魔導改造医クラウス・ドレイクは葛藤する

長野文三郎

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倒れていた賞金稼ぎを拾う その6

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 しばらく無言で俺が食べているのを見ていたアーリンだったが、不意に質問してきた。

「ドレイクさんは、どうして魔導改造医になったのですか? 私にしてくれたように普通の治癒魔法も使えるのでしょう?」
「魔導改造は嫌いか?」
「貴方を否定するようで申し訳ないのですが、その通りです。私は魔物に両親と弟を殺されました。だから私は魔物を憎んでいます。自分の体の中に魔物の一部が入ることに嫌悪しかありません」
「それで助かる命があったとしてもか?」

 アーリンはしばらく考えていたが、決然《けつぜん》とした目で頷く。

「傷を治すための移植なら仕方がないと思います。でも、力を得るために魔物の体を取り入れることには反対です」

 ピクシーの触覚を付けたミラレスのようなケースは駄目なようだ。

「それによって、その人の可能性が広がるとしても?」
「はい。ドレイクさんだって知っているでしょう。魔導改造をした人の犯罪率の高さを」

 アーリンの言うことは事実だ。
急に強大な力を手に入れた人間はしばしば道を踏み外す。
自分が偉くなったような気になって、平気で他人を傷つけるのだ。

「そんなのは、それぞれの人間の心がけ次第だろう? 自己責任ってやつさ。俺だって自分に改造手術をしているけど、罪を犯したことはないぜ」
「みんながみんな、ドレイクさんのように強い心を持っているわけではないのです」

 俺はシャツのボタンをはずして、アーリンに呪いの紋章を見せた。
そして、過去のいきさつを話した。

「――というわけで、俺はまともな治癒魔法を使えなくなっちまったのさ。魔導改造をしなけりゃ生きていけないんだよ」
「でも、ドレイクさんが改造した人の中にも重罪を犯してしまった人がいるでしょう?」
「だから、それは俺が悪いんじゃなくて、罪を犯すやつが悪いんだろう!」

 触れられたくない事実を指摘《してき》されて、俺は苛ついていた。
俺が魔導改造した奴らが人を殺したり、強盗になったりしたというのはよく聞く話だ。
犯罪の片棒《かたぼう》を担いだみたいで気分は悪いさ。
だけど、それが何だというのだ? 
まともに賞金稼ぎや職人をやっている奴らだってたくさんいるのだ。

「それじゃあなにか? アーリンは俺に魔導改造医を辞めろって言うのか?」
「できればその方がいいと思います」

 まったくもって生真面目な女だ。

「君の言っていることは正しいのかもしれない。だが、その場合俺の生活はどうなる?」
「貴方も賞金稼ぎだったのでしょう? だったら賞金稼ぎに戻ったらどうですか?」

 すまし顔で言うアーリンに腹が立ってきた。
そして、少し意地悪な気持ちも湧き上がってくる。

「なるほどなあ、確かにそうかもしれない」

 しおらしく項垂うなだれてみせると、アーリンは嬉しそうに俺を説得にかかる。

「そうですよ! もし、賞金稼ぎに戻るというのなら私がサポートしたってかまいません。いえ、お世話になったお礼にぜひサポートさせてください」
「そうだなあ……」

 俺はことさら考え込むふりをする。

「でも、不安だよな。俺はもう27歳だ。いつまで戦えるかもわからない」
「まだ若いじゃないですか。私と8歳しか違いません」

 8歳っていうのは、結構な年の差だと思うぞ。

「う~ん……、そうだ!」
「なんですか?」
「アーリン、君が俺の恋人になってくれないか?」
「はっ?」
「君のようなステキな子が付き合ってくれるのなら、俺も頑張れると思うんだ」

 からかうつもりでこんな提案をしたんだけど、純情なアーリンはこちらの予想通り固まってしまった。
やがて自分がおちょくられたことに気がついて怒り出すことだろう。

 ふん、今さら賞金稼ぎ? 
そんなものやっていられるかよ。
俺は今まで通り楽をして、金を稼いで、女を抱くんだ。
どうせ俺は自堕落《じだらく》な魔導改造医だ。
今さらまともな人間になんて戻れやしない。
それを理解してさっさと帰ればいいのだ。

「それは本当ですか?」
「はっ?」

 えっ、……本気にしているのか?

「いきなりの告白でびっくりしましたが、その……お付き合いしてもいいと思います」
「いや、ちょっと……」

 どうなっているんだ? 
おちょくられているのは俺の方か?

「その……、年上の男性は嫌いじゃないです」

 アーリンは頬を染めてモジモジしている。
演技には見えないけど、まだ信じることはできない。

「俺は魔導改造医だけど」
「私とお付き合いしたらやめてくださるんですよね? あ、いろいろ大変でしょうから、いきなりやめろなんていう我がままは言いません。受け持っている患者さんもいるでしょうし」
「ま、まあ、そう言ってもらえると助かるかな……」

 って、俺は何を言っているんだ。
早くネタ晴らしをしなくてはダメだろう。

「うふふ、それじゃあドレイクさんではなく、お名前のクラウスさんって呼ばなきゃダメですね」
「そ、そうだな。その方が親密って感じはするよ……な」

 何を言っているんだ俺は!

「さて、そろそろお暇します。今日はいろいろやることができましたので」
「そ、そうなのか? あ、まだ傷は完治していないから、賞金稼ぎは――」
「わかっています。今日はいろいろと買い出しがあるんです。それじゃあ、また来ますね」
「あ、ああ……」

 アーリンは照れくさそうに手を振って帰っていった。
角を曲がる前にもう一度こちらに振り向いて笑顔を見せる。
可愛すぎる……。

 えーと、この状況は何なんだ? 
早く本当のことを言わなくちゃ、あの子を深く傷つけてしまうぞ。
だけど、どういうわけか言い出せない俺がいる。
え、俺はあの子と付き合いたがっている? 
8歳も年下で、魔導改造が嫌いで、美人で、巨乳で、性格が良くて、料理が美味い女の子だぞ……。
いや、これは最高なんじゃないか? 
でも、今さら賞金稼ぎに戻る? 
おいおい、一体どうしたらいいんだよ……。
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