究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第76話 作ろう! 運搬型ゴーレム 完成編

  探索六日目。
今日はライナスたちと合流する日だ。
俺たちはボニーさんにFランクの魔石を預けて迷宮を出た。
ボニーさんは迷宮入り口付近の小部屋で魔石と共にお留守番だ。
魔石を迷宮外に持ち出すことはできない。
荷車を買取カウンターへ横付けし、後をメグに任せた。
待ち合わせ時間には少し早かったがライナスたちは既に門のところで待っていてくれた。
また少し装備がよくなったようだ。
以前はコボルトの盾を使っていたが、前衛の三人とも金属製のラウンドシールドを装備している。
「みんな久しぶり! いい盾じゃないか」
「ああ、ここのところ2区で泊まり込みの狩りをしていたから、そこそこは稼げてるよ」
ライナスもオシャレな額宛《ひたいあ》てをしている。
レッドボアがよく獲れて、肉がいい値段で売れたそうだ。
ゴブリンやコボルトも順調に狩れているそうだ。
「後は後衛の装備か?」
「ああ、これで弓矢がそろえばもう少し奥地にいけるからな。我が『マキシマム・ソウル』も無敵パーティーへの道を一歩ずつ進んでいるというわけさ!」
「そ、そうだな」
「そういえば、先日レッドボアの牙を太腿にくらってな、イッペイのポーションのお陰で助かったよ」
ライナスはとどめを刺そうとしたところで油断したらしい。
レッドボアはたまに動けないフリをする狡猾な奴がいるのだ。
俺のポーションが役に立ったのなら何よりだ。
ライナスはちょっとずれてるハイテンション系だが数少ない友人の一人だ。
 話している間にメグたちが空になったリアカーを運んできた。
「それじゃあ、俺の家まで荷物をとりに来てほしい。みんなよろしく頼む」
こうして『不死鳥の団』と『マキシマム・ソウル』のメンバー合わせて12人は俺たちのアパートへ向かった。

 荷物の総重量は300キロ弱。
各人に細かい部品を背中に背負ってもらい、大きな部品をリアカーに載せた。
300キロの荷物も12人いれば何とかなるものだ。
以前はゴブと二人で店から家まで何往復もしたものだが、数の力は偉大だった。
迷宮の階段を下りて300メートル進んだくらいの小部屋を占拠しておいたおかげで、運搬は二時間ほどで済んでしまった。
みんなには先に地上に上がってもらい、俺とゴブだけが小部屋に残った。
いよいよ運搬型ゴーレムの錬成だ。
パーツは既に作成済みなので、魔石を組み込みながら組み立てるだけだ。
その組み立てさえも錬成魔法を使えばそれほど時間はかからなかった。

 完成したゴーレムは地球の小型クローラ運搬車によく似ていた。
クローラの上に荷台がついていて、車体の後ろに操縦レバーなどがあり、立ち乗りステップもついている。
操縦もできるが、基本は自分で判断して移動するゴーレムだ。
色は目立たない艶消しのオリーブドラブ(深緑)。
暗い迷宮用にライトは標準装備。
荷台は傾斜を感知して常に水平を保つ機能を付けた。
荷台の大きさは1480×870(㎜)と小型だがこれ以上は大きくできなかった。
これ以上大きいと迷宮の小部屋に入ることができないのだ。
ドアのところで引っかかってしまう。
最大積載重量は730kg
最高時速27km
食料や素材を積みこむには十分な能力がある。
動力には魔力を使うので電気モーターの様に静かだ。
武器の類《たぐい》はついていない。
機銃を付ければなかなかの戦力になるだろう。
動かすための必要魔力は50MP/分。
他のゴーレム同様、俺の魔力を直接注いで動かしている。
3000MP(1時間分)のエネルギーチャージもできる。
チャージされている間は『不死鳥の団』のメンバーなら操縦できる仕様だ。
必要MPが多いので普通の人には運用できないだろう。
魔導鉄道のように上級ランクの魔石をエネルギー源にすれば話は別だろうが。

 ゴブを荷台に乗せ、自分は立ち乗りステップに乗って運搬型ゴーレム「タッ君」を起動する。
なかなかスムーズだ。
自動車などより振動はあるが今のところ気にならない。
すれ違う冒険者が奇異の目で見ていた。
だが、この世界にも魔石を利用した魔導鉄道や、魔導船、富裕層向けの魔導自動車なども僅かではあるが普及している。
みなが腰を抜かすほどびっくりするような代物《しろもの》でもなかった。

 仲間たちが食事をしている店の前にタッ君を横付けすると、真っ先にジャンが飛び出してきた。
「おっさん! これって魔導自動車か!? お、俺も運転できるのか?」
ジャンはかなり興奮していた。
話を聞いてみるとジャンは魔導自動車に憧れているらしい。
冒険者をやって金を貯めて、ウオードという自動車メーカーのタイプTという車を買うのが夢なのだそうだ。
タイプT・ツーリングは富裕層の若者に人気の魔導自動車で王都では大流行している。
ネピアではまだ20台くらいしか走っていないが、徐々に浸透してきてはいた。
ただしエネルギーとして魔石を異様に消費する。
約5キロ走るのにIランクの魔石が1つ必要になるそうだ。
Iランクの魔石が一つ1000リムなので燃費はかなり悪い。
本体価格も500万リムくらいするそうなので庶民には高嶺たかねの花もいいところだった。
この世界の移動手段の主役はまだまだ馬車が現役だ。
「もちろんジャンも運転できるぞ。ただしこいつは運搬用だからスピードは期待するなよ」

 午後は運転講習を兼ねて郊外へドライブに行った。
タッ君はゴーレムだから操縦されていても何かにぶつかりそうになると自分から避けてくれたり、止まってくれたりするから安心だ。
荷台にメンバーを乗せ、俺が操縦ステップに乗る。
狭いので皆は荷台のふちに腰掛けた。
最高速度は27キロなので原付の法定速度を少し下回るくらいのスピードだ。
実際は安全のために時速20キロくらいで走った。
この速度は一般的な馬車よりも少し早いくらいだ。
「おっさん、もっとだ! もっと飛ばしてくれ!」
ジャンがやたらと興奮している。
「すごいですよこれ! 街がもうあんなに遠くなって!」
クロもはしゃいでいる。
狭い荷台にみんなで乗ると聞いて、何かを期待していたらしいセシリーさんだったが、すぐにクロがジャンと一緒に一番前に乗ってしまったのでがっかりした顔をしていた。

 俺たちが迷宮に潜っていた6日の間に外はだいぶ春めいてきていた。
道を覆っていた雪はほとんど溶け、ところどこに泥濘《ぬかるみ》をつくっている。
湿った大地は暖かい太陽の光を浴びて湯気を立てていた。
タッ君のクローラは泥にはまることなどなく順調にすすんだ。
どこかでウグイスが鳴いている。

 街から10キロほど離れた草原で全員が荷台から降り、運転講習が始まった。
「最初は俺にやらせてくれ!」
真っ先に荷台から飛び降りたジャンがアピールする。
「あんまりスピードは出すなよ。タッ君、最初は15キロ以上出さないでくれ」
「プップー」
タッ君は軽いクラクションで返事をする。
「大丈夫だよ壊したりしないから」
ジャンは早く乗りたくてうずうずしているようだ。
操作は簡単なので短い説明で済んだ。
さっそくステップに立ったジャンが恐る恐るレバーに手をかける。
見ているとジャンは丁寧な手つきでゆっくり操作していた。
これなら安心だろう。
モーターが静かな唸りをあげ、クロールが回りだす。
「うおおおお! いいぞタッ君。お前最高だ!」
「プップー!」
二人の相性もいいらしい。
スピードメーターの横にMPゲージもついているのでエンプティーなる前には帰ってくるだろう。
ジャンがタッ君を操作している間、俺たちはティータイムだ。
お湯を沸かし紅茶をいれた。
お茶菓子は来る途中でセシリーさんの実家で買ってきたブランデーケーキだ。
パウンドケーキにたっぷりと豊潤なブランデーが沁みている。
セシリーさんがしきりとクロにケーキを勧めているぞ。
この人絶対にクロを酔わせて何かしようとしているな。
俺も酒は好きだが強くはないのでケーキだけで酔っぱらいそうだ。
まあいいさ。酔っぱらったらタッ君に運転を任せてしまえばいいだけだ。
地球でも自動運転車の研究がすすんでいたなと、ふと思い出した。
あちらはもう少しで桜の季節だ。
ネピアには桜はほとんどないがアーモンドの木があり、桜によく似た花が咲く。
開花時期は桜より少し早いようだ。
実家の近所の土手の桜は今年も咲くのだろうか。
子供の頃は家族で見に行ったものだ。
両親は元気にしているだろうか。
友人は恋人と結婚できただろうか。
俺は元気にやっています。
好きな人も出来ました。
遠い世界に対する思いが春の空に溶けていった。
陽は暖かいが、時折頬を撫でる風はまだ冷たい。
この世界に来て最初の冬が終わろうとしていた。
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