魔導改造医クラウス・ドレイクは葛藤する

長野文三郎

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賞金稼ぎ その2

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 本日はアーリンが賞金稼ぎに復帰する日だ。
そして俺は朝市で買い出し中である。
今朝はアーリンの家で朝ご飯を食べる約束をしているので、こんな朝っぱらから俺が買い物をしているわけだ。
彼女の家の中に入るのは初めてなので、興奮と緊張がない交ぜになっている。
つまり、嬉し恥ずかし朝通いというわけである。

 朝市に来るのなんて初めての経験だが、こんな早朝からよく人が集まるものだと感心する。
まだ夜は明けたばかりだぞ。
ふつうは寝ている時間だろうに……。
とはいえ最近はアーリンが来るから俺も早起きの習慣がついてきた。
以前は歓楽街で一晩に数百万クラウンを使うなんてこともあったが、最近では夜の11時には寝てしまうもんなぁ……。

 アーリンからは朝食の材料を買ってくるように頼まれている。
よくわからんから適当にそろえていくとしよう。
パン、これは絶対に必要だな。
それからハムやソーセージやベーコン。
どれを買っていいかわからないから三つとも買うか……。
ショルダーベーコンの塊、ボンレスハムの塊、一つなぎのソーセージを購入した。
けっこう重いな。全部で4キロくらいはありそうだ。

 そうそう、卵も忘れちゃいけないだろう。
近郊の農婦が産みたてだと騒いでいたので購入してみた。
卵は10個で200クラウンか。
予想以上に安いものなのだな。
ジョージの店でオムレツを食べると1000クラウンは取られる。
もしかして、あいつは俺からぼったくっていたのか? 
まあ、今朝は幸せな気分だから許してやることにしよう。

 肉や卵だけだと栄養が偏るかもしれないと考え、野菜や果物も購入していく。
魔導改造医とはいえ医者は医者である。
野菜の重要性なんてことも知っているのだ。
オレンジを5個、キャベツを一玉、ジャガイモ、玉ねぎ、ソラマメなどを片っ端から買ってみた。

 背負ってきた背嚢がパンパンになってしまったな。
それでも荷物は入りきらなくて、買い物かごを購入して持つ羽目になっている。
少々買い過ぎたようだが、足りないよりはいいだろう。
きっとアーリンも褒めてくれるはずだ。


 アーリンのアパートに着くと、まず扉の前で深呼吸した。
落ち着け、俺。
大人の余裕を持って訪問するのだ。
服の埃を払い、襟元を綺麗に立てる。
髪は後ろで結んであるので乱れてはいないだろう。
これで身だしなみは万全だな。
それでは落ち着いてノックしてみよう。

 コンコンコン

「はーい」
「俺だ、ドレイクだ」

 名乗るとすぐに扉が開いた。

「おはようございます、クラウスさ……ん?」

 アーリンがまじまじと俺の顔を見つめる。
え、何を見ているんだ? 
剃り残したひげでもあったのか!?

「クラウスさん、その荷物はなんですか?」
「もちろん、頼まれていた朝食の材料だ。たっぷりと買ってきたぞ」

 自信満々にそう告げると、アーリンは大きなため息をついてしまった。

「料理屋でも始めるつもりですか? 一体何食分あるのやら……」

 褒められると思ったのに呆れられてしまった! 
やっぱり量が多すぎたか。

「必要だと思う物を買い足して行ったらこの量になってしまったのだ」
「仕方がないですね。今朝はいっぱい作りますから、クラウスさんもたくさん食べてくださいよ」
「すまん……。アーリンの作るものはなんでも美味い、たくさん食べるよ」

 しょんぼりしながらそう告げると、アーリンはにっこりとほほ笑む。

「私もたくさん食べてくれるクラウスさんを見るのが大好きです」

 よし、限界まで詰め込むとしよう。

「さあ、狭いところですが遠慮なく入ってください」
「失礼する」

 飄々ひょうひょうとした態度を取っていたけど、さっきから俺は興奮しっぱなしだ。
なぜかと言えば、ワーウルフの嗅覚きゅうかくが濃密なアーリンの匂いを嗅ぎつけていたから。
これが女の子の部屋か……。
俺が知っている女の部屋とはちょっと違うな。
まず第一に化粧品の匂いがほとんどしない。
それから性的な臭いも。
そんなアホな理由で俺はかえって興奮してしまう。

 アーリンの部屋は簡素な二間続きだった。
かわいい小物が飾ってあるわけじゃない。
だけど明るいピーチシャーベットみたいな色のカーテンや、清潔そうなシーツと枕、小さな花瓶に飾られた野草なんかに感動してしまう。
当たり前のことだけど、アーリンがここに住んでいるという事実に新鮮な驚きを感じた。

「どうしたんですか、きょろきょろして?」
「いや……居心地の良さそうな部屋だと思って……」
「恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないでくださいね」
「ああ……」

 小さな本棚や、洋服ダンスの奥まで気になったけど、俺はそ知らぬふりで荷物を開封していく。

「大きなベーコン。こんなにたくさんどうしましょう」
「チームの仲間に分けてやったらどうだ? 昼飯に持っていくとか」
「それじゃあ、クラウスさんに悪いです」
「気にするな。アーリンの仲間が喜んでくれるのならそれでいい」
「じゃあ、そうさせてもらいますね」

 アーリンは野菜スープを作り、俺はハムをスライスする。

「クラウスさんって意外と器用ですよね。料理の初心者だなんて思えない」
「外科手術は得意だからな」
「もう、そういうことを言わないでください。変な想像をしちゃうじゃないですか!」
「すまん、デリカシーがなかった……」

 ハムはハム、人間は人間だと思うのだが、アーリンは肉からいろいろ連想してしまうようだ。
今後は焼灼止血法しょうしゃくしけつほうと焼肉の関連などは絶対に口にしないように心がけるとしよう。
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