究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第11話 初心者講習会

 ついに講習会の日がやってきた。
ホテルのフロントに今夜は帰らないことを告げて鍵を預ける。
すっかり顔なじみになったドアマンに手を振って俺とゴブ1号は表通りに出た。
朝食はしっかりとったし、忘れ物もない。
ここまでは順調に進んでいる。
迷宮まで辻馬車を拾おうかと思ったが、それでは新入社員がハイヤーで出社している感じなのでやめておいた。
目立つ行動は厳禁だ。
ちょっと絡まれて、殴られただけでも死んでしまうかもしれないのだ。
身体強化ポーション(10倍)は20本、60時間分持ってきた。
不測の事態に備えて少し多めだ。
心配は尽きないがまず問題はないだろう。

 迷宮前のメインゲートには冒険者たちの姿が数多く見られた。
皆、ギルドカードを職員に提示してゲートをくぐっていく。
一見すると遊園地や動物園の入口のようだ。
ゲートの向こうには幅25メートル以上ある広い階段が地下へと続いていて、冒険者たちは次々と下りていく。
 ゲートの左側を見ると若者の一団が所在なさげに立っていた。
多分講習会に参加する新人たちだろう。
案の定すぐ横に『初心者講習会』と書かれたプラカードが立てかけられていた。
俺もさりげなく彼らの横に移動する。

 ごく自然に近づき、さりげなく横に立ったはずなのに皆が俺を見ている。
いやゴブが注目の的だったようだ。
「あの、指導教官ですか?」
生意気そうな少年が声をかけてきた。
「いや、俺も新人だよ」
「マジで? 結構歳いってるし、ゴーレムとか連れてるから教官かと思ったよ」
俺はあいまいな笑顔でごまかす。
明らかに俺が一番年上だ。
27歳で新人講習を受けるやつは少ないのだろう。
さっきから好奇の目にさらされている。
下を向くと涙が零れてしまうかもしれないので、空を見上げてやり過ごした。
今日も雲が白いな……。

 空の青さを確かめていたらまた声をかけられた。
「初心者講習会の集合場所はここであってますか?」
みれば、茶色の髪をした美少女が立っていた。
走ってきたのか息をハアハアさせながら小首をかしげている。
なんとなく犬っぽい感じがする子だ。
ゴールデン・レトリーバー?
「そうですよ。まだ指導教官も見えてないです」
「あれ? 教官じゃないんですか?」
この子にも間違えられた。
クスクス笑う声が聞こえる。
また雲でも眺めてやり過ごすか。
悲しい現実を見たくなくて空に視線を移そうとしたが、この子は周りのやつらとは少し違った。
「じゃあお仲間ですね! 私はメグっていいます。よろしくお願いします!」
元気のよい挨拶に一瞬呆けてしまった。
うん、ええ子や。
この子はええ子やぁ。
「イッペイだよ。こいつは俺のゴーレムでゴブ1号。よろしくね」
「うが」
あ、ゴブが挨拶した。
お前喋れたのか⁉
知らなかった。
「ゴブちゃんはゴーレムなんだね」
「うが」
喋れるけどボキャブラリーは「うが」だけのようだ。
「人間の装備をつけているから、ぱっと見ではわかんなかったよ」
確かに顔が見えなければゴブはゴーレムとはわからないだろう。
ヘルメットもつけているので痩せ型のドワーフ戦士のように見える。
「こいつは荷物の運搬と戦闘用に開発したんだ。手に入る魔石のレベルが低いから大した攻撃力はないけどね」
「ほえー。すごいです!」
「魔力を使って動かすから、その分俺は何もできなくなるけど……」
これは嘘だ。
ゴブは半自立型なので命令を与えておけばある程度自分で判断して行動する。
だがこう言っておけば、俺が後方に隠れておく言い訳になるだろう。
可愛い女の子の前じゃ格好つけたいじゃないか!
「このゴーレムの武器はその変なクロスボウだけなのか?」
こう声をかけてきたのはさっきの生意気な少年だ。
「今回は指導教官が先導して俺たちはポーターだろ。だから支援系の武器を持たせてるんだ。そのクロスボウは上部についた弾倉に最大10本の矢が装填できる連射式だ。連射速度はおよそ15秒で10射。10メートル範囲の敵に使う近距離用の武器になってるんだ」
先程まで俺を侮っていた少年たちの態度が明らかに変わっていた。
「なるほどねぇ。俺はジャンっていうんだ。よろしくな、ゴブ」
「……」
ゴブのやつ生意気少年の挨拶を無視しやがった。
「あれ? こわれたのか?」
ジャンがゴブをつついている。
違うな。
製作者としてなんとなくわかるがゴブは単なる女好きだ。
核となっているゴブリンリーダーの魔石の影響だろう。
その証拠に違う女の子の挨拶には反応している。
「あいつ女にだけ挨拶してやがる」
呆れたようにジャンがつぶやいた。
「高性能だろ……」
俺も苦笑するしかなかった。

 こんな風に待っていると、指導教官たちがやってきた。
男二人と女一人だ。
風貌も装備もいかにもベテラン冒険者といった感じだ。
年齢はリーダー格の人が40代、他の二人は俺と同じくらいだ。
「これより初心者講習会をはじめる」
この一言で皆がおしゃべりをやめた。
静かな声だったがそれだけの迫力がこの男にはあった。
いくつもの死線を潜り抜けてきた経験に裏打ちされた、自信と実力が滲み出ていた。
「俺の名前はロット。そっちにいるのがボニーとクライドだ」
若い方の二人も実力者なのだろう。
「はじめに言っておくが、、迷宮の中では俺の言うことは絶対だ。わかったな」
皆がはじかれたように返事をする。
「よし、俺からは以上だ。後はクライドが説明する」
そういうとロットは必要なことは全部喋ったといった風に口をつぐんでしまった。
 ロットの後を引き継いだクラウドが注意点などを説明し、水や食料などのパーティー装備を振り分けていく。
俺の分担する荷物も16キロの重さがあった。
もちろん持つのはゴブだ。
しかし周囲から浮くのも嫌なので、軽いものは自分のリュックにいれた。

 ネピアの迷宮は10階層まであると言われているが、それは伝説に過ぎない。
なぜなら最深部にたどり着いた冒険者は未だ一人もいないからだ。
正確には10階層までの古代の地図が発見されているだけだ。
史上最高到達階層は地下8階層。
到達階層により冒険者のランクがギルドカードに自動的に表示される。
今の俺のランクは第10位階。
地下1階層を突破すると第9位階になる。
このように2階で第8位、3階で第7位……8階で第2位、9階突破で1位階になるのだろう(突破した人がいないので絶対ではない)。
10階層に何があり、その時自分のギルドカードに何が記されるのかを見るのが俺の夢だ。
今回俺たちの指導教官をしているロットは第4位階。
6階層到達のベテランだ。
ボニーとクライドも第6位階の腕利きだそうだ。
そういえばパティーは第7位階と聞いている。
「よし説明は以上だ。出発するぞ」
クライドの号令で俺たちは動き出した。
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