究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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第87話 ハチノス

 俺たちは今第四階層5区にいる。
幹線道路はこの先の下り階段まで続いているが、途中で大通りをそれて6区へ続く道へ入った。
5層を目指すのではなく、迷宮妖精ラビリンスフェアリーのオットーとディナシーを送り届けるのが先だ。
「だいぶ熱くなってきましたね。密林エリアが近いからでしょうか?」
クロがシャツのボタンを外しながら言う。
犬人族のクロは寒さには強いが暑さには弱い。
白い肌と鎖骨がセクシーだぞクロ。
この姿を写真に撮ったらセシリーさんが喜びそうだ。
「マリアさんや熱くはないかね? 6区に入るともう一段熱くなるんじゃ。上着を脱いだ方がよいじゃろう」
スケベ妖精オットーが何事かほざいている。
困ったやつだが発言には賛成だ。
今回の探索では保冷容器に牛乳を入れて持ってきたが、先ほどから生活魔法の冷凍を使いその牛乳を凍らせている。
朝からずっと冷やしているのでもうカチカチに凍っているだろう。
牛乳を凍らせているのには訳がある。
俺は今、ひたすらにマンゴーを欲していた。

6区は一段と酷い蒸し暑さだ。
鎧を脱ぐわけにはいかなかったが、下のシャツは一枚だけにした。
ボニーさんもマリアもそうした。
くそ、鎧が邪魔だ。
俺はいかに平和というものが大切なのか今わかった気がする。
戦いさえなければ鎧なんていらないんだ! 

「ディナシー、マンゴーはまだか?」
「そろそろあるはずよ……ほらあそこ!」
ディナシーの小さな指が指し示す方向を見ると、高さ20mほどの樹木に緑や黄色の実がプラプラとぶら下がっているではないか。
「『不死鳥の団』の精鋭たちよ、マンゴーを回収するのだ!」
俺はリーダーらしく命令し、昨晩軽機関銃と一緒に作ったかき氷機を取り出す。
そう俺が作りたかったのは台湾風のマンゴーかき氷なのだ。
凍らせた牛乳を削りマンゴーの身とマンゴーソース、練乳をかけて食べる。
砂糖の入った牛乳の氷はふわふわだ。
6区はやたらと蒸し暑いのでかき氷が最高に美味い!
「顔は平たいけど料理は最高ね。イッペイは迷宮妖精になるべきだわ」
ディナシーが褒めてくれた。褒めてくれた?
とても暑かったのでかき氷は大評判だった。
ネピアにはアイスクリームはあってもかき氷はないそうだ。
 かき氷を堪能した俺たちは密林をさらに奥地へ進む。
気分は宮田一平探検隊だ。
だがここはネピアの迷宮。
アマゾンの奥地とはわけが違う。
蛇も蜘蛛もサソリもやたらと巨大だし、洞窟に眠る白骨は動く上に襲ってくるのだ。
それでも俺は途中で見つけたゴムの木から天然ゴムを採集したり、ずっと探していたソムニフェの花も見つけたりと、探検を満喫していた。
ソムニフェはMP回復薬の素材だ。
俺自身はMP回復薬を使うことはないが、仲間たちには必需品になるだろう。
これさえあればMP切れの酩酊状態《めいていじょうたい》からでもすぐに立ち直れるはずだ。
もっとも「切れる前に飲む!」が正しい用法だろう。
今夜も錬成が忙しそうだ。
ゴムも手に入ったしいろいろと作ってみよう。
……避妊具を作る予定はないぞ。
薄さにこだわったり、ツブツブつけたり、形状にこだわったり、フレーバーをつけたり、イチゴ味をつけたり、そんなことを考えている時間は俺には一切ないからな! 
ここは迷宮なのだ。
生きるのに精いっぱいな俺にそんな余裕はないのだ。
……そういうのは帰ってからじっくり考えるに決まってるじゃないですか! 
今俺が欲しいのはゴム製のクローラとチューブ式のゴムタイヤだ。
他にも『不死鳥の団』の標準装備としてゴム靴底のブーツが欲しい。
滑らないし、歩くときの音が静かだから隠密性も増すからね。
何といっても皆が喜んだり驚いたりする顔を見るのが何より嬉しいのだ。

 密林の小道をタッ君が進む。
クローラーは今日も快調だ。
もう少しでこの階層の迷宮妖精が多く住むというミシャカ池に到着する。
先行しているスパイ君からも映像が届いているが風光明媚な場所だ。
外周600mほどの小さな池だが、積み上げられたような岩から清流が流れだし、ちょろちょろと池に注ぎ込んでいる。
水の透明度は高く、宝石のアクアマリンをはめ込んだように青い。
俺はモニターに映る風景をワクワクしながら見ていた。
だがそこに明らかに異質な存在が映し出された。
人間のようだが冒険者には見えない。
ちょっと高級なジャケットを羽織り、レースのひだのついたシャツを着ている。
富裕層の間では普通の格好だが、ここは迷宮の第四層だ。
こんな格好で迷宮を歩く人間を俺は知らない。
そしてその男の発する雰囲気はモニター越しでも禍々(まがまが)しかった。
「オットー、もしかしてハーカーってこいつか?」
慌ててオットーたちがモニターの所へ飛んでくる。
「そうじゃ! こいつじゃ!」
「ええ、この気持ち悪い男よ!」
ハーカーは物陰に潜み迷宮妖精たちの様子を窺っているようだ。
手には虫取り網のようなものを持っていることから、また妖精たちを攫いに来たのだろう。
顔は悪くないのだが、妖精たちを観察する目つきに狂気が見て取れる。
口元も締まりなく笑っているようでディナシーの言う通り気持ちが悪い。
口元から除く犬歯がこの男がヴァンパイアであることを証明していた。
「マリア、こいつのこと知っている?」
「はい。私が追っているヴァンパイア、ザカラティア・ポーの部下です。眷属の中では戦闘力は低い方ですが、魔道具を作るのが得意で、罠を張ったり薬品を作ったりと搦《から》め手を弄ろうしてきます」
厭な奴だな。 
……ん? 
俺とキャラがかぶってやがる!
今後の方針は以下の四つから選択だ。
1番、問答無用に狙撃。
2番、一応相手と接触をはかり、その後の成り行きを見る。
3番、接触をはかり堂々と名乗りを上げた後で戦闘。
4番、握手をしてから、友達になろう!

 満場一致で1番が選択されたぞ。
というわけで排除開始だ。
俺たちは散開し各ポイントから奴を狙う。
「こちらイッペイ、ポイントに到着した」
「了解……指示を待て」
緊張で心臓がバクバクなる。
おそらくアサルトライフルの弾を数発くらってもハーカーは死なないだろう。
フルオートで全弾ぶち込む必要がある。
運がよければ誰かの弾が核《コア》に当たるかもしれないし、そうでなくても回復を遅らせることはできる。
奴が倒れたら医療スキルのスキャンで核《コア》の位置を見つけ出してやる。
ただしスキャンは2m以内に近づかないと使えないので、警戒が必要だ。
「五秒後に狙撃を開始する。5,4,3,2,1、撃て」
突然入ったボニーさんの指示を受け俺は引き金を引いた。
密林の各所から6丁の銃によるフルオート射撃がはじまる。
ハーカーの描写は勘弁してくれ。
蜂の巣とだけ言っておこう。
詳細はあまりにグロすぎる。
地面に倒れたハーカーはピクリとも動かない。
「全員警戒しつつターゲットへ接近。メグとゴブは周囲の警戒……怠るな」
ボニーさんの声がいつもより厳しい。
彼女でさえ緊張しているのか?
 森から『不死鳥の団』のメンバーたちがあらわれる。
メグ以外の銃口はハーカーに向けられたままだ。
動かないハーカーに対して念のために、マリアが神聖魔法を使った。
「神は義なる裁き人、悔い改めなければ神はその剣を砥ぎ、その弓を張って、また死に至らせる武器を備えその矢を火の矢とされる。見よ、悪しき者は邪悪をはらみ、害毒をやどし偽りを生む――」
マリアの聖句が口から零れるたびに、周囲が神聖魔法のエネルギーで満たされていく。
発動に時間はかかるが威力はとんでもない。
やがて空気が発光しだし、それが収まった時にはハーカーの身体は灰になっていた。
鑑定もスキャンも必要ないだろう。
念のためにやっておく?

鑑定
【名称】灰

はい、無駄だったね。
 残されたのは、ハーカーが着ていた服や虫取り網だけだ。
まともにやり合っていたらかなり苦戦したかもしれない。
奇襲が成功して何よりだ。
「この野郎、よくも仲間を攫ったな! えいえい!」
ディナシーがハーカーの服を踏みつけている。
すると突然、ハーカーの服の下に魔法陣があらわれた。
「ディナシー!」
手を伸ばしたジャンがディナシーに触れた瞬間、ディナシーもジャンもハーカーの服もその場から消え失せた。
残された俺たちは茫然と何にもない草地を見つめるだけだった。
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