転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

138.目覚め（2）

ヴェティス様が消えた後、私は眠くなり目を閉じた。

体が落ちる感覚がある。深い闇の底へ何処までも沈むような感覚だ。真っ暗で何も見えないが怖いというより何だか落ち着く感覚だった。いつまでもここにいたいような…。でも。

（早く、早くルル様の元に戻らなきゃ）

私は目を開けて辺りを見回す。何処を見ても暗闇だが何処へ行くべきか何となく分かっていた。
体が浮いているような不思議な感覚で進むと次第に光が見えてきた。

（ここかもしれない。もうちょっと先へ進んで光の中を確かめてみようかしら。）


私は光の中へと少し進んでみた。そこはベッドで眠いっている私と、ルル様がいた。
ルル様は私に何か話しかけているようだったけど声までは届かなかった。
また翌る日にはサーシャやカイお兄様がお見舞いに来ていた。
私はそれを見るだけで自分の体には戻れない。

「皆！私はここにいるの誰か気付いて！そっちへ行けないの！」

大きな声を出しても向こう側には聞こえない。

（やっぱり駄目よね…。皆とても心配している…どうやったら戻れるのかしら…）

シーンが変わり、別の日になった。
シーンが切り替わるのが早くて何日経ったのかも分からない。

その日はルル様1人だった。
ルル様は日に日に元気がなくなっていく。
ヴェティス様に見せてもらった水面の鏡に映ったルル様は絶望して変わり果てていた。
あんなルル様になって欲しくない。元気になって欲しい。

（ルル様…よく見えないけど泣いてる？）

ルル様の側に行って抱きしめてあげたい。大丈夫って、ただいまって言ってあげたい。なのに私はここにいるのに声は届かない。

（お願い！私をあのベッドに戻して！！私はルル様を笑顔にしたい…幸せにしたいの！！）



強く願うと光と共に私と現世を隔てていた透明な壁は少しずつ穴が空き、私はストンと体が落ちていった。


「きゃぁ！？何これ！？」

急な滑り台から滑り落ちるような感覚が怖く、私は目を瞑った。



目を開けると、そこはさっきまでずっとみていた部屋だった。


（ここは…？もしかして戻れた…？）

横を見るとルル様がドアへ向かって歩いていて、部屋から出ようとしていた。

「ル、ルル様…」

久しぶりに喋ったせいか声が上手く出せない。

一瞬ピタッと止まり、驚いたように振り返るルル様。
ルル様の虚無感のある目は次第に輝き始め、目からは涙が溢れようとしていた。

急いで駆け寄ってくれるルル様。

「ルル様…泣いてる…」

（早く泣き止んで欲しい。ルル様には笑っていて欲しい。私のせいよね…申し訳ないわ。）

スレイはルルドの涙を手で拭った。


ルルドはスレイが目を覚ました事が嬉しすぎて言葉が出ず、涙だけがどんどん溢れてくる。

「スー…良かった…。本当に無茶しないでくれ。大切な人をまた俺のせいで失うのかと思った…。」
「ごめん…なさい。」

（そうよね、ルル様は目の前でお母様を亡くしてしまっている。また同じ出来事が起きてしまったと思ってしまうならヴェティス様に見せてもらった絶望的なルル様になってもおかしくない。本当にごめんなさいルル様。）

私もルル様を見ていると涙が出そうになる。でも笑顔で居たい。

「ルル様…ただいま。」

スレイはルルにニコッと笑う。

「おかえり…待ってたよ。」

ルルドは涙を溢しながら笑顔を返した。