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第17話 賞金稼ぎ その5

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 アーリン達は魔物の気配を探りながら歩いていく。
強力な敵がいれば罠の方へ誘い込むつもりなのだろう。
逃げる敵がいれば逆に追い立ててやればいいわけだ。
だが途中でゴブリンの小集団を発見した彼女たちは、罠を使わずに奇襲をかけていた。
つまり、七体程度のゴブリンが相手なら、たとえ多勢が相手でも負けない確信があるようだ。

 実際のところ、彼女たちはいい動きを見せていた。
魔法、弓矢による遠距離攻撃で敵の数を減らし、続く近接戦闘でも連携の取れた戦いをしている。
特にアーリンは攻撃魔法も白兵戦も巧みで、チームの中心として動いていた。

「これで5千600クラウンか。まだまだ今週の家賃分には遠いよなぁ」

 ブツブツと言いながらニナがナイフでゴブリンの左耳を切り取っていく。
これが討伐の証になるのだ。
切り取られた魔物の耳を換金所へ持っていけば現金と交換してもらえる。
ちなみに、右耳では絶対に報酬はもらえない。
新米の賞金稼ぎが一度は失敗する間違いだといわれている。

 また、魔物の眉間には魔力が凝固した魔結晶がある。
魔道具のエネルギー源として使われるのでこれも金になる。
賞金稼ぎはこのようにして金を稼ぐのだ。

「昨日の魔結晶相場はどうなっていたっけ?」
「一グラム54クラウンだったわ。値下がりが続いているよね」

 メルトアとアーリンの会話の通り、魔結晶は需要と供給のバランスで値段が変動する。
悪徳商人なんかはこのシステムを使って大儲けをしているようだ。
安いときに買いあさって、高くなったら売るというわけだ。
法律で禁止されているにもかかわらず領主と結託して相場を操るなんてこともしているらしい。
値段が上がるまでプールしておく賞金稼ぎもいるが、大抵のやつらはその日暮らしだ。
何も考えずに売るやつが多い。

「ふぅ、回収終了」

 耳や魔結晶を取った彼女たちの手は血で濡れていた。

「先に血を洗いに行きましょう。この先に川があったはずよ」

 アーリンが先頭に立って歩きだした。
匂いで魔物に存在を気づかれるかもしれないので、戦闘ごとに血を洗い流すのは常識だ。
俺も木から木へと飛び移り尾行を続ける。
やがて一行は清流が流れる小川まで来た。

「冷たくて気持ちいい」

 メルトアが真っ先に手を川に浸す。
春とはいえ、今日は夏のように日差しが強い。
気温も昼が近づくにつれて高くなってきている。

「ねえ、ちょっと水浴びをしてもいいかな?」

 突然ニナが言い出した。

「今入るの?」
「最近、お風呂に入っていないのよ。お風呂屋に行くお金も節約していたから」

 一般の家にはお風呂などはついていない。
庶民は町の風呂屋へいくか、暖かい季節なら川で水浴びをするのが一般的だ。

「私も入りたいな。今夜は彼氏に会う予定だし」

 メルトアも賛同する。

「じゃあ、先にニナが浴びて。私とメルトアで見張りをするから」
「ありがとう。アーリンも入っときなさいよ」
「私も?」
「今夜あたりクラウスさんに迫られるかもしれないでしょう?」
「っ!」
「当り前じゃない、男と女なんだから」
「アーリン、さあ、力を抜いて……」

 メルトアがまた俺の真似をして小芝居をはじめると、すぐさまニナが応じていた。

「あん、クラウスさん、そんなところ汚いですぅ」
「アーリンに汚いところなんてあるもんか。いま気持ち良くしてやるからな」
「そんなとこ、だめ! でも、どうしてこんなに気持ちいの!? ああんっ! ってなるんだから、しっかり綺麗にしておくのよ」
「そ、そんなことするの?」
「絶対にそうなります!」

 いや、まだそんなつもりはないんだが……。
って、ニナが装備を取って服を脱ぎ始めたぞ! 
俺は当然のごとく視線を外す。
以前の俺だったら何のためらいもなく、がっつりと三人の裸を堪能したと思う。
だがアーリンと付き合い始めた今となってはそうもいかない。
紳士を気取るつもりじゃないが、アーリンを裏切ることはしたくないのだ。
残念だが観察は諦めた。

 その場にとどまるのも気まずくて、俺は周囲の哨戒へ出かけることにした。
魔物だけでなく賞金稼ぎだってこの森をうろついているのだ。
俺以外の男にアーリンの裸を見せるわけにはいかない。
万が一見てしまった場合は頭を切開して脳みそを取り出すしかないな。
そうすれば記憶は完全に失われるはずだ。
当然その場合、その男は生きていないだろうけど……。

 ワーウルフの力を普段よりも開放して森の中を見回った。
幸い他の賞金稼ぎの匂いはしない。
だが、しばらく歩いているとヒュージワスプを見つけた。
これは体長が1メートルにもなる巨大なスズメバチだ。
集団を相手にする時はかなり厄介だが、単体では俺の敵ではない。
情報を補足すると、こいつらの弱点は火炎魔法である。

 ヒュージワスプは俺の姿を認めると羽音を立てて襲い掛かってきた。
俺も右手に狼の爪を出して臨戦態勢をとる。
だがここで俺は良いことを思いついた。
ヒュージワスプを倒せばゴブリンなどよりずっと高額な報奨金がもらえる。
どうせなら、アーリン達の罠に誘い込んでやり、チーム・パルサーに討ち取ってもらえばいいのだ。

 尻の針を打ち込んでくる攻撃を避け、俺は罠の方向へと走る。
よけながらヒュージワスプの羽に小さな傷をいくつかつけておいた。
これは後でアーリン達が狩るのを少しでも楽にしてあげるためだ。

 木々の間を疾駆《しっく》していると罠が仕掛けられた場所が近づいてきた。
俺はアーリンが仕掛けた釣り針の罠の方へヒュージワスプを導いていく。

「来いよ! こっちだ!」

 立ち止まって挑発すると、ヒュージワスプは真っ直ぐ俺に突っ込んできた。
だが、そこにはアーリンのしかけた罠がある。
魔物の突進に糸は切れてしまったが、釣り針の何本かが刺さったようだ。
すぐに毒が回ってきたようで、ヒュージワスプは空中でブオンブオン旋回しながらもがき苦しみだす。
そして、耐え切れないといった感じで地上に降り、ピクピクと体を震わせていた。

 これで作戦は成功だ。とどめは戻ってきたチーム・パルサーが刺せばいいだろう。
俺は静かにその場を離れ、木陰に隠れて彼女らを待つ。

 たいして時間もかからずに彼女らの声が聞こえてきた。

「ちょっと、もう何かがかかっているみたいよ」
「気のせいじゃない、ニナ。早すぎるよ」
「そんなことない。羽音が聞こえるわ!」

 アーリンがヒュージワスプの音を聞きつけたようだ。
林をかき分ける足音が速まり、森の中からチーム・パルサーが姿を現す。

「ヒュージワスプじゃない! 今日はついてるわ!」

 嬉しそうにニナが叫ぶ。
一体が800クラウンのゴブリンに対して、ヒュージワスプは2000クラウンの報奨金が出るのだ。
俺にとってはたいした違いではないのだが、彼女たちにしてみればいい収入になるのだろう。

 ヒュージワスプは三方から放たれた矢で絶命した。
毒のせいでほとんど動けなくなっていたので倒すのは簡単だっただろう。

「周囲の警戒をして。毒針と魔結晶は私が回収するから」

 アーリンがヒュージワスプを討ち取った証拠として毒針を回収していく。

「ついでにそいつの毒袋から、罠に使う毒も取り出してよ」
「了解。荷物からガラス瓶を出して」

 ヒュージワスプは尻の針から神経毒を出す。
これを罠に利用する賞金稼ぎは多い。
アーリン達も倒した魔物から素材を取り出して、それを利用して新たな魔物を狩っているのだ。

 それにしても、アーリンは解体が上手いな。
実に手際よく毒針を外している。
俺の助手として働いてもらいたいくらいだ。
そうなれば、いつも一緒にいられるんじゃないか。
まあ、アーリンは魔導改造を嫌っているのだから、そんなことはあり得ないとは思うけど……。
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