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第3話
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キッチンいっぱいに立ち込める香りが家中に広がる。
テーブルに並べられた大皿には山盛りの唐揚げとハンバーグ。
中央のカレー鍋からは芳醇な香りが立ち昇っている。
「さあみなさん!食べましょう!」
私が両手を挙げるとカイトとマリが歓声を上げた。
ケイも駆け寄ってきて椅子によじ登る。
精霊たちも次々と現れテーブルを囲む。
「いただきます!」
一同が声を揃えた瞬間、彼らの幸福そうな表情とともに夕食が始まった。
---
「ごちそうさま!」
「おいしかったよ!ママの料理はやっぱり最高!」
カイトとマリが満足そうな表情で食後の紅茶を飲み干す。
ケイは満腹になったのかすでに椅子の上で眠そうに舟を漕いでいる。
食事を終えた食堂は穏やかな空気に包まれていた。
アクアが淹れた食後のお茶が湯気を立てている。
カイトは満足そうに背もたれに寄りかかり、マリは幸せそうに頬を緩めていた。
窓からは夕暮れの光が差し込み、部屋全体を琥珀色に染めていた。
「あー、満腹。やっぱりママのご飯は最高だよね」
マリが陶然とした表情でお茶を啜る。
「まったく同感だ」
カイトが微笑みながら同意する。
その笑顔には幼い頃から変わらない純粋さが宿っていた。
私は嬉しそうに微笑んだ。
自分の娘と息子の喜ぶ姿を見るだけで日々の疲れが吹き飛ぶ思いだった。
しかし同時に、こんな穏やかな時間が永遠に続くわけではないことも感じていた。
ふと窓の外に目をやると、西の空が茜色に輝き始めている。
「そういえば」
カイトが口を開く。
お茶を一口飲んで喉を潤した後、何気ない調子で話し始めた。
「最近ギルドで噂になってるんだけど。なんだかダンジョンの中で別の世界、地球とかいう場所と繋がっているらしいんだ」
カイトの言葉に、私の耳がピクリと動いた。
まるで昔の恋人の名前を突然聞かされたかのように。
「地球……?」
私の声がかすかに震える。
脳裏に封印していた記憶が蘇った……日本、高校生活……そしてあの足元が光り輝いた光景。
200年以上前の出来事が鮮明に浮かび上がってきた。
カイトとマリは互いに顔を見合わせ、なぜ私がこれほど驚いているのか困惑した表情を浮かべた。
「ママ? どうしたの?」
マリが心配そうに尋ねる。
「だって……私の……私の生まれた場所が……」
私は言葉を選ぶように慎重に話し始めた。
「実はね、私は地球っていうところで生まれたの。約200年前までそこで暮らしていたのよ」
室内に静寂が訪れた。
家族全員の視線が私に集中する。
初めて聞く真実にカイトは呆然とし、マリは信じられないといった表情で瞬きを繰り返した。
「本当なの?」
カイトがようやく絞り出すように尋ねた。
「ええ」
私は落ち着いた声で続ける。
「今は地球とダンジョンで繋がったなんて聞いて、本当にびっくりしたわ」
マリが立ち上がり、興奮した様子でテーブル越しに身を乗り出してきた。
「ママ! 故郷のことを教えて!」
「落ち着いて」
私は微笑みながら娘をなだめる。
「200年以上前の話だしきっと地球も変わっているわ。明日にでも実際に行って確かめてみようと思うんだけど……」
「ママー」
ケイの小さな声が響く。
「お話……終わった?」
私が優しく呼び寄せるとケイは嬉しそうに駆け寄り、膝の上にちょこんと座った。
金色の髪がさらりと揺れる。
「もう遅いから寝ましょうか」
私がそういうとカイトとマリはうなずき席を立った。
「母さん」
カイトが廊下へ向かいながら振り返る。
「明日のダンジョン、俺も行っていいですか?」
「もちろん!」
私は微笑んだ。
「マリも行くでしょう?」
「当然です!」
マリが元気よく答えた。
ケイを抱っこして部屋に運んで自室へ向かう途中、私は200年ぶりに見る故郷の景色を想像し胸が高鳴るのを感じた。
それは懐かしさだけでなく未知への期待も混ざった複雑なものだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今後は1日1回
朝7時10分に投稿予定
よろしくお願いいたします。
テーブルに並べられた大皿には山盛りの唐揚げとハンバーグ。
中央のカレー鍋からは芳醇な香りが立ち昇っている。
「さあみなさん!食べましょう!」
私が両手を挙げるとカイトとマリが歓声を上げた。
ケイも駆け寄ってきて椅子によじ登る。
精霊たちも次々と現れテーブルを囲む。
「いただきます!」
一同が声を揃えた瞬間、彼らの幸福そうな表情とともに夕食が始まった。
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「ごちそうさま!」
「おいしかったよ!ママの料理はやっぱり最高!」
カイトとマリが満足そうな表情で食後の紅茶を飲み干す。
ケイは満腹になったのかすでに椅子の上で眠そうに舟を漕いでいる。
食事を終えた食堂は穏やかな空気に包まれていた。
アクアが淹れた食後のお茶が湯気を立てている。
カイトは満足そうに背もたれに寄りかかり、マリは幸せそうに頬を緩めていた。
窓からは夕暮れの光が差し込み、部屋全体を琥珀色に染めていた。
「あー、満腹。やっぱりママのご飯は最高だよね」
マリが陶然とした表情でお茶を啜る。
「まったく同感だ」
カイトが微笑みながら同意する。
その笑顔には幼い頃から変わらない純粋さが宿っていた。
私は嬉しそうに微笑んだ。
自分の娘と息子の喜ぶ姿を見るだけで日々の疲れが吹き飛ぶ思いだった。
しかし同時に、こんな穏やかな時間が永遠に続くわけではないことも感じていた。
ふと窓の外に目をやると、西の空が茜色に輝き始めている。
「そういえば」
カイトが口を開く。
お茶を一口飲んで喉を潤した後、何気ない調子で話し始めた。
「最近ギルドで噂になってるんだけど。なんだかダンジョンの中で別の世界、地球とかいう場所と繋がっているらしいんだ」
カイトの言葉に、私の耳がピクリと動いた。
まるで昔の恋人の名前を突然聞かされたかのように。
「地球……?」
私の声がかすかに震える。
脳裏に封印していた記憶が蘇った……日本、高校生活……そしてあの足元が光り輝いた光景。
200年以上前の出来事が鮮明に浮かび上がってきた。
カイトとマリは互いに顔を見合わせ、なぜ私がこれほど驚いているのか困惑した表情を浮かべた。
「ママ? どうしたの?」
マリが心配そうに尋ねる。
「だって……私の……私の生まれた場所が……」
私は言葉を選ぶように慎重に話し始めた。
「実はね、私は地球っていうところで生まれたの。約200年前までそこで暮らしていたのよ」
室内に静寂が訪れた。
家族全員の視線が私に集中する。
初めて聞く真実にカイトは呆然とし、マリは信じられないといった表情で瞬きを繰り返した。
「本当なの?」
カイトがようやく絞り出すように尋ねた。
「ええ」
私は落ち着いた声で続ける。
「今は地球とダンジョンで繋がったなんて聞いて、本当にびっくりしたわ」
マリが立ち上がり、興奮した様子でテーブル越しに身を乗り出してきた。
「ママ! 故郷のことを教えて!」
「落ち着いて」
私は微笑みながら娘をなだめる。
「200年以上前の話だしきっと地球も変わっているわ。明日にでも実際に行って確かめてみようと思うんだけど……」
「ママー」
ケイの小さな声が響く。
「お話……終わった?」
私が優しく呼び寄せるとケイは嬉しそうに駆け寄り、膝の上にちょこんと座った。
金色の髪がさらりと揺れる。
「もう遅いから寝ましょうか」
私がそういうとカイトとマリはうなずき席を立った。
「母さん」
カイトが廊下へ向かいながら振り返る。
「明日のダンジョン、俺も行っていいですか?」
「もちろん!」
私は微笑んだ。
「マリも行くでしょう?」
「当然です!」
マリが元気よく答えた。
ケイを抱っこして部屋に運んで自室へ向かう途中、私は200年ぶりに見る故郷の景色を想像し胸が高鳴るのを感じた。
それは懐かしさだけでなく未知への期待も混ざった複雑なものだった。
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