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番外編
3 メンヘラ注意
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マリーが来て、アレンの介護?をはじめてからなんだかよく喋れるようになった気がする。
マリーは俺と同じ生物兵器だった。俺はずっと一人で、自分は他人とは違うと思いながら孤独に生きていた。同じ存在に出会えて嬉しかった。
・・・・・・同じ存在?
いや、全然違うんじゃないか?
マリーは俺なんかよりも生物兵器としての機能がずっと高い。
俺は、放射線への耐性と細胞の強化と早い修復機能しか備わっていないが、マリーは細胞変化機能がある。俺みたいな不良品と違って、マリーは完璧な生物兵器だ。
アレンにほぼ毎日夕飯を作りに行っている。俺は良かれと思ってやっていることだが、本人はお節介と思っているかもしれない。
この間、つい、アレンに「友達」だと言ってしまったが、一体誰が俺と友達になりたいものか。アレンだってきっと俺なんかに友達とか言われたくないかもしれない。
もしかしたらアレンも「あんな化け物の友達とかマジきめぇわ」とか思っているのかもしれない。
ありえる。
俺はみんなに嫌われているから。
急にそんな不安がよぎって今日も眠れなくなっていた。
俺はマリーにも嫌われているのだろうか?
実は、相部屋で生活していることを心底嫌がっているのかもしれない。それで、密かに俺を呪っているのかもしれない。俺が死ねば部屋が広くなる、と。
そうだ、直接訊いてみよう。
俺は携帯を手にとり、マリーにメールを送った。
『マリー、突然ごめん。教えてほしいことがあるんだけど、今何してる?』
現在時刻は午前3時26分。
3分後、返信がない。既読もつかない。やはり嫌われているのかもしれない。俺からのメールを見る気も出ないほど嫌いなんだ、きっと。
だけど、そんなの耐えられない。唯一の理解者だと思う、マリーに嫌われてしまったら俺はどう生きていけばいい?生きていけない。もう死ぬしかない。
もう一度、マリーにメールを送った。
『マリーは、俺が嫌いか』
・・・・・・既読がつかない。
間違いない、絶対に嫌われている。俺は確信してしまった。
俺は何か間違えてしまったのだろうか。マリーに嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
そんなのいやだ。
・・・・・・いやだ、いやだ、いやだ!!
もう一度、何通かメールを送信した。だけど、やっぱり返信は来なかった・・・・・・嫌われているから。
そうだ、死のう。
俺は部屋に常備されてある、研究所の台所から借りたナイフを握った。それを首に当てたら血が流れてきた。そうだ、このままもっと深く、切ってしまえば・・・・・・
バァアン!
部屋のドアが勢いよく開かれた。
「ちょっと、今、夜中の何時だと思ってるの?!メール285件ってどういうこと?!うるさいよ!」
パジャマ姿のマリーが入ってきた、可愛い。
「・・・・・・何やってるの!?」
ナイフを取り上げられた。
「首が血だらけじゃないの!また切ったの?!」
・・・・・・ああ、そうだよ。
今日も、また切った。君がいないと死んでしまうから。
「あのねぇ、毎晩こんなことしてたら困るの!あなたも幸い傷跡は残らないにしても、あたしの睡眠時間を奪うのいいかげんにしてくれる?!」
マリーに説教されている。声を、かけてもらっている。もしかして、嫌われていないのかもしれない。良かった、なんだか安心して涙が出てきた。
「感動するところじゃないから!もういいわっ、明日は病院に連れて行くからね?!あたしはもう耐えられない!」
それからマリーは俺が眠るまで部屋にいてくれたことを覚えている。
※
あたしの周りにはちょっとおかしい人が多い気がする。
前住んでいたコミュニティのオリバー博士は完全におかしかったし、最近知り合いになったアレンもよく考えたらやっぱりおかしい。
ジョゼフはというと、毎晩いつも訳の分からない癇癪を起こすので、それをイヴァン博士に相談してみたら「まあ、ジョゼフは昔からちょっと情緒不安定なところがあるからねぇ」と軽く流されてしまった。
ちょっとなんかじゃない、絶対に。毎晩300通近くの迷惑メールが送られて、どうしたのかと思って、いつも部屋に行くと自傷行為してるし、たまに頭を抱えながら号泣してることもある。
これを「ちょっと」とか言えるイヴァン博士も少しおかしいのかもしれない。というか、ナディエージダの幹部はみんなおかしいのかな?とんでもないところに来てしまった。
今日こそジョゼフを病院に連れて行く。このままだと睡眠不足であたしの方が気がおかしくなりそう。
ジョゼフを連れてナディエージダの中央総合病院に来ていた。待合室のソファに前髪を下ろした姿のアレンが座っていた。眼鏡はかけていなかったし、体調は良さそうだった。
「・・・・・・え、お前らここで何してんの?」
奴の存在を無視して通り過ぎようとしたら話しかけられてしまった。不愉快だわ。
「・・・・・・ジョゼフの診察」
「ジョゼフ?!そんな奴でも病気になることってあんのかよ!どうした?!」
「いや、体の病気じゃなくて、頭の病気だと思うの」
「あー、なるほど」
アレンでも納得してしまうほどやっぱりジョゼフはおかしいらしい。だったら何でもっと早く連れてこなかったの。
「確かに、鍛錬場でたまに急に座って頭抱えてることあるな。気持ちわりーから無視してたけど」
「そうだったの」
あなた、指揮官なんだからそれならそうと早くこの人の保護者に報告しなさいよ。それをイヴァン博士に言いなさいよ。
とか言おうと思ったけど、アレンは絶対そんなめんどくさいことはしないだろうと思って言うのをやめてしまった。
それから連れてきたジョゼフの顔色を見てみたら、なんかもう完全に暗い。ここは葬式か?ってぐらいものすごく暗かった。体の病気なんてないはずなのに目の隈も酷い。あ、この人も寝不足だからそりゃ隈ぐらいあるよね。ちなみにアレンにも隈があった。
「あー、そいつ、今日はダメな日だな・・・・・・鍛錬場でそのオーラ出してる時は、ルイスがそいつを休憩所に連れて監視してる」
アレンは今のジョゼフを見てそう言った。
「頻繁にあるの?!」
「ああ、月に一回か二回ぐらい」
それなら3日に一回休むアレンよりは健康か、とか思ったけど、それはそれでめんどくさいかもしれない。
すると、ジョゼフはポケットからカッターナイフを取り出した。カチカチと音を鳴らして自分に向けている。
「・・・・・・ちょっと!何してんのよ!?人が見てるからやめなさいよ!」
そう言うと、ジョゼフはハッとしてカッターの刃をしまった。無意識だったらしい。
「監視してねーと、そいつ、そうやって自殺未遂するから」
「そうなの?!重症じゃないの?!」
「ジョゼフ・シュヴァルツヴァルト様ー、17番診察室までお越しくださーい」
やっと呼ばれたのであたしはジョゼフを連れて診察室に入った。アレンはあたし達に向けて手を振った。どうやらあいつは前髪を下ろしてるとヤンキー成分が減るらしく、こういう時にちゃんと挨拶ができるみたい。あいつがするなんて気味が悪いから別にしなくていいけど。
「夜中になると癇癪を起こすんです。昼間はほとんど問題ないんですけど、夜中・・・・・・」
喋れないジョゼフの代わりにあたしがこの精神科医に説明していた。精神科医はぐったり座ってるジョゼフを見ながらあたしの話を聞いていた。
「癇癪ね、どんな感じか具体的に言うと?」
「えっと、自傷行為したり、急に泣いたり」
「なるほどね」
精神科医は少し考えてからジョゼフにこう話しかけた。
「ジョゼフくん、気分はどうかな?」
ジョゼフは辛うじて精神科医と視線を合わせたけど、応えることはできなかった。その様子を見て精神科医は「なるほど」と呟いた。それからあたしにこう言った。
「ジョゼフくんは、場面緘黙とパニック障害かもしれないね」
「場面緘黙とパニック障害」
病気が2つもあるのか。あたしに安眠できる夜はいつかやってくるのだろうか、不安になってきた。
「とりあえず、精神安定剤を処方しておくね」
「はい・・・・・・」
「それと、この薬は君が管理して、寝る前に一錠だけ飲ませてあげてね。本人が持ってると、一気に飲み干しちゃうかもしれないから」
「一気に飲み干しちゃう?何でそんなことするんですか?」
「うーん、まあ、自殺未遂の一種かな?」
「わ、わかりました。あたしが管理します」
診察室を出たら、待合室のソファでアレンがめちゃくちゃ落ち込んで座ってた。
「血液検査から帰ってきた・・・・・・」
聞いてもいないのに話しかけてきた。
「貧血・・・・・・悪化してた。オレ、もうダメかもしれねー・・・・・・元気になりたいのに」
ぶつぶつ何かを呟いているアレンが不気味だったので、あたしはそいつを放っておいてジョゼフと帰ることにした。
※
今日はなんだか意識がぼんやりしていて、思考が上手くまとまっていなかった。
今朝、マリーに起こされて初めて病院で診察というものを受けた。俺に何か病気があるのだろうか。
そこから帰ってきて、夕方が過ぎ、いつのまにか夜になっていた。俺は研究所の自室でまとまらない思考でぐるぐると頭を回していた。
俺は、たくさんの人間を殺してきた。
いくら、ナディエージダの平和のためとはいえ、きっと殺してきた人間にも家族や友人、生きてきた時間があったはずだ。それを、俺は無慈悲に奪い取ったのだ。
人は俺を生物兵器と呼んでいる。つまり、人を殺すための存在だ。
ナディエージダは俺の存在によって安泰を保っているというが、果たして本当にそれでいいのだろうか。
こんな、殺戮しか生み出せないようなものが存在していいのだろうか。
わかっている。
生きて、ナディエージダを守るという使命は果たさなければならないと。
だけど、本当は・・・・・・辛いんだ。
少し触れるだけで死んでしまう生身の人間の感触。
俺に対して恐れを抱く人々の目。
そんな苦しみの中で、俺はマリーに出会った。
最初は、居場所を失ってしまったからか泣いていたところを俺が手を差し伸べたが、彼女は明るい性格だった。
あの気難しいアレンとも仲良くなって、鍛錬場のみんなとも上手くやっているように見えた。
ナディエージダにマリーがいれば、俺は必要ないのではないだろうか。
イヴァン博士、許してください。
俺はもう、この世界で生きていたくない・・・・・・
「ジョゼフ、そのナイフを下ろしなさい」
マリーが部屋に入ってきていた。気がつかなかった。心なしかなんだか怒っているようだった。
でも、俺は言われた通りにナイフを下ろした。
「ねぇ、ジョゼフ・・・・・・本当に死にたいの?」
ふと、マリーが悲しそうに訊いてきた。いつもと違う、暗い雰囲気だった。俺はまた、握っていたナイフを取り上げられた。
そして、マリーはそのナイフで自分の首を切った。彼女から出血してしまうのを見ると、なんだかゾッとした。
俺は慌ててマリーからもう一度そのナイフを奪い取った。
マリーは俺に、こう言った。
「・・・・・・わかる?これが、あなたが自分を傷つける時のあたしの気持ちよ」
「・・・・・・っ」
俺は何も言えなかったが、どうしてマリーがそんなことをするのかと怒れる気持ちになった。
「もし、あたしが死にたいって言ったらどう思う?」
「・・・・・・っ」
いやだ、マリーに死んでほしくない。
「いやでしょ?あたしも同じ気持ちなの」
マリーは俺を試しているのだろうか。だとしてもあまり気分の良いものではなかった。
「ねぇ、ジョゼフ。あなたは出会ったあの日、あたしに『一緒に生きよう』って言ってくれたじゃない」
「・・・・・・」
「あの言葉であたしは救われたの。同じ存在に出会えて、一人じゃないって思ったから」
それは、俺も思った。だから俺もマリーの存在に救われている。
「もし、ジョゼフが死ぬっていうなら・・・・・・それは逃げと同じよ」
マリーはもう一度言った。
「生物兵器として生まれたあたし達には、定められた運命がある。それも残酷な運命だってこともわかってる・・・・・・だけど、そんな残酷な世界で未来を託されているのは、あたし達なんだ」
「・・・・・・っ」
「ジョゼフ、あなたもあたしも・・・・・・未来を変えられる強さがあるの」
確かに俺達は生身の人間と比べたら、身体的能力は強い。放射線の毒は俺たちには効かないし、どんな攻撃も打ち返せるかもしれない。
「あの日、あたしは思ったの。もし、同じ存在であるジョゼフとなら・・・・・・運命を受け入れてもいいって。一緒に生きてくれるなら、一緒に世界の可能性を、人類の未来を切り開こうって、思ったの」
俺はそこまで、何も考えていなかった。
俺達には人殺ししかできないと思っていたから。
殺戮を犠牲に、本当に世界の可能性を導けるだろうか。人類の未来を切り拓けるだろうか。
「あたし達は生きている。生きている限り、世界は存在するんだ」
マリーは俺の手を握って力強く言った。
「世界が存在する限り、人間は前を向いて歩くから」
だから、人間は前進する。進化する、前へ進むのだ。
生きもがいた先へ、そこに未来があるから・・・・・・
そんなマリーの言葉に、俺は深く頷いた。
「・・・・・・ごめん」
マリー、君を悲しませたりしてごめん。
もう少し、生きてみるよ。頑張るから、一緒にいてくれ。
こんな世界にも未来があるのなら、一緒に探そう。見つけよう、人類の希望を。
もう二度と・・・・・・誰かを悲しませたりなんかしない。
※
次の日の夜、あたしは安眠できると思っていた。ジョゼフの部屋から奇声が聞こえるようになった。
それからあたしは毎日ジョゼフに薬をぶち込んでから寝るようになった。
メンヘラは簡単には治らなかったのだ。
あたしは今日も安眠を夢見て泣いていた。
マリーは俺と同じ生物兵器だった。俺はずっと一人で、自分は他人とは違うと思いながら孤独に生きていた。同じ存在に出会えて嬉しかった。
・・・・・・同じ存在?
いや、全然違うんじゃないか?
マリーは俺なんかよりも生物兵器としての機能がずっと高い。
俺は、放射線への耐性と細胞の強化と早い修復機能しか備わっていないが、マリーは細胞変化機能がある。俺みたいな不良品と違って、マリーは完璧な生物兵器だ。
アレンにほぼ毎日夕飯を作りに行っている。俺は良かれと思ってやっていることだが、本人はお節介と思っているかもしれない。
この間、つい、アレンに「友達」だと言ってしまったが、一体誰が俺と友達になりたいものか。アレンだってきっと俺なんかに友達とか言われたくないかもしれない。
もしかしたらアレンも「あんな化け物の友達とかマジきめぇわ」とか思っているのかもしれない。
ありえる。
俺はみんなに嫌われているから。
急にそんな不安がよぎって今日も眠れなくなっていた。
俺はマリーにも嫌われているのだろうか?
実は、相部屋で生活していることを心底嫌がっているのかもしれない。それで、密かに俺を呪っているのかもしれない。俺が死ねば部屋が広くなる、と。
そうだ、直接訊いてみよう。
俺は携帯を手にとり、マリーにメールを送った。
『マリー、突然ごめん。教えてほしいことがあるんだけど、今何してる?』
現在時刻は午前3時26分。
3分後、返信がない。既読もつかない。やはり嫌われているのかもしれない。俺からのメールを見る気も出ないほど嫌いなんだ、きっと。
だけど、そんなの耐えられない。唯一の理解者だと思う、マリーに嫌われてしまったら俺はどう生きていけばいい?生きていけない。もう死ぬしかない。
もう一度、マリーにメールを送った。
『マリーは、俺が嫌いか』
・・・・・・既読がつかない。
間違いない、絶対に嫌われている。俺は確信してしまった。
俺は何か間違えてしまったのだろうか。マリーに嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
そんなのいやだ。
・・・・・・いやだ、いやだ、いやだ!!
もう一度、何通かメールを送信した。だけど、やっぱり返信は来なかった・・・・・・嫌われているから。
そうだ、死のう。
俺は部屋に常備されてある、研究所の台所から借りたナイフを握った。それを首に当てたら血が流れてきた。そうだ、このままもっと深く、切ってしまえば・・・・・・
バァアン!
部屋のドアが勢いよく開かれた。
「ちょっと、今、夜中の何時だと思ってるの?!メール285件ってどういうこと?!うるさいよ!」
パジャマ姿のマリーが入ってきた、可愛い。
「・・・・・・何やってるの!?」
ナイフを取り上げられた。
「首が血だらけじゃないの!また切ったの?!」
・・・・・・ああ、そうだよ。
今日も、また切った。君がいないと死んでしまうから。
「あのねぇ、毎晩こんなことしてたら困るの!あなたも幸い傷跡は残らないにしても、あたしの睡眠時間を奪うのいいかげんにしてくれる?!」
マリーに説教されている。声を、かけてもらっている。もしかして、嫌われていないのかもしれない。良かった、なんだか安心して涙が出てきた。
「感動するところじゃないから!もういいわっ、明日は病院に連れて行くからね?!あたしはもう耐えられない!」
それからマリーは俺が眠るまで部屋にいてくれたことを覚えている。
※
あたしの周りにはちょっとおかしい人が多い気がする。
前住んでいたコミュニティのオリバー博士は完全におかしかったし、最近知り合いになったアレンもよく考えたらやっぱりおかしい。
ジョゼフはというと、毎晩いつも訳の分からない癇癪を起こすので、それをイヴァン博士に相談してみたら「まあ、ジョゼフは昔からちょっと情緒不安定なところがあるからねぇ」と軽く流されてしまった。
ちょっとなんかじゃない、絶対に。毎晩300通近くの迷惑メールが送られて、どうしたのかと思って、いつも部屋に行くと自傷行為してるし、たまに頭を抱えながら号泣してることもある。
これを「ちょっと」とか言えるイヴァン博士も少しおかしいのかもしれない。というか、ナディエージダの幹部はみんなおかしいのかな?とんでもないところに来てしまった。
今日こそジョゼフを病院に連れて行く。このままだと睡眠不足であたしの方が気がおかしくなりそう。
ジョゼフを連れてナディエージダの中央総合病院に来ていた。待合室のソファに前髪を下ろした姿のアレンが座っていた。眼鏡はかけていなかったし、体調は良さそうだった。
「・・・・・・え、お前らここで何してんの?」
奴の存在を無視して通り過ぎようとしたら話しかけられてしまった。不愉快だわ。
「・・・・・・ジョゼフの診察」
「ジョゼフ?!そんな奴でも病気になることってあんのかよ!どうした?!」
「いや、体の病気じゃなくて、頭の病気だと思うの」
「あー、なるほど」
アレンでも納得してしまうほどやっぱりジョゼフはおかしいらしい。だったら何でもっと早く連れてこなかったの。
「確かに、鍛錬場でたまに急に座って頭抱えてることあるな。気持ちわりーから無視してたけど」
「そうだったの」
あなた、指揮官なんだからそれならそうと早くこの人の保護者に報告しなさいよ。それをイヴァン博士に言いなさいよ。
とか言おうと思ったけど、アレンは絶対そんなめんどくさいことはしないだろうと思って言うのをやめてしまった。
それから連れてきたジョゼフの顔色を見てみたら、なんかもう完全に暗い。ここは葬式か?ってぐらいものすごく暗かった。体の病気なんてないはずなのに目の隈も酷い。あ、この人も寝不足だからそりゃ隈ぐらいあるよね。ちなみにアレンにも隈があった。
「あー、そいつ、今日はダメな日だな・・・・・・鍛錬場でそのオーラ出してる時は、ルイスがそいつを休憩所に連れて監視してる」
アレンは今のジョゼフを見てそう言った。
「頻繁にあるの?!」
「ああ、月に一回か二回ぐらい」
それなら3日に一回休むアレンよりは健康か、とか思ったけど、それはそれでめんどくさいかもしれない。
すると、ジョゼフはポケットからカッターナイフを取り出した。カチカチと音を鳴らして自分に向けている。
「・・・・・・ちょっと!何してんのよ!?人が見てるからやめなさいよ!」
そう言うと、ジョゼフはハッとしてカッターの刃をしまった。無意識だったらしい。
「監視してねーと、そいつ、そうやって自殺未遂するから」
「そうなの?!重症じゃないの?!」
「ジョゼフ・シュヴァルツヴァルト様ー、17番診察室までお越しくださーい」
やっと呼ばれたのであたしはジョゼフを連れて診察室に入った。アレンはあたし達に向けて手を振った。どうやらあいつは前髪を下ろしてるとヤンキー成分が減るらしく、こういう時にちゃんと挨拶ができるみたい。あいつがするなんて気味が悪いから別にしなくていいけど。
「夜中になると癇癪を起こすんです。昼間はほとんど問題ないんですけど、夜中・・・・・・」
喋れないジョゼフの代わりにあたしがこの精神科医に説明していた。精神科医はぐったり座ってるジョゼフを見ながらあたしの話を聞いていた。
「癇癪ね、どんな感じか具体的に言うと?」
「えっと、自傷行為したり、急に泣いたり」
「なるほどね」
精神科医は少し考えてからジョゼフにこう話しかけた。
「ジョゼフくん、気分はどうかな?」
ジョゼフは辛うじて精神科医と視線を合わせたけど、応えることはできなかった。その様子を見て精神科医は「なるほど」と呟いた。それからあたしにこう言った。
「ジョゼフくんは、場面緘黙とパニック障害かもしれないね」
「場面緘黙とパニック障害」
病気が2つもあるのか。あたしに安眠できる夜はいつかやってくるのだろうか、不安になってきた。
「とりあえず、精神安定剤を処方しておくね」
「はい・・・・・・」
「それと、この薬は君が管理して、寝る前に一錠だけ飲ませてあげてね。本人が持ってると、一気に飲み干しちゃうかもしれないから」
「一気に飲み干しちゃう?何でそんなことするんですか?」
「うーん、まあ、自殺未遂の一種かな?」
「わ、わかりました。あたしが管理します」
診察室を出たら、待合室のソファでアレンがめちゃくちゃ落ち込んで座ってた。
「血液検査から帰ってきた・・・・・・」
聞いてもいないのに話しかけてきた。
「貧血・・・・・・悪化してた。オレ、もうダメかもしれねー・・・・・・元気になりたいのに」
ぶつぶつ何かを呟いているアレンが不気味だったので、あたしはそいつを放っておいてジョゼフと帰ることにした。
※
今日はなんだか意識がぼんやりしていて、思考が上手くまとまっていなかった。
今朝、マリーに起こされて初めて病院で診察というものを受けた。俺に何か病気があるのだろうか。
そこから帰ってきて、夕方が過ぎ、いつのまにか夜になっていた。俺は研究所の自室でまとまらない思考でぐるぐると頭を回していた。
俺は、たくさんの人間を殺してきた。
いくら、ナディエージダの平和のためとはいえ、きっと殺してきた人間にも家族や友人、生きてきた時間があったはずだ。それを、俺は無慈悲に奪い取ったのだ。
人は俺を生物兵器と呼んでいる。つまり、人を殺すための存在だ。
ナディエージダは俺の存在によって安泰を保っているというが、果たして本当にそれでいいのだろうか。
こんな、殺戮しか生み出せないようなものが存在していいのだろうか。
わかっている。
生きて、ナディエージダを守るという使命は果たさなければならないと。
だけど、本当は・・・・・・辛いんだ。
少し触れるだけで死んでしまう生身の人間の感触。
俺に対して恐れを抱く人々の目。
そんな苦しみの中で、俺はマリーに出会った。
最初は、居場所を失ってしまったからか泣いていたところを俺が手を差し伸べたが、彼女は明るい性格だった。
あの気難しいアレンとも仲良くなって、鍛錬場のみんなとも上手くやっているように見えた。
ナディエージダにマリーがいれば、俺は必要ないのではないだろうか。
イヴァン博士、許してください。
俺はもう、この世界で生きていたくない・・・・・・
「ジョゼフ、そのナイフを下ろしなさい」
マリーが部屋に入ってきていた。気がつかなかった。心なしかなんだか怒っているようだった。
でも、俺は言われた通りにナイフを下ろした。
「ねぇ、ジョゼフ・・・・・・本当に死にたいの?」
ふと、マリーが悲しそうに訊いてきた。いつもと違う、暗い雰囲気だった。俺はまた、握っていたナイフを取り上げられた。
そして、マリーはそのナイフで自分の首を切った。彼女から出血してしまうのを見ると、なんだかゾッとした。
俺は慌ててマリーからもう一度そのナイフを奪い取った。
マリーは俺に、こう言った。
「・・・・・・わかる?これが、あなたが自分を傷つける時のあたしの気持ちよ」
「・・・・・・っ」
俺は何も言えなかったが、どうしてマリーがそんなことをするのかと怒れる気持ちになった。
「もし、あたしが死にたいって言ったらどう思う?」
「・・・・・・っ」
いやだ、マリーに死んでほしくない。
「いやでしょ?あたしも同じ気持ちなの」
マリーは俺を試しているのだろうか。だとしてもあまり気分の良いものではなかった。
「ねぇ、ジョゼフ。あなたは出会ったあの日、あたしに『一緒に生きよう』って言ってくれたじゃない」
「・・・・・・」
「あの言葉であたしは救われたの。同じ存在に出会えて、一人じゃないって思ったから」
それは、俺も思った。だから俺もマリーの存在に救われている。
「もし、ジョゼフが死ぬっていうなら・・・・・・それは逃げと同じよ」
マリーはもう一度言った。
「生物兵器として生まれたあたし達には、定められた運命がある。それも残酷な運命だってこともわかってる・・・・・・だけど、そんな残酷な世界で未来を託されているのは、あたし達なんだ」
「・・・・・・っ」
「ジョゼフ、あなたもあたしも・・・・・・未来を変えられる強さがあるの」
確かに俺達は生身の人間と比べたら、身体的能力は強い。放射線の毒は俺たちには効かないし、どんな攻撃も打ち返せるかもしれない。
「あの日、あたしは思ったの。もし、同じ存在であるジョゼフとなら・・・・・・運命を受け入れてもいいって。一緒に生きてくれるなら、一緒に世界の可能性を、人類の未来を切り開こうって、思ったの」
俺はそこまで、何も考えていなかった。
俺達には人殺ししかできないと思っていたから。
殺戮を犠牲に、本当に世界の可能性を導けるだろうか。人類の未来を切り拓けるだろうか。
「あたし達は生きている。生きている限り、世界は存在するんだ」
マリーは俺の手を握って力強く言った。
「世界が存在する限り、人間は前を向いて歩くから」
だから、人間は前進する。進化する、前へ進むのだ。
生きもがいた先へ、そこに未来があるから・・・・・・
そんなマリーの言葉に、俺は深く頷いた。
「・・・・・・ごめん」
マリー、君を悲しませたりしてごめん。
もう少し、生きてみるよ。頑張るから、一緒にいてくれ。
こんな世界にも未来があるのなら、一緒に探そう。見つけよう、人類の希望を。
もう二度と・・・・・・誰かを悲しませたりなんかしない。
※
次の日の夜、あたしは安眠できると思っていた。ジョゼフの部屋から奇声が聞こえるようになった。
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JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
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