究極のポーター 最弱の男は冒険に憧れる

長野文三郎

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老兵は往く

 前夜、元聖女様改めシャーロット婆ちゃんに頼まれたので、俺は早朝から一人でゲート前広場に来ている。
昨晩は幽霊のシャーロット婆ちゃんと大いに語り、すっかり仲良くなってしまった。
婆ちゃんは優しくて博識でさすがは元聖女様という風格があった。
シャーロット婆ちゃんが聖女になったのは18歳の誕生日に神託によって指名されたからだそうだ。
この世界では辞退できるような類の話ではないらしい。
それまでは冒険者として迷宮に潜って第8位階の冒険者にまでなったと言っていた。
その時に知り合ったのがリカルドという冒険者だ。
二人は同じパーティーに所属して次第に仲を深め、やがて将来を誓うようになったそうだ。
ところが婆ちゃんが18歳になった時に神託がくだり、二人は別れるしかなかった。

 依頼を引き受けるにあたり、俺はメンバーに次回の探索にいけない旨を話しておいた。
今回は俺抜きで行ってもらう。
戦闘の指揮はいつも通りボニーさんが執ればいいし、ポーターの役はクロに任せるとしよう。
ゴブには悪いが部屋で待ってもらうことになっている。

 その男はゲート前の石段の端に座っていた。
髪と口ひげには白いものが混じり、鎧もいささかくたびれている。
眼光だけが往時の鋭さを今に残していたが、声に覇気はなかった。
「第三層までのポーター募集だ。2泊3日で11000リム……。第三層までのポーター募集。2泊3日で11000……。第3層までの――」
誰にともなく喋る姿は、痴呆すら感じさせる。
「食事はついてるのかい?」
 俺が話しかけた時もリカルドは自分が話しかけられたとは一瞬わからなかったようだ。
「ん? ……お、食事……おお! ポーターの応募か?」
「ああ。飯付きで1万1千なら請け負うぜ」
リカルドはしゃんと背筋を伸ばして俺を見た。
「言っとくけど三層まで俺とお前の二人だ。生きて帰れる保証はないぞ」
その条件じゃ誰も請け負わないだろう。
よっぽどの腕利きじゃなければ自殺行為だし、腕利きはもっと楽に稼げる。
「無茶苦茶だな。もう少し人数を集めたほうがいい」
「ギルドの年金暮らしだ。これでも精いっぱいなんだよ」
そういえば俺も加入を勧められたことがある。
月々の掛け金が3万リムって言ってたな。
支給額は確か月に7万リムくらいだ。
そこから生活費を差っ引いて11000リムを捻出するのは難しそうだ。
「ちょいとキツイけど受けることにするよ。これでも第六位階の冒険者だ。第三階層で死ぬつもりはないさ」
「ほう……」
リカルドは探るように俺を見つめる。
「部屋持ちの冒険者が何で俺を助ける。なにか目的があるのか?」
真実を言えれば楽なのだが、シャーロット婆ちゃんの名前は出さないように婆ちゃんに頼まれているのだ。
自分の名前を出してリカルドが苦しむのを見たくないそうだ。
そういえば婆ちゃんの姿はなぜか俺にしか見えない。ゴブにも見えなかった。
波長のようなものがあって見える人にしか見えないらしい。
「パーティーに怪我人が出てな、しばらく探索はお預けだ。暇だし、長く実戦から離れているのは勘が鈍りそうで嫌なんだ」
ハードボイルドにプロっぽいセリフを紡ぎ出す。
「その気持ちは分からんでもない。お前さんが組んでくれるんなら俺に依存はない」
「俺はイッペイだ。名前を教えてくれないか?」
「リカルドだ。よろしく頼む」
間違いなくこの人だな。これで人違いだったら大変だ。
「まずは食料の買い出しだ。若いんだからたっぷり持ってもらうぜ」
「いくらでも構わないぜ。今日はこいつがいるからな」
俺はタッ君を軽くたたく。
「気になっていたんだが随分変わった形の荷車だな。最近ではこういうのが流行りなのか」
「他の人には内緒だが、俺が作った最新型さ。自動車みたいに動ける」
「なんだと! 七年前に引退したんだが、探索の方法も随分変わっちまったんだなぁ」
リカルドは感慨深げにタッ君を見ている。
「さあリカルドさっさと行こうぜ」
俺たちは水と食料をタッ君に積み込み迷宮へと足を踏み入れた。
「ヒャッハー!」
モヒカンの野盗のような叫び声を上げてリカルドが興奮している。
タッ君の荷台にのって実にご満悦だ。
「こいつはいい! 現役時代にこんなのがあったら楽だったのになあ。この分じゃ1泊で済みそうだな、おい」
幹線道路を急ぎながら俺たちは第三層2区を目指した。

 最初の戦闘は1層の2区に入ったところで起きた。
7体のゴブリンが道を塞いだのだ。
リカルドは元気に飛び出していきブロードソードで敵を屠っていく。
剣さばきは堂に入ったものだが、体力が続かないですぐに息が切れてくる。
俺は気づかれないように回復魔法を緩めにかけ続けた。
「なんか今日は体の切れがいいぞ。引退するのは早すぎたかもしれんな、ガハハハッ!」

「時代が変われば品も変わるということか。イッペイの鎧は面白いな」
「こいつも俺の手作りだから、あんまり見かけないタイプかもしれない」
「ふむ。だがよくできている。この布は対魔法処理がされてるみたいだし、この鎧の剛性も申し分なさそうだ。しかも非力なお前が着て充分動けるほど軽い」
ベテラン冒険者だけあって俺が非力ということまでわかっている。
「その武器も面白い。魔法の筒のようだが、発動の速さは大したものだ」
さすがは元部屋持ちの冒険者だ、装備の長所をきちんと見抜いている。
リカルドは七年前まで第四階層まで到達した、第五位階の冒険者だったそうだ。

 先行するスパイ君から魔物の情報が送られてきた。
十字路を少し進んだ窪みにイビルエイプが2体待ち構えている。
こちらからは姿が見えない場所なので遠距離からの狙撃は無理だ。
「なるほど、部屋持ちの冒険者になるわけだ。こんなトンデモない装備があるんだもんな」
ミスリル版に映し出される光景を見ながら、リカルドは子どものような顔つきをする。
「どうする? 十字路までそっと進んで奇襲をかけるか。こいつら2匹だけだ」
だが、リカルドは首をふる。
「ずる賢いエイプが正面だけの訳がねえ。こういう場合は右と左にもエイプたちがいるはずだ。俺たちがどちらに進んでも退路を断って、挟み撃ちって魂胆だぜ」
スパイ君に思念を送り十字路の別通路も索敵させると、リカルドの言った通り、すべての方向にイビルエイプがいた。
「やはりそうか。よし、儂が突っ込む。儂の退路を断とうとして出てきたエイプたちをイッペイが倒せ」
 リカルドが初対面の時よりも若返っている気がする。
迷宮に入ってスイッチが入ったのかな? 
ちょっと痴呆気味にみえたお爺ちゃんは今やどこにもいない。
ブロードソードを肩に担いで歩く姿は格好良くさえ見える。
 作戦通りリカルドが正面の敵を押さえている間に、のこのこ出てきたエイプを俺が狙撃した。
今日から実践投入した暗視スコープも問題なく作動している。
4眼タイプのナイトビジョンで視野も広い。
ヘッドセットに取り付けて使用する。
暗視スコープを付けていると照準器が使えないので、肉眼では視認不可能だが暗視装置では視認可能な赤外線レーザーサイトを装着して照準を行う。
映画とかで出てくる、赤いレーザー光線で照準をつけているあれだ。
狙撃が下手な俺にはレーザーサイトの方が照準をつけやすくていい。
前方のエイプも1体はリカルドに切られて死亡。
もう一体は俺の銃弾に倒れた。
鏡を見て思ったんだが、最近の『不死鳥の団』の標準装備は魔物じみている。
特にマスクと暗視スコープを付けてしまうと人間なのか魔物なのか判断が難しいところだ。
『不死鳥の団』というより『地獄の軍団』だ。
 いくつかの戦闘を潜り抜け、俺とリカルドは順調に探索を進め、第二階層2区でその日の探索を終了した。

鑑定
【名称】knsi-18
【種類】暗視スコープ
【特徴】四眼タイプの暗視装置
【備考】横視野106度 縦視野48度 識別距離400メートル
感想 4

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