刻は十一時、このキャンプ場のチェックアウトの時間だ。ジルベールさんが張っていたテントの前に向かう。
「ジルベールさん、もうチェックアウトの時間ですよ」
一泊の予定だったのはジルベールさんとエルフ村のみんな、ランドさんたちだ。オブリさんたちのテントにはサリアが、ランドさんたちのテントにはソニアが様子を見に行っている。
基本的にお代は先払いなので、支度さえできていればあとは出ていくだけだが――
「うう……頭が痛い。もうそんな時間なの? ごめん、無理……もう一日泊まるよ……」
まあこうなるよね。ジルベールさんも昨日は俺と同じくらい酒を飲んでいたわけだし、当然だ。
明日は仕事があると言っていたが、このまま無理に出発させて、街に戻るまでに魔物や盗賊に襲われたなんてことになっては困る。
「わかりました。お代はあとで結構ですよ。あとで二日酔いに効く料理を持ってきますから。ここに二日酔いでも飲みやすい飲み物を置いておきます」
俺はそう言って、スポーツドリンクを置く。
二日酔いにさせてしまった罪滅ぼしとして、潰れてしまった人にはスポーツドリンクを配ることにしたんだよな。
「うう……ありがとう……」
「ジルベールさんは完全に二日酔いでダウンしてるから、一日延泊するって」
管理棟に戻ってから、俺はそう報告した。
すると、サリアは苦笑いを浮かべて言う。
「村長たちももう一泊延長するようです。村長もお父さんもお母さんもまだテントで寝ていました」
「了解だ」
「それとルーネちゃんたちにチーズケーキを持っていったら、すっごく喜んでいましたよ!」
「喜んでもらえてよかったよ」
やっぱりオブリさんたちもダウンしているか。サリアの両親は酒にあまり強くないようだ。スピリタスや酒精の強い酒には手を出さずに、酎ハイやワインくらいしか飲んでいなかったけど、二日酔いでダウンしているらしい。
あと昨日先に寝てしまっていた四人には、チーズケーキを持っていってもらったんだよな。
エルフはチーズが好きだし、ホットサンドよりもチーズケーキのほうが喜びそうだなーと思っての判断だったが、正解だったようだ。
「ランドたちも全滅ですね。同じく一泊延長するようです」
「そっちもか……」
結局昨日の宴会に参加していた人でまともに動けているのは、酒を一切飲まなかったソニアと、次の日も仕事があるからと最初の一杯しか飲まなかったサリアだけだ。
……従業員の中で一人だけ二日酔いでダウンして、申し訳ない。
「収益を考えると、延泊してもらえるのはありがたいんだが、いくらなんでもこれはまずいな」
「ええ、次の日予定がある人もいるでしょうし、無理に酔っ払ったまま街に帰ろうとして、事故に巻き込まれてしまうなんてことも起こるかもしれません」
「そうですね。街から少し距離がありますし」
……うん、ソニアとサリアの言う通りだ。この世界には回復魔法や解毒魔法があり、簡単な物ならソニアも使えるらしいが、二日酔いには効かないらしい。
このままじゃ、いずれ酒の飲み過ぎによるトラブルが起こるのは目に見えている。
こっちの世界の人たちは酒精が強い酒に慣れていないし、ビールをはじめ冷やした酒は飲みやすいから、加減がわからずゴクゴクいってしまうのだろう。
それに、結界のお陰で酔っ払っての暴力沙汰は起きないが、騒ぎ過ぎたら隣のテントに泊まっている人たちに迷惑をかけてしまう。
そのせいでトラブルが起こるのも当然よくない。
「……やりたくはないけれど、制限を設けないと駄目かもな」
「ええ。そうすればゆっくりと味わってお酒を飲むようになるでしょうし、倒れたり次の日起き上がれなくなったりはしなくなるでしょう」
「そうですね。ここの料理やお酒は美味しいので、制限があってもお客さんはキャンプ場に来てくれると思いますよ」
ソニアとサリアの言葉を受けて、俺は唸る。
「少し考えてみるか……」
「ジルベールさん、起き上がれますか?」
「うん……なんとか。朝よりはまだマシになってきたかな」
昼過ぎに、食事だけのお客さんから注文を取る合間に、二日酔いでダウンしているみんなに軽食を持っていくことにした。
他のみんなには食事を渡し終え、今俺はジルベールさんのテントを訪れている。
「軽くですが、何か腹に入れておいたほうがいいですよ。二日酔いに効く軽食を作ったので食べてみてください」
「ありがとう。あっ、米を使った料理とスープかい? 美味しそうだね。いい匂いがする」
俺的に二日酔いのあとに嬉しい料理――梅と高菜のおにぎり、そして豆腐とワカメの味噌汁を用意した。
「うん! ご飯の甘味と、赤い実? の酸味が絶妙にマッチしていて、美味しいね。それにこっちのスープは優しい味だ。中に入っている海藻と白くて柔らかい……何かはわからないけど、これも素朴ですごく味わい深い。なんだか少しだけスッキリしてきたよ!」
気に入ってもらえたようでよかった。梅干しや味噌汁を食べると、二日酔いが和らぐ気がするんだよな。
「気に入ってもらえてよかったです。とりあえず無理せず、ゆっくりと休んでくださいね」
「うん。ユウスケ君、ありがとうね!」
少しは食欲があるようだな。
二日酔いではないサリアやソニアたちにも味噌汁は好評だったので、異世界の人は日本の伝統食材である味噌を受け入れてくれそうだとわかった。
今度は味噌を使った料理でも作ってみるとしよう。
「よし、なんとか今日も乗り切ったぞ!」
二日酔いの地獄の苦しみを耐え抜き、無事に二日目の営業が終了した。
昨日の宿泊客の大半が夕方くらいまで完全にダウンしていたのも逆に助かった気がする。それに午前中は二人がとても頑張ってくれたので、俺はだいぶ楽できた。
そして、今日は昼食だけ利用してくれるお客さんは多少いたが、新規の宿泊客はソニアの知り合いの冒険者の一組だけだった。やはり街から少し離れているため、商業ギルドのチラシを見ても、わざわざここまで泊まりに来るお客さんは少ないのだろう。
そう考えると現状、口コミに頼る他ない。
キャンプ場を利用してくれたお客さんが、知り合いを連れてきてくれることを祈ろう。
そんな風に考えているうちに締め作業が終わった。
それを見計らって、サリアとソニアが声をかけてくる。
「「お疲れさまでした!」」
「サリアもソニアも、お疲れさま。だいぶ仕事に慣れたようだな。メニューの大半を一人で作れるようになったし、接客もバッチリだ。二日目にしてもう教えることはほとんどない」
「あ、ありがとうございます!」
「どこかの誰かさんが午前中にダウンしていたお陰で、私たちもだいぶ経験を積めましたからね」
鋭利な言葉に俺が思わず「うぐっ……」と呻いてしまったのを見て、サリアが咎めるように言う。
「ソ、ソニアさん! そんなこと言ったら可哀想ですよ!」
「いや、ソニアが正しい。二人には本当に迷惑をかけた。俺の分も頑張ってくれて、本当にありがとう」
俺の言葉に対して、サリアは首をぶんぶんと横に振る。
「いえ、気にしないでください!」
「……そこまで反省しているとは思いませんでした。ああは言いましたが、それほど気にしていないので、大丈夫ですよ。誰でもミスはする物です」
……うう、二人とも優しい。
ブラック企業に勤めていた頃は、上司との飲み会で無理やり飲まされた挙句、次の日に二日酔いでダウンしていたら罵倒されるという、理不尽過ぎることもあった。
それなのに、二人は自業自得で潰れた俺をこうも労ってくれるなんて……天使のようだ。
とはいえ、それに甘えるのはよくない。
「ごめん、今後は気を付ける。昼間にも少し話したけれど、やっぱりこのキャンプ場には酒の購入制限を設けようと思う。もちろん俺も含めてな」
購入を制限すれば、そもそもの摂取量が減る上に、残量を気にしながら飲むだろうから必然的にペースが遅くなる。ちなみに、それとは関係なくスピリタスなんて酒は永久封印だ!
「ええ、賛成です」
「私もです。お酒は飲み過ぎると毒だと村長もよく言っていました」
うん、サリアの言う通りだ。美味い酒も飲み過ぎたら毒になる。
ただ、それを言った張本人の村長は完全にダウンしていたけれどな。
「とりあえず、今まで通りストアで買った缶や瓶の酒をそのまま売るとして、どんな種類でも合計五本までしか買えないようにしよう。で、強い酒は小さい瓶で売るとかして、飲み過ぎてしまわないようにしなきゃな」
ストアでも飲みきりサイズのワインや日本酒が売っているから、とても助かる。
「そのあたりは後々調整していけばいいと思いますよ。あと、お昼に出してもらった……おにぎりと味噌汁でしたっけ? あれもメニューに加えてはどうですか?」
「おにぎりは受け入れてもらえると思っていたが、味噌汁も意外と評判がよかったな。結構独特の香りがしたと思うが、大丈夫だったか?」
味噌は日本特有の調味料だからな。確か元の世界でも外国人の好みは分かれていたはずだ。
「ええ。むしろとてもいい香りだと感じましたよ。ご飯ともよく合いますし、優しい味でとても美味しかったです」
「私も美味しくいただきました。それに、おにぎりの中に入っていた赤くて酸っぱいのも初めて食べる味でしたが、最高でした!」
「そしたら明日の朝食も、ご飯と味噌汁にしよう」
「ええ、いいですね!」
「はい、楽しみです!」
ソニアとサリアは嬉しそうにそう言って頷いた。
気に入ってくれてよかった。さて――
「それじゃあ、酒の購入制限を設けることをダルガたちに伝えに行かなきゃな」
221
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
