異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

タジリユウ

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2巻

2-1

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 第一話 購入制限!?


「うわっ!? 冷た!」

 顔に何か冷たい物が降ってきたことで、俺はその場から飛び起きた。

「てか、頭が痛いんだけど!?」

 なんだ、顔は冷たいし、頭は痛い! 何が起きたわけ!?

「……ようやく起きましたか、ユウスケ。もうとっくに朝ですよ」

 目の前には美しい金髪きんぱつをポニーテールにして、このキャンプ場の仕事着であるメイド服を着ている、ダークエルフのソニアがいた。彼女は、さかさにしたコップを手に持ち、碧眼へきがんをこちらに向けている。

「……おまっ、もしかして水をぶっかけたのか!?」
「こうでもしないと起きなかったのですよ。私とサリアで声をかけてもすっても駄目だめでしたね。頭を引っぱたいて起こそうともしたのですが、結界の力でそれもできませんでした」
「す、すみません! どうにか起こそうとしたのですけれど……」

 そう口にしたのは、こちらも美しい金髪碧眼のエルフ、サリア。
 褐色肌かっしょくはだを持つソニアとは異なり、真っ白な肌をしている女の子だ。
 彼女も既に、メイド服を着ている。
 胃がムカムカするし、頭もボーっとする。なんでこうなってしまったのか全く思い出せないので、順を追って振り返ってみよう。


 俺――東村祐介ひがしむらゆうすけは元の世界で神様の部下の手違いにより死に、おびに三つのチート能力をもらってこの異世界へと転生してきた。
 一つ目が、異世界の住人であるソニアたちと会話ができたり、この世界の文字を読み書きできたりする能力だ。そして二つ目は、俺が指定した場所に不可視の結界を張れる能力。その範囲内では暴力ぼうりょく破壊はかいなどの犯罪はんざい行為をきんじることができるのだ。更に、俺の前世の世界で売っていた物を、こちらの世界の金銭きんせんと引きえられるストアという能力ももらった。
 さずけられたのがこの能力だったのは、『キャンプ場を作る』という前世の夢をこちらの世界で果たしたいと俺が言うのを聞いて、神様が選定してくれた結果である。
 ただその代わり、俺には魔法の適性がないらしい。
 チート能力をもらっておいてなんだが、せっかくファンタジーの世界に来たのだから、どんな魔法でもいいから一度は使ってみたかったなあと思ってしまうが、それは高望みという物だろう。
 ともあれ、俺は神様から授かった能力を使い、『イーストビレッジキャンプ場』を昨日オープンした。
 ……こんなに早く夢が叶うなんて、本当に幸運こううんだ。
 幸運と言えば、ソニアとサリアをやとうことができたのも相当ラッキーだったよな。
 ソニアは元々Aランク冒険者だったが、ゆったりした日々を求めて冒険者を引退しようとしていた。彼女がパーティを脱退する場に居合わせていた俺は、ストアで取り寄せたお菓子かしやケーキで彼女の興味を引き、ひとまずキャンプ場作りを手伝ってもらうことにしたのだ。
 それからなしくずし的に雇うことになったわけだが、現状彼女への報酬ほうしゅうは、特別高く設定していない。代わりにストアで取り寄せた食べ物と、漫画まんがを提供しているとはいえ、Aランク冒険者を雇うのにかなり金がかかることを考えると、破格の条件なんだよな。
 そして、もう一人の従業員であるサリアは、おおかみの魔物の群れにおそわれて、偶然このキャンプ場に逃げ込み、そのえんでって感じだ。彼女も可愛かわいらしいだけでなく、キャンプ場に必要な火や水を魔法で提供してくれる、かなり優秀ゆうしゅうな人材である。


 ソニアとサリアを見ると、二人が怪訝けげんそうな顔をしているのに気付く。
 俺は一旦回想をやめ、ひとまず頭を下げる。

「ああ、すまん。普通に起こそうとしてくれたんだな、ありがとう。ところで今、何時だ?」

 というかメイド服姿の二人に声をかけられつつ揺すられるなんていう、ありがたいシチュエーションの中、俺は意識がなかったのか。
 ……なんだかものすごくもったいない気分だ。

「もう十時ですよ。そろそろお昼の準備をしなければいけないので、無理やり起こそうとしたのです」

 ソニアに言われて時計を見る。

「やべ!? もうそんな時間か!」

 思わずそう声を上げると、め付けられるような痛みが頭に走る。
 この頭の痛みはなんだ? ……結局この頭痛の理由は、わからずじまいだった。
 昨晩のことにしぼって思い出してみよう。
 確かキャンプ場のオープン初日のお祝いってことで、終業後に従業員三人と六人のドワーフ、獣人じゅうじん冒険者二人、サリアの住んでいたエルフ村のみんな、商業ギルドのギルマスで乾杯かんぱいした。
 そのあとみんなと酒を飲みながら、獣人冒険者のランドさんやソニアから冒険者の話を聞いたり、サリアの生まれ育ったエルフ村の村長さんであるオブリさんたちと話したり。そして、商業ギルドのマスターでハーフリングのジルベールさんの愚痴ぐちを聞いたりしたんだよな。
 そうだ。確かそんな飲み会の最中、一度管理棟へ戻ってチーズケーキと酒をストアで購入したんだ。
 このキャンプ場を一緒に作ってきたドワーフのダルガには看板かんばんを、オブリさんには魔物を遠ざける魔導具をオープン祝いとしてもらったから、そのお返しもねて。
 特にチーズが好きなエルフ村のみんなや、ケーキが好きなソニアがとても喜んでくれたんだよな。獣人やドワーフのみんなにも好評こうひょうだったのを覚えている。
 それでそのあとは酒が好きな人だけで持ってきた酒を――そうだ、酒だ! あれが原因だ!!


 ◆  ◇  ◆


「それじゃあせっかくだし、一本だけ特別な酒を出そうじゃないか」

 俺の言葉に、ダルガが眉根まゆねを寄せる。

「なんじゃい、気持ちは嬉しいんじゃが、看板の礼ならいらんぞ。あれはただひまだったから作っただけじゃからのう」
「ああ、チーズケーキもそうだが、別にこれは礼じゃない。こういう場では自分の持っているご飯や酒をみんなで分かち合う物だからってだけだよ。それにこの酒はめずらしくはあるが、それほど高額なわけではない。遠慮えんりょなく飲んでくれ」

 そう、この酒は別に高いわけではない。一本二千円くらいで買えてしまう。

「……ふむ。そういうことならありがたくいただくとしよう。それで、その酒はどういう酒なんじゃ?」

 断ろうとしていたようだが、やはり興味はあったようだ。
 そりゃこの流れで特別な酒と言われて、酒好きのドワーフが気にならないわけがない。

「この酒は『スピリタス』といって、俺の故郷こきょうで一番酒精の強い酒だ!」

 俺がそうげると、ドワーフたちがそろって声を上げる。

「「「おおおおお!!」」」

 スピリタスは、世界で一番酒精しゅせいが強いことで有名なポーランドの酒だ。そのアルコール度数はなんと驚異きょういの九十六パーセント! 酒というよりアルコールその物と言っても過言ではない。
 スピリタスはウォッカの一種だが、通常蒸留酒じょうりゅうしゅは一回から三回ほどしか蒸留しないところを、なんと七十回以上も蒸留して作られる。あまりのアルコール度数の高さから、日本ではガソリンと同じく危険物として扱われている。
 え、ポーランド人って馬鹿ばかなの? と言いたくなるかもしれないが、ポーランドの冬は寒くて長い。こおらない酒が必要であったため、アルコール度数の高いこの酒が生まれたというわけだ。
 ……それにしてもやり過ぎだろとは思うがな。

「これは酒精が強過ぎて本当にヤバいから、酒に弱い人はやめておくか、ジュースで割ったほうがいい。それと、飲める人でも一口分しか飲ませないからな」

 当たり前だがこんな強い酒を一気飲みなんてしたら、間違いなく急性アルコール中毒ちゅうどくでぶっ倒れる。キャンプ場のオープン初日にそんなことをさせるほど俺も馬鹿ではない。
 ほんの少しだけ飲んで、スゲーとかヤベーとか言いながら、仲間内で楽しむのが正しいのだ。
 俺もキャンプ場で仲間と一緒に数回ノリで飲んだが、大いに盛り上がった。まあパーティグッズみたいな物である。
 とはいえ、少量飲んだだけでも口から火をきそうになるし、のどが痛くなる。本当に好きな人はこの痛みのあとに旨さを感じるらしいが、俺には全くわからなかった。
 ジュースで割って飲むと普通に美味うまいんだけどな。

「ゴホッ、ゴホッ。何これ、喉が焼けそうだよ!」
「ウハァ! いかん、酒精が強過ぎる! 水、水!」
「ガハッ、俺にも無理だ! 街で出てくる酒を何十倍もくしたみてえだ!」
「ゴホッ! こんない酒を飲んだのは初めてっす! これは酒なんすか?」

 ジルベールさん、オブリさん、ランドさん、ダルガの元弟子でしが早速飲んだが、き込んでしまった。やはりこの酒は強過ぎる。

「ふ~む、じゃがその奥に確かに酒の味を感じるのう」
「うむ、間違いなく酒じゃとわかるな」
「そうじゃな。しかし、どうやったらこれほど酒精の強い物を作れるのか、想像もつかん」

 おお、ダルガと、別の鍛冶場かじばの元親方であるアーロさんとセオドさんは咳き込まずにこの酒を飲めるのか。

「ユウスケ殿どの、見事な酒をありがとう。感謝するぞ」
「喜んでもらえてよかったよ、セオドさん。さあ、まだまだ夜は長いぞ!」

 そして、そのあとも宴会えんかいは続いた。
 ソニアやサリアたちが管理棟に戻ったあとも、俺はみんなと飲み続けていたんだよな。
 スピリタスを飲んだあたりから感覚がバグっていって、いつもより余計に飲んでつぶれてしまい……なんとか管理棟まで辿たどり着いたが、自分の部屋には行けず廊下ろうかで寝てしまったってとこか。
 そのあと朝起きたソニアかサリアが食堂まで運んでくれて、わざわざ毛布もうふをかけてくれたんだな、きっと。


 ◆  ◇  ◆


「……思い出した。道理で頭が痛かったわけだよ。他のみんなは大丈夫だったのかな?」
「朝キャンプ場を回ってきましたが、みんなテントにいるようだったので、大丈夫だと思いますよ。……いつ起きてくるのかまではわかりませんが」

 今はまだそれほど寒くないからよかったが、寒い時期にテントの外で寝ていたら凍死とうしする可能性まであった。俺も含めてハメを外し過ぎたみたいだ。ソニアには感謝しなければならない。

「やべ、そういえば朝早くに出発する予定のお客さんはもう出ちゃった?」
「ええ、とっくに出発されました。昨日ユウスケに指示された通りに、朝食のホットサンドを無料で提供したら、とても喜んでいましたよ」

 他のみんなにはチーズケーキとスピリタスを振る舞ったからな。先に寝てしまった人たちにもサービスしないと、不公平になる。
 とはいえオープン初日だけの特別サービスだがな。

「しまったなあ。せっかく初日に来てくれたんだし、ちゃんと見送りをしたかったのに」

 確か今朝出発する予定だったのはソニアの知り合いの冒険者で、男三人と女一人の冒険者パーティだけだったはずだ。

「で、でもここの料理をめてくれましたし、きっとまた来てくれますよ!」

 サリアはそう言ってくれるが、ソニアの知り合いだし、リップサービスの可能性もある。見送りにおっさん一人が増えたところで変わりはしないだろうけれど、それでも行くに越したことはない。これは反省しなければ……
 そうはいっても、過去の失敗をいつまでも引きずっているわけにもいかない。

「だといいな。おっと、こうしちゃいられない、準備をするから先に昼食の仕込みを頼む」

 俺の言葉に、ソニアとサリアが頷く。

「はい!」
「ええ!」

 二日酔いで重い身体をどうにか動かして、急いで自分の部屋に戻って制服である執事服に着替える。
 今日はまだオープン二日目。二日酔いでダウンしている暇はない。
 着替えたあとは今日の料理の仕込みを二人と一緒にして、朝出発したお客さんの後片付けをする。ちゃんとテントをたたんで、テーブルやアウトドアチェアやゴミなどをまとめてくれていたので、片付けはすぐに終わった。実際にキャンプ場を運営する側に回ると、マナーのよいお客さんのありがたさがよくわかる。
 テントやマット、寝袋ねぶくろには消臭しょうしゅうスプレーをかけておく。一月に一度くらい洗濯せんたくして天日干てんぴぼししておく予定だ。
 それとは別に雨の日のあとはすぐにかわかさないと、テントはすぐにカビてしまうから気を付けないとな。


 時刻は十一時、このキャンプ場のチェックアウトの時間だ。ジルベールさんが張っていたテントの前に向かう。

「ジルベールさん、もうチェックアウトの時間ですよ」

 一泊の予定だったのはジルベールさんとエルフ村のみんな、ランドさんたちだ。オブリさんたちのテントにはサリアが、ランドさんたちのテントにはソニアが様子を見に行っている。
 基本的にお代は先払いなので、支度さえできていればあとは出ていくだけだが――

「うう……頭が痛い。もうそんな時間なの? ごめん、無理……もう一日泊まるよ……」

 まあこうなるよね。ジルベールさんも昨日は俺と同じくらい酒を飲んでいたわけだし、当然だ。
 明日は仕事があると言っていたが、このまま無理に出発させて、街に戻るまでに魔物や盗賊とうぞくに襲われたなんてことになっては困る。

「わかりました。お代はあとで結構ですよ。あとで二日酔いにく料理を持ってきますから。ここに二日酔いでも飲みやすい飲み物を置いておきます」

 俺はそう言って、スポーツドリンクを置く。
 二日酔いにさせてしまった罪滅つみほろぼしとして、潰れてしまった人にはスポーツドリンクを配ることにしたんだよな。

「うう……ありがとう……」


「ジルベールさんは完全に二日酔いでダウンしてるから、一日延泊するって」

 管理棟に戻ってから、俺はそう報告した。
 すると、サリアは苦笑いを浮かべて言う。

「村長たちももう一泊延長するようです。村長もお父さんもお母さんもまだテントで寝ていました」
「了解だ」
「それとルーネちゃんたちにチーズケーキを持っていったら、すっごく喜んでいましたよ!」
「喜んでもらえてよかったよ」

 やっぱりオブリさんたちもダウンしているか。サリアの両親は酒にあまり強くないようだ。スピリタスや酒精の強い酒には手を出さずに、チューハイやワインくらいしか飲んでいなかったけど、二日酔いでダウンしているらしい。
 あと昨日先に寝てしまっていた四人には、チーズケーキを持っていってもらったんだよな。
 エルフはチーズが好きだし、ホットサンドよりもチーズケーキのほうが喜びそうだなーと思っての判断だったが、正解だったようだ。

「ランドたちも全滅ぜんめつですね。同じく一泊延長するようです」
「そっちもか……」

 結局昨日の宴会に参加していた人でまともに動けているのは、酒を一切飲まなかったソニアと、次の日も仕事があるからと最初の一杯しか飲まなかったサリアだけだ。
 ……従業員の中で一人だけ二日酔いでダウンして、申し訳ない。

「収益を考えると、延泊してもらえるのはありがたいんだが、いくらなんでもこれはまずいな」
「ええ、次の日予定がある人もいるでしょうし、無理に酔っ払ったまま街に帰ろうとして、事故に巻き込まれてしまうなんてことも起こるかもしれません」
「そうですね。街から少し距離がありますし」

 ……うん、ソニアとサリアの言う通りだ。この世界には回復魔法や解毒げどく魔法があり、簡単な物ならソニアも使えるらしいが、二日酔いには効かないらしい。
 このままじゃ、いずれ酒の飲み過ぎによるトラブルが起こるのは目に見えている。
 こっちの世界の人たちは酒精が強い酒に慣れていないし、ビールをはじめ冷やした酒は飲みやすいから、加減がわからずゴクゴクいってしまうのだろう。
 それに、結界のお陰で酔っ払っての暴力沙汰ぼうりょくざたは起きないが、騒ぎ過ぎたら隣のテントに泊まっている人たちに迷惑めいわくをかけてしまう。
 そのせいでトラブルが起こるのも当然よくない。

「……やりたくはないけれど、制限を設けないと駄目かもな」
「ええ。そうすればゆっくりと味わってお酒を飲むようになるでしょうし、倒れたり次の日起き上がれなくなったりはしなくなるでしょう」
「そうですね。ここの料理やお酒は美味おいしいので、制限があってもお客さんはキャンプ場に来てくれると思いますよ」

 ソニアとサリアの言葉を受けて、俺はうなる。

「少し考えてみるか……」


「ジルベールさん、起き上がれますか?」
「うん……なんとか。朝よりはまだマシになってきたかな」

 昼過ぎに、食事だけのお客さんから注文を取る合間に、二日酔いでダウンしているみんなに軽食を持っていくことにした。
 他のみんなには食事を渡し終え、今俺はジルベールさんのテントを訪れている。

「軽くですが、何か腹に入れておいたほうがいいですよ。二日酔いにく軽食を作ったので食べてみてください」
「ありがとう。あっ、米を使った料理とスープかい? 美味しそうだね。いいにおいがする」

 俺的に二日酔いのあとに嬉しい料理――うめと高菜のおにぎり、そして豆腐とうふとワカメの味噌汁みそしるを用意した。

「うん! ご飯の甘味あまみと、赤い実? の酸味さんみ絶妙ぜつみょうにマッチしていて、美味しいね。それにこっちのスープは優しい味だ。中に入っている海藻かいそうと白くてやわらかい……何かはわからないけど、これも素朴そぼくですごく味わい深い。なんだか少しだけスッキリしてきたよ!」

 気に入ってもらえたようでよかった。梅干しや味噌汁を食べると、二日酔いがやわらぐ気がするんだよな。

「気に入ってもらえてよかったです。とりあえず無理せず、ゆっくりと休んでくださいね」
「うん。ユウスケ君、ありがとうね!」

 少しは食欲があるようだな。
 二日酔いではないサリアやソニアたちにも味噌汁は好評だったので、異世界の人は日本の伝統食材である味噌を受け入れてくれそうだとわかった。
 今度は味噌を使った料理でも作ってみるとしよう。


「よし、なんとか今日も乗り切ったぞ!」

 二日酔いの地獄じごくの苦しみを耐え抜き、無事に二日目の営業が終了した。
 昨日の宿泊客の大半が夕方くらいまで完全にダウンしていたのも逆に助かった気がする。それに午前中は二人がとても頑張ってくれたので、俺はだいぶ楽できた。
 そして、今日は昼食だけ利用してくれるお客さんは多少いたが、新規の宿泊客はソニアの知り合いの冒険者の一組だけだった。やはり街から少し離れているため、商業ギルドのチラシを見ても、わざわざここまで泊まりに来るお客さんは少ないのだろう。
 そう考えると現状、口コミに頼る他ない。
 キャンプ場を利用してくれたお客さんが、知り合いを連れてきてくれることを祈ろう。
 そんな風に考えているうちに締め作業が終わった。
 それを見計みはからって、サリアとソニアが声をかけてくる。

「「お疲れさまでした!」」
「サリアもソニアも、お疲れさま。だいぶ仕事に慣れたようだな。メニューの大半を一人で作れるようになったし、接客もバッチリだ。二日目にしてもう教えることはほとんどない」
「あ、ありがとうございます!」
「どこかの誰かさんが午前中にダウンしていたお陰で、私たちもだいぶ経験を積めましたからね」

 鋭利えいりな言葉に俺が思わず「うぐっ……」と呻いてしまったのを見て、サリアがとがめるように言う。

「ソ、ソニアさん! そんなこと言ったら可哀想かわいそうですよ!」
「いや、ソニアが正しい。二人には本当に迷惑をかけた。俺の分も頑張ってくれて、本当にありがとう」

 俺の言葉に対して、サリアは首をぶんぶんと横に振る。

「いえ、気にしないでください!」
「……そこまで反省しているとは思いませんでした。ああは言いましたが、それほど気にしていないので、大丈夫ですよ。誰でもミスはする物です」

 ……うう、二人とも優しい。
 ブラック企業につとめていた頃は、上司との飲み会で無理やり飲まされた挙句あげく、次の日に二日酔いでダウンしていたら罵倒ばとうされるという、理不尽過ぎることもあった。
 それなのに、二人は自業自得じごうじとくで潰れた俺をこうもいたわってくれるなんて……天使のようだ。
 とはいえ、それに甘えるのはよくない。

「ごめん、今後は気を付ける。昼間にも少し話したけれど、やっぱりこのキャンプ場には酒の購入制限を設けようと思う。もちろん俺も含めてな」

 購入を制限すれば、そもそもの摂取量が減る上に、残量を気にしながら飲むだろうから必然的にペースが遅くなる。ちなみに、それとは関係なくスピリタスなんて酒は永久封印ふういんだ!

「ええ、賛成です」
「私もです。お酒は飲み過ぎると毒だと村長もよく言っていました」

 うん、サリアの言う通りだ。美味い酒も飲み過ぎたら毒になる。
 ただ、それを言った張本人の村長は完全にダウンしていたけれどな。

「とりあえず、今まで通りストアで買った缶や瓶の酒をそのまま売るとして、どんな種類でも合計五本までしか買えないようにしよう。で、強い酒は小さいびんで売るとかして、飲み過ぎてしまわないようにしなきゃな」

 ストアでも飲みきりサイズのワインや日本酒が売っているから、とても助かる。

「そのあたりは後々調整していけばいいと思いますよ。あと、お昼に出してもらった……おにぎりと味噌汁でしたっけ? あれもメニューに加えてはどうですか?」
「おにぎりは受け入れてもらえると思っていたが、味噌汁も意外と評判がよかったな。結構独特の香りがしたと思うが、大丈夫だったか?」

 味噌は日本特有の調味料だからな。確か元の世界でも外国人の好みは分かれていたはずだ。

「ええ。むしろとてもいい香りだと感じましたよ。ご飯ともよく合いますし、優しい味でとても美味しかったです」
「私も美味しくいただきました。それに、おにぎりの中に入っていた赤くて酸っぱいのも初めて食べる味でしたが、最高でした!」
「そしたら明日の朝食も、ご飯と味噌汁にしよう」
「ええ、いいですね!」
「はい、楽しみです!」

 ソニアとサリアは嬉しそうにそう言って頷いた。
 気に入ってくれてよかった。さて――

「それじゃあ、酒の購入制限を設けることをダルガたちに伝えに行かなきゃな」


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