石はひとつの願いとなる

桜乃海月

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第六話

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 少し中に入ったところにはイメフの亡骸がたくさん転がっている。
 レンは思った。どうしてイメフには幼い男の子がこんなにも多いのだろうと。
「ここでただ見て、イリニがあそこに転がる一つになっちまうのは嫌だから」
 フェンスを抜けたレンはイリニが戦っている方へと向かう。道中に起動しているレーザーガンがあればショットガンで破壊した。
 その行動が施設の防衛プログラムにレンは敵だと判断させ、イリニに向いていたレーザーガンの一つがレンに向けられた。
 それを素早く察知したイリニは、レンの元に降り立ち代わりにレーザーを受けた。
 イリニが自分を守ってくれたという事実が、レンの中に残っていたイメフに対するわずかな恐怖を払拭する。
 イメフは、少なくともイリニは、戦うためだけに存在したんじゃない。守るためにあったんだ。
 そう思った。これ以上イリニの負担にならないように気をつけながら、イリニに加勢した。

 起動するレーザーガンがなくなり、イリニは地上へと降り立つ。
 質量保存の法則を無視して、翼や銃身がめきめきと音を立ててイリニの体に収められていく。
 全身を切り裂かれたような見た目のイリニの皮膚は、内側から修復されるようにその裂け目を閉じた。
 その間イリニは叫び、呻き、もがきながらその小さな体ですべてを受け止める。
 悲惨な光景から、レンは目を離さなかった。いや、離せなかった。
 決して豊かな生活を送れているわけではないが、今自分が生まれて生きているのは、イリニのような子が、戦ってくれたからに他ならないと思ったからだ。
 ミサは見続けることに耐えられなかった。自分の両親やその親がこうやって苦しむ子をたくさん生み出したと思うとその罪に耐えられなかった。
 呻くのをやめたイリニはそのまま意識を失ってしまう。
「イリニは大丈夫なのか?」
 レンの言葉にミサは首を横に振るだけだった。ミサの鞄からイリニの予備のマントを取り出してレンはイリニをくるんだ。
「わからないの。戦闘に向けたメンテナンスなんてしてこなかったし、兵器としての活動は命を縮めるとしか聞いてない。イリニがこれまでどれくらい戦ったかも知らないし」
 そこにいても仕方ないと、意識が戻らないイリニをレンが担いで、とりあえず一番大きい建物に向かう。
 建物の中はシーンと静まりかえっていた。
「ちょっと中を見てくるわ」
 そういってレンはミサとイリニを残して、建物の最深部へと向かう。
 世界の中心。レンの頭の中ではレオの声が呼び起されている。
『お兄ちゃん、知ってる? 世界の中心にある宝石を手に入れると、願いが叶うんだよ。僕のお願い何かわかる?』
 その時はわからなかった。今でもわからない。
 平和な世界。おなか一杯になるくらいの美味しいごはん。両親。自由に遊べる場所。暖かな家。考えればきりがない。
 今の俺の願いはとレンは考える。
 イリニが無事目覚めること。まだ付き合いは短いが、イリニはいいやつだし、元気でいて欲しい。
 レオも俺の無事を願ってくれてたのかなとレンは思った。そうだといいなと思いながら足を動かす。
 考え事をしている間に、レンの前に他のものとは違う、大きくて重厚な扉が現れた。
 ここが建物の中心か?
 自動ドアであっただろうその扉を無理やりこじ開けると、レンは部屋の中心に巨大な機械とさらにその中心にセットされた鉱物が見えた。
 レンは鉱物の前まで歩き、適当にボタンを押して鉱物を取り出そうとしたが、諦めて力づくで取り出した。
 宝石というには輝きのない見た目に、やっぱり噂話はただの噂ってことかと失望しながらもそれを持ってイリニとミサの元に戻った。
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