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二人は恋人 その4
しおりを挟むローテーブルに朝食を並べ、ソファーに座って食べた。
「やっぱり食卓があった方がいいな。これでは食べにくい」
「そうですね。テーブルくらいはあった方がいいと思いますよ」
「今度買いに行くから付き合ってくれないか?」
たぶん、アーリンのセンスに任せた方が買い物は上手くいくと思う。
「はい。仕事の無い日なら喜んで」
そう言ってアーリンは恥ずかしそうに目を伏せて、コーヒーを一口すすった。
「これだけ美味しいコーヒーを淹れられるのなら、お料理もきっと上手になりますよ」
「そうか? まあ、コーヒーを淹れるのはけっこう楽しいんだ。5種類の温度で入れて、味の違いをメモしたぞ。俺の好みは90度くらいだと分かった。もう少し高くてもいいかもしれない」
実験手法を教えると、アーリンはクスクスと笑った。
「クラウスさんは凝《こ》り性なんですね」
「そうかな? そうかもしれないな……」
アーリンと付き合うようになって、自分でさえ知らない己の一面が見えてきた気もする。
一時期ギャンブルにのめりこんでいたけど、あのときも色々研究したものだ。
研究の末、確率的に絶対に勝てないという結論に至って止めたけど。
それがわかるまでに2千万クラウンはつぎ込んでしまったが、高い勉強料だった。
スリルを求めていたんだろうなあ……。振り返ればバカなことをしていたと思う。
このことはアーリンには内緒にしておこう。
「腕が問題ないのなら、そろそろ仕事に復帰したいです」
「ふむ……。まあ、そろそろ賞金稼ぎに出ても問題ないだろう」
「よかった。チームのみんなにも迷惑をかけているから心配だったんです」
「そうか、アーリンもチーム所属だったな」
俺に出会った日は、たまたまソロで狩りをしていて深手を負ったそうだ。
「私を入れて三人組のチームなんです。今は人数がそろわないから仕事がはかどらなくて、みんなには申し訳ない気持ちでいっぱいです」
アーリンは幼馴染の女の子たちとパルサーというチームを組んでいるそうだ。
「メインの活動場所は?」
「東の森です……」
それまで明るい表情で話していたアーリンに暗い影がよぎった。
「東の森か。れいのアメミットが生息する森だな」
「そうです。私たちの目標も、そのアメミットを討ち取ることですから」
アメミットとは三つの人食い動物が合体した魔物と言われている。
頭はワニ、前足から胴体の半分にかけてはライオン、後足と尻尾はカバである。
こいつが東の森に住みついたのは五年前。
以来、何組もの賞金稼ぎが討伐に向かったが、ことごとく返り討ちにあっている。
「わざわざアメミットを狙うのは、なにか理由があるのか? 金のためとも思えないが」
「……家族の仇です」
「そうか……」
この五年で、アメミットには多数の人間が食い殺されている。
アーリンの両親と弟もその犠牲者だったわけだ。
しかもアメミットは殺した人間の魂まで喰らうと言われている。
魂を食われた人間は死後の世界へ行けず、永劫のときを苦しむと伝承は語る。
「アメミットを倒さなければ、私の家族に救済はありません……」
いつも明るいアーリンに、このような過去があったとは衝撃だった。
「あ、でも安心してください。不用意に東の森の奥地へ行くことなんてしませんから。今の私たちではアメミットを倒すには力不足です。そのことはわかっているので、ちゃんと実力をつけてから討伐するつもりですよ」
アーリンは健気《けなげ》に笑顔を作った。
「本当か?」
「はい、みんなでそう話し合ったんです」
チーム・パルサーのメンバーもアメミットに家族を殺されたそうだ。
はっきり言うとそんな場所にアーリンを行かせたくない。
アメミットは森の深部に住んでいるという情報だが、町の近くまでやってこないとも限らない。
じっさい被害に遭った人々は街道まで出てきたアメミットに襲われているのだ。
アーリンは頑張り屋だから、そこが却って心配の種でもある。
ソロで狩をしていたのも、新しい攻撃魔法の実戦練習をするためだったそうだ。
もしも狩の最中にアメミットに遭遇したら……。
確率は低くても全滅は必至《ひっし》だ。
「やっぱりだめだ! 東の森は危なすぎる」
「そんな! 私にも生活があるんですよ」
そう言われると困る。
俺が養う、と言ってもアーリンは首を縦には振らないだろう。
それどころか、そんなことは嫌ですと叱られそうでもある。
だったらこうするしかないよな――。
「俺も行く……」
「はっ? クラウスさんが一緒にですか?」
「そうだ」
「でも、クラウスさんはもともと治癒師ですよね」
「ああ。だが、アーリンより強いかもしれないぞ」
俺は戦う魔導改造医なのだ。
「自信があるのですね」
「まあな」
俺にはワーウルフの力がある。
悪いがアーリン達三人が束になってかかってきても、返り討ちにできるくらいの実力なのだ。
「そうですね。私もクラウスさんが賞金稼ぎに戻るのなら手助けするとお約束しましたものね。わかりました、メンバーに話してみます」
「そうしてくれ」
「ただ、一つ大きな問題があります」
アーリンが難しい顔をして俺を見つめた。
「それは? 金や暴力で解決できることなら任せてほしいが」
「いえ、そういうことではありません。その……、メンバーに私の彼氏を紹介するというのは照れくさいことなので……」
「そ、そうか……」
しまった!
確かにそれは俺も恥ずかしい。悶え死ぬほど恥ずかしい‼
「関係を黙っておくわけにはいかないのか?」
「嘘をつくのは苦手です」
アーリンならそうだろうなあ……。
「それから……、みんなに自慢したい気持ちもあります……」
「うっ……」
若い女の子に混じって、彼女のいるチームに参加?
無理、無理、無理!
「やっぱりこの話はなしだ」
「えっ?」
「チーム内に色恋を持ち込むのはご法度《はっと》だろう。関係がこじれるぞ」
「それは……たしかに」
でもアーリンが心配なんだよな。
うん、陰から見守ることにしよう。
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