魔導改造医クラウス・ドレイクは葛藤する

長野文三郎

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賞金稼ぎ その7

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 町まで戻ってきた俺は、アーリン達から離れて診療所へとやってきた。
表の看板をひっくり返して、まるで朝から診察していましたという風を装う。
今頃アーリンは買い物に行って、チーム・パルサーと祝勝会でもしているのだろうか?
大物が狩れた日はチーム・ガルーダも朝まで浮かれ騒いだものだったな……。
かりそめの友情とはいえ、楽しかった気がする。
喜びを分かち合うのはいいものだ。
ただ俺には悲しみや苦痛を共有してくれる友だちや恋人がいなかった、それだけの話である。
それももう昔の話だ。
今さら誰も恨んではいない。

 扉につけたベルが来客を告げた。
顔を上げた俺が見たのは喜びの表情をたたえるアーリンだった。

「どうして……」

 みんなと楽しんでいるんじゃないのか?

「こんなに早い時間にもどってきてびっくりしたでしょう? いいことがあったからクラウスさんに報告したくて。迷惑じゃなかったですか?」

 俺は周囲を見回して肩をすくめる。
診療所の中には患者一人いない。

「どうしたんだ?」
「なんと、私たちがトロルを討伐したんですよ!」
「ほう、すごいじゃないか」

 驚いたふりをしたら白々しくなってしまっただろう。
俺は淡々とアーリンを褒めた。

「先日もトロルにやられた賞金稼ぎが治療に来たばかりだ。よく討ち取ったな」
「運が良かったんですよ。なんだかフラフラしているトロルでしたから。山ブドウを食べて中毒にでもなったかな?」

 発酵しかけの山ブドウで動物が酔っぱらうこともあるらしい。

「謙遜《けんそん》することはない」
「それで、賞金がたくさん入ったからクラウスさんにお土産を持ってきたんです」

 まさか、大王スッポンの肉!? 
アーリンもやる気になったのか? 
俺の方は心の準備がまだだけど……。

「じゃーん!」

 アーリンは後ろ手に隠していたプレゼントを取り出した。
なんとそれは綺麗なガラスの花瓶だ。
シンプルなつくりだけど、高級品のようで透明度が高い。
花瓶にはすでに黄色い水仙の花束が飾ってあり、春らしい雰囲気が殺風景な部屋の中に広がっていく。
大王スッポンではなかったわけだ。

「はは……」

 思わず苦笑してしまう俺を、アーリンが怪訝《けげん》そうに見つめた。

「どうしたんですか? あんまりうれしくなかったですか?」
「そんなことはない。ありがとう、とっても嬉しいよ。誰かに花をもらうだなんて、初めての経験だ」

 アーリンは俺にいろんな初めてをくれる。
そのたびに見知らぬ世界に触れ、不思議な気持ちになっていく。
水仙の花をまともに嗅ぐのも初めてのことだが、花というのはこんなに安らいだ気持ちにさせてくれるのだな。

 夕方に急患が運ばれてくるまで、狩のこと、花のこと、毒のことなんかを話しながら、俺たちは午後の時間を過ごした。


 それから俺は何度かアーリン達を尾行した。
動機は純粋にアーリンを心配したからなのだが、三回ほどやった後に、俺はこれ以上彼女たちを見守る必要はないと確信した。
チーム・パルサーの行動は堅実だったし、森の魔物の数も多くなかったからだ。

 それに、これ以上の過保護はアーリンに対して失礼な気がしたというのも理由の一つだった。
俺が陰から手を貸したことを知ったら、アーリンは自分が侮辱されたと感じて怒り出すかもしれない。
彼女はプライドが高かったし、そのプライドに見合うだけの実力も持っていた。
だから、援助は怪我をした彼女たちを治療したり、よく効く薬を処方したりするにとどめておいた。
それならアーリンは素直に喜んでくれたし、俺も彼女の役に立てることが嬉しかった。
もっとも、毎日夕方になると彼女が無事に帰ってくるか城門のところで観察するのが日課になってしまったが……。

 尾行を止めた俺は、診療所を再開した。
ただし治療のために魔物の生体移植をするだけで、大規模な魔導改造はしていない。
しかし、そのことに納得しない賞金稼ぎが三日に一度の割合で現れていた。

「ドレイク先生、魔導改造を止めたってどういうことだよ!?」

 目つきの鋭い賞金稼ぎが俺に食って掛かる。
名前はラーク。
まだ若いが実力はある男で、同年代の中では頭一つ抜けているエース級だ。
その分、富と名誉にどん欲な奴でもあった。

「今だって魔物の肉体を使った治療はしてるぜ。だが、魔物の能力を移植するのはやめたのさ」
「だから、なんで!? 苦労してサンダーバードの尾羽を手に入れたんだ。それもこれも、ドレイク先生に移植をしたもらうためだぜ!」

 サンダーバードの尾羽を加工して体に埋め込むと、強力な雷魔法が操れるようになると言われている。
発射から対象への到達スピードは雷魔法が最速だ。
目視でこれを避けることは不可能と言っていい。
皮鎧や革の盾であれば多少威力は削げるが、攻撃力もピカイチである。
その分、遣い手は少なく、みんなが憧れる魔法でもある。
こいつもより強くなるために必死のようだ。

「サンダーバードの尾羽だって? そんな物どこで手に入れたんだ?」

 この辺には生息していない魔物である。
いるとすればもっと北の方のはずだが、めったに人前には出ない希少種だぞ。

「裏のオークションに出品されていたんだよ。200万クラウンもしたんだ」
「へえ……、今持っているのか?」
「ああ、こいつを見てくれ」

 ラークが取り出した品物を見て納得がいった。
サンダーバードの尾羽は一体につき5~6本しか取れない。
しかもS級のレア魔物だ。
200万クラウンなんていう安い値段がつくはずがないのだ。

「お前、騙されてるぞ。これはただのクジャクの羽だ」
「クジャク? なんだそれ?」
「南方の森林にすむ大型の鳥だよ。魔物でもなんでもなく、キジの仲間らしいぞ」
「キジだとおっ!?」

 ラークが持っていたのは30センチほどの緑色の羽で、先端には目玉のような模様がついている。

「珍しいものには違いないが、王都では2000クラウンくらいで買えるらしい」
「2000クラウン……」

 2000クラウンの品物を200万出して買ったんだ、さぞやショックもでかいことだろう。
さすがの俺も少し同情した。

「あの野郎、ぶっ殺してやる!」
「よせよせ、殺人罪で捕まるぞ。それに、出品者はとっくに逃げ出しているさ」
「クソッ! 地の果てまで追いかけて、絶対に金を取り返してやるからなっ!」

 ラークは勢いよく出ていき、壁にぶつかった扉のベルが外れた。
金具がひん曲がってしまい、取り付けができなくなってしまったようだ。
新しいのに買い替えなければいけないが、哀れすぎて金を請求することもできない。
俺はラークとの会話を見守っていた他の患者に声をかける。

「なっ、魔導改造に期待しすぎると損をすることもある。みんなも堅実に働こうぜ」

 だが、頷く奴は一人もいなかった。

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