22 / 86
第22話 謎の少女
しおりを挟む振り向くとそこにはひとりの女の子がいた。
小学校高学年か中学生くらいの年頃で、紫色の髪をツインテールにしている。そして彼女の耳は普通の人よりも長く、先端がとがっていた。もしかするとベリスタ村の人たちから聞いたエルフという種族かもしれない。
紺色のローブを身に纏い、先端に水晶のようなものが付いた杖を持っている。
「早く答えて」
「キュキュウ!」
「ハリー、ちょっと待て!」
静かだが有無を言わせない口調で女の子はこちらに杖を向けてきた。
ハリーが針を逆立たせ、臨戦態勢に入るのを止め、俺も足下に置いてあるクマ撃退スプレーに手を伸ばすのを止める。いきなり攻撃してくるのではなく、会話をしてくるということは交渉をできる余地があるはずだ。
それにしてもこの女の子はあの見えない壁を通ることができたのか……。それにこの女の子が背後に近付くまでまったく気付かなかった。草むらをかき分ける音まで聞こえないとはどういうことだ?
「俺はケンタだ。この辺りを旅していて、ここで何日か野営をさせてもらっている。そっちに俺たちが泊っているテントがある。君と戦う意思はないから、杖を下ろしてほしい」
少し奥にある先ほど設営したテントを指差したあと、戦闘の意思がないことを伝えるように両手を挙げた。ハリーはまだ針を逆立たせているが、攻撃はしないでくれた。
だが、それでも女の子は警戒をしているのか、杖を下げてくれない。
「……周囲にある結界はどうやって通った?」
「結界?」
もしかしてあの見えない壁のことか?
「特に何もしていないよ。普通にここまで入って来られたけど……」
「確かにあなたは魔法使いには見えない。ちゃんと人払いの魔法式の効果は発動しているのに……」
魔法――それはこの世界にある不思議な力だとザイクたちから聞いていた。この子はきっとその魔法使いなのだろう。人払いの魔法式とはザイクがこの小屋を見えなかったあのことか? それともゴブリンやダナマベアを退けたことだろうか?
「君はなんでその結界のことを知っているの?」
なぜ女の子はこの小屋に来て、あの見えない壁の存在を知っているのだろうか疑問が湧いた。
「……ここは師匠が研究に没頭するために建てた小屋で、結界は私が張った」
「なっ! 君の師匠があの鏡を作ったのか!?」
「っ!? 鏡のことを知っている。まさか、あの鏡を通ってきたの?」
「あ、ああ……」
まさかこの女の子が小屋とあの鏡の関係者だったとは……。
「信じられない、魔力が繋がっている。まさか本当に師匠の実験が成功して別の世界と繋がるなんて……」
「最初は俺の家の納屋にあった鏡が光っていたんだ。それで鏡面を触ってみたら手が吸い込まれるようになって、全身入ったらこの世界に来ることができたんだよ」
エルフの女の子は俺の話を信じてくれたようで、杖を下ろしてくれた。ハリーも臨戦態勢を解いてくれて、今は女の子と一緒に鏡の前にいる。
「しかしなんでまた別の世界を繋げる実験なんてしていたんだ?」
「師匠はすごい魔法使いだったけれど、とても変わり者だった。こっちの世界には極稀にこちらの世界の物とは考えられない物が存在していて、それらを調べた結果、この世界とは別の世界があると師匠は考えていた。そういった物をずっと研究していた」
「なるほど」
この異世界にも俺の世界の物があったらしい。もしかするとこっちの世界でいうオーパーツ的な物は異世界の物という可能性もあるのか。
とりあえずこっちの世界を侵略しようとかいう話ではなくてほっとした。まあ、それならこんなボロい小屋じゃなくてもっと大規模な国家間での研究とかになっていただろうな。
「……入れない。どうやって鏡を通るの?」
「えっ、ちょっと待って! あっ、俺は入れるのか、焦ったあ……」
女の子が鏡に手を触れると、なぜか鏡の中に入れなかった。鏡を通ることができなくなったのかと焦って鏡の中に入ったが、問題なく元の世界に戻ることができた。
「ハリーも入れるよな?」
「キュ!」
ハリーにも確認してもらったけれど、俺と同じで鏡を通って世界を行き来することができた。もう一度女の子が鏡を通ろうとするが、先ほどと同様に普通の鏡のように鏡面に触れられてしまった。
「なんで私だけ……。それにこの子はあなたの言葉を理解しているの?」
「キュウ?」
「俺にもよくわからないけれど、俺の言葉や俺の世界の人の言葉が理解できるんだ。それに俺も本の文字は読めなかったけれど、そっちの世界の人の言葉が理解できるんだよ」
「たぶんそれは鏡に翻訳の魔法式が組み込まれているから、お互いの世界の住人の言葉がわかるようになった。さすがに魔物にまで効果があるとは思わなかったけれど」
どうやら俺が異世界の住人の言葉を理解できるのはこの鏡のおかげらしい。道理でハリーはこの女の子やザイクの言葉はわからないのに俺の言葉が分かったわけだ。
「だけどなんで私だけそっちの世界に行けないのかわからない」
「あんまり鏡をいじって俺が帰れなくなるのとかはやめてくれよ……」
確かにそこだけはよく分からない。女の子は鏡に触れたりして調べているけれど、それで俺が元の世界に戻れなくなったら困る。
ぐううううう~
「「………………」」
「ち、違う! 急いでここまで来たから、全然食べていなかったの……」
鏡を調べていた女の子のお腹から突然ものすごい音が聞こえた。
顔を真っ赤にして首を振っているその様子は年頃の女の子のようで微笑ましい。
「そういえば俺たちも昼ご飯の途中だったな。お互いにいろいろと聞きたいこともあるし、ご飯を食べながら話をしないか?」
150
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
落ちこぼれの【無属性】魔術師、実は属性そのものを定義する「概念魔法」の創始者だった
風船色
ファンタジー
「魔法とは才能(血筋)ではなく、記述されるべき論理(ロジック)である」
王立魔導学院で「万年最下位」の烙印を押された少年、アリスティア・レイロード。属性至上主義のこの世界で、火すら出せない彼は「無属性のゴミ」と蔑まれ、ついに卒業試験で不合格となり国外追放を言い渡される。
しかし、彼を嘲笑う者たちは知らなかった。アリスティアが、既存の属性魔法など比較にならないほど高次の真理――世界の現象を数式として捉え、前提条件から書き換える『概念魔法(コンセプト・マジック)』の使い手であることを。
追放の道中、彼は石ころに「硬度:無限」の概念を付与し、デコピン一つで武装集団を粉砕。呪われた最果ての森を「快適な居住空間」へと再定義し、封印されていた銀嶺竜の少女・ルナを助手にして、悠々自適な研究生活をスタートさせる。
一方、彼を捨てた王国は、属性魔法が通用しない未知の兵器を操る帝国の侵攻に直面していた。「助けてくれ」と膝をつくかつての同級生や国王たちに対し、アリスティアは冷淡に告げる。
「君たちの誇りは、僕の昼寝より価値があるのか?」
これは、感情に流されない徹底した合理主義者が、己の知的好奇心のために世界の理を再構築していく、痛快な魔導ファンタジー。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる