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1-異世界への転移

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 黒木龍一は異世界で目を覚ました。彼の目の前には、緑豊かな森が広がっている。
 
 周囲には草木が生い茂り、野ウサギのような生物が目を輝かせてこちらを見つめている。
 龍一は自分がどこにいるのか、何が起こったのかを理解しようとするが、答えは見つからない。
 
  「どこだ……ここは……背中は……痛くない……」
 刺された背中を確かめながら身体を起こす。隣には手に持っていたセカンドバッグが落ちている。

 状況の整理がつかない中、彼の前に美しい女性が現れた。

 「あのー、大丈夫ですか?」
 心配そうに話しかけてくる女性は青い目をし、金色の髪をしている。

「ここ、どこだ……」
「ここはヴェルデンウッドだよ、ゼウスラティア南西の森」

「ゼウスラティア?」
「ゼウスラティア知らないの?!」

「ああ、ここに来る前は……もっと遠いところにいたんだ」
「遠いところ……」
 彼らが会話を交わす中、周辺には鳥のさえずりや虫の音が聞こえ、時折、遠くの山々から風が吹き抜ける音が聞こえた。そこはまるで時間が止まったかのような、静寂と平和に包まれた場所であり、人間の喧騒から遠ざかった世界のように感じられた。

 「ほら」
 手を貸してもらい、龍一は立ち上がる。周辺を見回すと不思議な雰囲気が漂い、彼の心を奇妙な興奮が包んだ。
 
「すまない、俺は黒木龍一、龍一と呼んでくれ。名前を聞いてもいいか」
「私はエレナ」

 「エレナ、申し訳ないがこの地に慣れていなくてな、色々と教えてくれないか」
 「いいけど、この森で薬草を採取し終わってからでもいい?」
 時間が迫っているのか少し焦った仕草で懐中時計をズボンのポケットから取り出す。

「それはそちらの都合を優先してくれてかまわない、それと……なんで薬草なんて採取してるんだ?」
「私、薬師なの」
 エレナは自分が目当ての薬草を森に探すため、龍一もそれについていく。

 元いたところから少し歩き、森の中に入っていく。森の中は木々の葉っぱがこすれ合い、遠くから獣の遠吠えが聞こえ、自然の騒がしさを感じる。
 
「あ、これこれ!」

 エレナが薬草を探している中、龍一は様々な植物を観察していた。
「色々な植物が自生しているんだな、……見つかったのか?」

「ちょうど欲しい数がここに群生していて早く終わるよ、ラッキー」
「この後はどこに向かうんだ?」

「採取した薬草を納品したいから市場に戻るよ」
「市場か……一緒に行っていいか?」

 「かまわないけど……」
 なにか問題があるのだろうか、全身を舐めるように見てくる。

「その全身真っ黒な服が珍しいから……少し目立つかも」
「これは俺の正装なんだ」
 
 やはりスーツは異世界においては珍しいようだ。
 
「ちょっと怖い感じがするよね……顔も怖いし……」
「顔は仕方がないが……あまり目立つなら途中で服を購入するか」

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