究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第45話 備えあれば患いなし

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「備《そな》えあれば患《うれ》いなし」そんな諺《ことわざ》がある。
あらかじめ準備をしておけば、ことが起こっても心配ないというのだ。
そうなのかもしれない。
だが、この程度の諺を鵜吞みにするほど、俺は坊やじゃないぜ! 
囚人二人にレイプされかけたんだ。 
どんなに備えても憂いは消えない。
「どうして奴は掘られた?!」
「坊やだったからさ」
そんな会話は聞きたくないのだ!
 ということで、俺はいろいろ考えた。
収容棟の近くなら攻撃方法がある。
ハチドリ達だ。
ゴードンが一緒の時も大丈夫だろう。
問題は俺が一人の時だ。
俺の攻撃力・防御力はこの世界でカスのように低い。
悲しいことだが、これは受け入れなければ先へ進めない現実だ。
では武器を作るか? 
取り上げられて、もっとひどいことをされそうな気がする。
魔石がないからゴーレムも作れない。
俺は悩んだ。
このままでは俺の貞操の危機だったからだ。
「…貞操…だと」
撃退するために、攻撃ばかりを考えたのは間違いかもしれない。
奴らが諦めるような防御こそ、このケースの最適解ではないだろうか? 
だから俺は貞操帯を作った。
眼前に豊富に眠る銀資源とジョージ君が獲った獣の革を使い、荒ぶる野獣から俺を守るべく最強の鎧が完成した。

鑑定
【名称】ミスリルのパンツ
【種類】腰鎧
【防御力】39
【属性】無し
【備考】鍵付きのミスリル製下着。魔法耐性、魔法反射4%

 予想以上に優秀な防具になってしまった。
迷宮でも使えるのではないのか。
これで例え変な奴に捕まってもミスリルパンツを脱がすことは不可能だ。
この魔法銀の装甲を貫いて俺に侵入するブツはないだろう。
すべての憂いは消えないが、俺の心は少しだけ落ち着きを取り戻した。

 コンブウォール鉱山に来て1か月が経った。
山は雪に覆われ、連日氷点下の日が続いている。
収容棟でさえストーブが1つだけ持ち込まれた。
ストーブの周りで寝るのは牢役人だけで他の囚人は極寒の部屋で震えていた。
俺は密かに湯たんぽを二つに増やして対応している。
 朝食時に珍しく兵士たちが食堂棟に入ってきた。
いつもなら食事の入ったバケツやかごを牢役人に渡して帰ってしまうのだが、今日は何やら囚人たちの間を練り歩いている。
「お前、そこのお前もだ。入口の方へ行け」
人を集めているようだ。
集められた奴らを見ると、比較的線の細い、顔もイケメンに近い奴ばかりだ。
「うーん…お前もだ」
え? 俺もですか! 
俺もそっちのカテゴリーに行っていいんですか?!
「隊長、そんな変な顔の奴つれていって怒られませんか?」
下っ端が俺を指さしてディスリやがる。
「こいつは引き立て役だ。甘いものばかり食べていたら飽きるだろう。それと同じだ。なるべく無害そうな奴を連れて来いという命令だからな、問題はない」
やっぱりイケメン枠ではないですね、わかります。
 兵士は10名の囚人を選出すると、事情を説明しだした。
「本日、王都エリモアより新しい代官様が着任される。既に先触れも到着した。代官様のお荷物もどんどん到着する予定だ。お前たちは荷物の搬入を手伝え。くれぐれも傷をつけるな。丁寧に扱うのだ!」
 引越しのために代官の屋敷に囚人を入れるから、強面は外したのか。
代官の屋敷は初めて入るが、坑道よりは暖かいだろう。
俺はいつもより楽な仕事を引き当てた様な軽い気持ちで屋敷に行った。

 囚人たちが高価な家具をあくせく運んでいると、門から豪華な馬車が一台入ってきた。
兵士の顔に緊張が走る。
「お前たち脇へよけろ。代官様の到着だ」
 コンブウォール鉱山は国王の直轄領のため行政のトップは中央から派遣されてくる代官だ。
地方にあるとはいえ王室の大事な資金源であり、いろいろと実入りのいいこの場所は、出世コースの足掛かりとなっている。
この鉱山で賄賂のための資金を貯めて中央で出世を果たすのが高級官僚のやり方だった。
 馬車の扉が開かれ、降りてきたのは30過ぎくらいと思われる女性だったので俺はびっくりした。
俺の中では「代官」→「悪代官」→「お許しをぉ!」「よいではないか、よいではないか!」で勝手に男だと思っていたのだ。
 名前はコーデリア・ルートピアというそうだ。
かなりきつい性格をしていると見た。
SMの女王様みたいなイメージがしっくりくる。
そうは言っても人を見かけで判断するのはよくない。
彼女だって俺が知らないところでは、スミレの花を摘んで可憐に微笑んでいるかもしれないのだ。
でもあの人、馬車から降りてきたのに手に乗馬鞭を持っていたぞ。
俺は一抹の不安を覚えながらも、荷物を屋敷に運び入れるのだった。
 荷物の中に大量の化粧品や美容薬があった。
若作りはしているがお肌の曲がり角を迎えて苦労も多いのだろう。
成分を見てみたがあまり効果があるようには思えなかった。
代官の美容液が一般的な商品なら、パティーの母親たちが俺のスキンケアセットを欲しがるわけが分かる気がする。
多分、俺のセットの方が20倍は効果があるはずだ。

 ソファー搬入のために居間へ入ると、そこにはコーデリア・ルートピアもいて、執事らしきおじいさんと話をしている最中だった。
「話には聞いていたけどつまらないところね」
吐き捨てるように代官は言う。
「町はただいま建設中でございますれば、そのうちにここも開けましょう」
「何言ってるのよ。この町が発展する頃には私はしわくちゃのお婆ちゃんよ。冗談じゃないわ!」
代官は田舎がお気に召さないようだ。確かに娯楽は少ないだろう。
「今日の予定は?」
「夕方から町長宅でコーデリア様歓迎の晩餐会が開かれるそうです」
「はあ、気が重くなる! おいお前!」
俺と一緒にソファーを運んでいた囚人が突然代官に呼ばれた。
「お前だ。こっちに来い」
この囚人は女に飢えていたせいか、さっきからチラチラ代官を盗み見していた。
今も鼻の穴を膨らませながらコーデリアに近づいていく。
「バチィィン!」
ものすごい音がしてコーデリアの乗馬用の鞭が振り下ろされた。
眼のところをぶたれ、声も出せずに囚人はうずくまった。
その後頭部と背中に情け容赦なく再度鞭が振り下ろされていく。
執事のじいさんは微動だにせず、それが当たり前であるかのように側に控えたままだ。
「町長に連絡しろ。私は長旅の疲れで臥せっているとな」
鞭を振り下ろしながら代官が言う。
「畏まりました」
「まったくものほしそうな目で私を見て。…こういうのは最初が肝心だな。囚人をここに集めろ」
ものすごく嫌な予感がする。
この先の展開はむち打ち以外にならないだろう。
倒れた囚人を医療スキルのスキャンで見たが眼球に異常はない。
ひどい擦過傷《さっかしょう》だが命に別状はないので、可哀想だが放置する。
今は人のことよりも自分の心配をすべきだろう。
 10人すべての囚人が部屋に集められた。
代官は囚人の一人一人を睥睨していく。
「私が新しい代官だ。わかっているだろうけど私の命令は絶対よ。決して逆らわないように」
場を沈黙が支配する。
「返事は?」
 ぼそぼそと囚人たちは返事をした。
「声が小さいわね。まあいいわ、あなたたちその汚い服を脱ぎなさい。今ここで、すぐよ」
もう、このおばちゃんは何考えてるんだろね。
服を脱がせて鞭で楽しむのか? 
勘弁してくれ、叩かれて喜ぶ趣味はないんだ。
はぁ、他の奴らも脱ぎ始めたよ…。
俺も脱がなきゃダメですか?
あ! …俺、やばいんじゃね? 
俺の服の下、ミスリル製の貞操帯だよ! 
裸見られるのとどっちが恥ずかしいかな? 
俺は大いに逡巡《しゅんじゅん》した。 
「ほう…、脱がないものが一人おるようだな」
大変です! 敵に捕捉されました!
「なかなかプライドが高いようだが、私はお前のような男がヒイヒイ泣く姿を見るのが何よりも楽しみなんだよ」
「あ、あの、誤解です」
「誤解? いいわ聞いてあげる」
コーネリアはネズミを弄ぶ猫のような目で俺を睨《ね》め付けてきた。
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