『億り人』になって田舎に家を買ったら、異世界と現代日本を行き来できるようになった件。~お金と文明の利器を使ってのんびり生活~

タジリユウ

文字の大きさ
3 / 110

第3話 謎の生物

しおりを挟む
 
「……よし、昨日と変わりないな」

 鏡を通って湖畔の小屋へ行く。相変わらずとても綺麗な景色だ。

 昨日は小屋の周囲から数メートルくらいしか離れていないが今日はその先へ行ってみる予定だ。少し離れた場所に森があるけれど、さすがに森にはなにがいるのか分からなく怖いので、湖の周りを進んで、集落や人工物がないかを探してそうと思う。それに湖の周りなら道に迷うこともないだろうからな。

「本当に綺麗な湖だ」

 この大きな湖を一周するにはしばらく時間がかかりそうだ。湖はまったく汚れておらず、透き通っていた。

 遠目から魚がいるのを見つけたし、浜辺には虫やカニのような生き物もいる。俺に種類なんかはわからないので、スマホで写真を撮っておいてあとで家に戻ったら、ここがどこなのかわかるかもしれないので調べてみるつもりだ。

「こういう場所に住むことにも憧れていたんだけれど、さすがにここまで何もない場所で暮らしていける気はしないから諦めたんだよなあ」

 広大な自然の中を一人で歩いていると独り言が増えてしまうのは俺だけではないはずだ。それにそんなことをつい呟いてしまうほどこの光景は綺麗だった。

 家を引っ越す時もこういった何もない山の中で暮らすことも考えたのだが、さすがに生活インフラのまったく整っておらず、電波の届かない場所で暮らすのは無理だろうと諦めた。やっぱりネットは必要なのである。

 ここが安全な場所だったら、この不思議な世界でのんびりと過ごすのも悪くないかもしれない。

「……んっ?」

 そんなことを考えながら湖のほとりを歩いていると、先の方にもぞもぞと動く影を発見した。緑色に広がる草むらの中を黒いものが動いている。

 思わずしゃがんで身を隠した。ここから見てもかなり大きな動物だ。リュックから双眼鏡を取り出して、動く影を遠くから窺う。

「っ!?」

 そこにいた動物はクマだった。いや、クマではない。4足歩行する黒い毛に覆われた大きなそれは一見クマのような姿をしているが、頭からは一本の角が生えている。あんなクマは見たことがない!

 あれを相手にこんな小さな斧で勝てるわけがないし、逃げるしかない。こちらが先に気付いたのは幸いだった。あんなのがいきなり襲ってきていたら、なすすべもなく殺されていただろう。

「グル?」

 音か匂いかわからないが、クマ型のなにかが周囲を探っている。まずい、もしかして俺が隠れていることに気付いたのか!?

「グルルル!」

「くっ!?」

 突然クマ型のなにかが突然こちらに向かって走り出してきた。しかもとんでもなく速い!

 逃げても追いつかれるし、こんな斧じゃ絶対に無理だ。それならばこれしかない!

「くらえっ!」

 プシュウウウウ

「グルアアアアア!」

 俺がリュックから取り出したスプレーのスイッチを入れると、勢いよくガスが噴射され、鼻先に命中する。

 するとクマ型のなにかがその場で止まり、苦しそうにもがいている。

 クマ撃退スプレー――アウトドアショップで購入したこいつはその名の通りクマなどの大型野生動物と不意に遭遇したときに自分を守るための護身用スプレーだ。スプレーの中身は唐辛子の辛み成分であるカプサイシンで、目や呼吸器官に強烈な刺激と痛みを与える。催涙スプレーにも似ているが、威力と噴射の勢いはその比ではない。

 ダッ

 クマもどきの動きが止まったのを見て、一目散にその場から逃げ出した。

「ガルルル……」

 背後からクマ型のなにかのうめき声が聞こえたが、追ってはこない。

 振り返る時間も惜しんで、全力で元来た小屋へ向かって走った。



「はあ、はあ……死ぬかと思った。高かったけれど、買っておいて本当によかったな」

 クマもどきは俺のあとを追ってくることはなく、なんとか逃げ切ることができたらしい。

 アウトドアショップで購入したクマ撃退スプレーはちゃんとしたもので1万円くらいするのだが、金に糸目を付けずに購入しておいたおかげで命拾いしたようだ。

「なんとか助かったみたいだ」

 ようやく小屋が見えてきた。

 まさかこんな危険な場所だとは思わなかった。もう元の世界に戻って、あんな鏡は叩き割ってしまったほうがいいかもしれない。

「ゲギャギャ!」

「なっ!?」

 横からガサガサとした音が響き、おかしな鳴き声がしたと思ったら小さな影が草むらから飛び出してきた。

 濃い緑色の肌にずんぐりとした体型。鼻は平たく耳は尖り、醜悪な顔立ちをしている。ギョロリと黄色く濁った目がこちらを見据え、唇の間からギザギザの牙が覗いていた。ボロい布切れを腰に巻き、その右手には太い棒切れを持っている。

 ファンタジーの中の生物、ゴブリンがこちらへ向かって走ってきた。

「くっ!」

「ゲギャ!」

 慌てて小屋へ向かって走り出す。

 背後からは俺を追うゴブリンの草むらをかき分ける音が聞こえる。先ほどのクマもどきよりも遅いようだが、俺はさっき全力疾走をしたあとだ。それでも命が懸かっていることもあって、無理やり身体を動かしながら小屋へ向かう。

 クマ撃退スプレーは一度使用したらもう使えない。こんなことなら何本も買っておけばよかった!

「はあ、はあ……」
 
「ゲギャ、ゲギャ!」

 小屋まであと少しだというのに、身体が重い。少しずつだが、俺の後ろから迫る音が近付いてきた。

 ガンッ

「ギャギャ!」

 俺の後ろでなにかが衝突した音が聞こえ、ゴブリンの迫ってくる音が聞こえなくなった。

 それでもかまわず走り続け、なんとか小屋の前まで辿り着いた。

「はあ……はあ……。助かったけれど、どうしてあいつは追ってこなかったんだ?」

 ようやく後ろを見るとゴブリンはだいぶ離れたところで、なぜか一人で暴れているように見えた。

 十分に警戒をして、いつでも小屋に入れる場所から双眼鏡でゴブリンの様子を窺ってみる。

「……まさか、あそこに見えない壁があるのか?」

 双眼鏡から見たゴブリンは透明な壁のようなものに阻まれていた。棍棒を振り回し、ガンガンと見えないなにかを叩いているようだが、それを破れないらしい。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...