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第91話 サミアルの街の宿
しおりを挟む「ったく、時間がかかっちまったな」
時刻は夜。すでに日が暮れてしまったが、先ほどヴィオラに絡んできた3人組を衛兵に引き渡し、ちょっといいところの宿に入ることができた。
時間はかかってしまったが、ああいった他人に迷惑をかけるチンピラを処罰してもらうことができて良かったのかもしれない。
「残念だけれど、市場はもう閉まっている」
「市場にはちょっと寄ってみたかったんだけれどなあ。まあロールルの街の方が大きいらしいし、そっちはちゃんと見て回ろう」
「キュ」
チンピラたちを衛兵に引き渡している間にこの街の市場は閉まってしまった。明日は朝から移動するため、残念だけれどこの街の市場は諦めるしかない。まったく本当に迷惑なチンピラたちだ。
「それにしてもすごく広くて立派な部屋だな……」
「この街の規模からしたら結構いい宿」
俺たちが今日泊まる宿はこのサミアルの街でもいい宿らしい。こんな宿に泊まれるのはさすが高ランク冒険者の2人といったところか。
「でもケンタの世界のベッドの方が寝心地はいいぜ」
「この宿のベッドも上質な魔物の素材を使っているみたいだけれど、技術は俺の世界の方が上だからな」
すでにベッドに寝転がっているヴィオラがそんなことを言っている。この部屋は大部屋でベッドも4つあるので、ハリーを含めて広々と寝られる。
確かに下に敷いてあるマットは俺の世界の物の方が柔らかいかもしれないが、レジメルの街の宿よりも柔らかい素材が使われていてこのベッドでも十分に気持ちよく眠れそうだ。
コンッ、コンッ。
そんな話をしていると部屋の扉がノックされる。
「失礼します。お夜食をお持ちしました」
この宿の従業員のようだ。さすが高級な宿だけあって、食事を部屋まで運んでくれるサービスがある。
先ほど街中で絡まれたばかりだし、こういったサービスはありがたい。テーブルには異世界の様々な料理が並んでいる。
「ケンタの世界の料理を食べたかったぜ……」
「俺もこっちの世界の料理を食べてみたいんだ。デザートは俺の世界のものでいいからさ」
「キュウ!」
みんなは俺の世界の料理を食べたかったようだが、同様に俺もこちらの世界の料理を食べてみたい。俺だけ料理を頼むということもできなくはないが、ひとりだけ頼むというのも少し変に思われそうだからやめておいた。
今日の晩ご飯はパン、腸詰入りの野菜のスープ、焼いた肉に味を付けたものとなる。
「この宿の料理も悪くはねえんだけれど、やっぱりケンタの世界の料理と比べるとどうしても味付けが物足りねえんだよなあ……」
「師匠に同意……」
早速みんなで食べているが、やはり2人は俺の世界の料理の方がうまく感じるらしい。基本的な味付けは俺の世界の料理のほうが複雑で濃厚な味のものが多いからかもしれない。
確かにずっとこちらの世界の料理だと味付けに飽きてしまうのかもな。
「でも肉とかの素材の味はこっちのほうがおいしいと思うよ。ブラックディアの肉って言っていたけれど、鹿肉なのに脂ものっていてうまい。こっちの野菜と肉詰めの味は初めて食べる味だけれど結構いける」
メインの肉料理はシンプルな味付けだけれど、ちゃんと香辛料を使っているみたいだし、肉自体が柔らかいし味も鹿肉とは思えないほどうまい。
腸詰めは俺の世界でも歴史が古くて世界中で作られていたが、異世界でも作られているようだ。しかも俺がよく食べているソーセージとは違い、とても太くて肉の味がこれでもかと主張してきて美味である。野菜も俺の世界のものよりおいしいし、やはり素材の味はこっちの世界の方がうまい気がする。
パンだけは焼き方や酵母の発酵などの違いもあってか、俺の世界のパンの方が柔らかくておいしい気がする。
「こっちの世界のエールも悪くないな。ブドウ酒よりはエールのほうが好みだ」
料理と一緒にお酒も頼んである。エールビールは麦の香りと風味がラガービールよりも強く、ぬるくても十分に楽しめた。ブドウ酒の方は少し雑味が多くて俺の世界のワインと比べるとどうしても劣ってしまうため、エールの方が楽しめる。
「ケンタ、そっちの世界の酒を飲ませてくれよ」
「ああ、了解だ。こっちの世界のお酒よりも酒精が強いから、量はほどほどにね」
昨日いろいろと料理や食材を買いこんでいた時に俺用のお酒を買っているところをヴィオラにしっかりと見られてしまった。
リリスから聞いた話ではヴィオラはそこまで酒癖が悪いわけではないらしいので、ついにヴィオラにも俺の世界のお酒を解禁だ。リリスは元々お酒が駄目だったようだが、ヴィオラは飲めるみたいだし、どんな反応をするのか楽しみだ。
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