某国の皇子、冒険者となる

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第5章 砂漠の国の錬金術師

11. 彫金の技

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「さて、今日は彫金について勉強していきます」
「よろしくお願いします!」
「材料はこの金塊を使います。大きすぎると使いにくいので……魔法を使ってだいたいこれくらい取って……形を整えます。はい、金の指輪ができました。それから触媒を介して魔法をかけ、魔法効果を付与します。はい、出来上がり」
「???」
「ここまでで何か質問ある?」
「ニケ先生……わからないことだらけです」

ニケの彫金は、ノミや彫刻刀を使わず、形を形成するのも文様などの装飾を刻むのも、魔法を使って行うとのことだった。
それには当然、繊細な魔力コントロールが求められる。

「……むずかしい」
できたのは指輪とはとうてい思えないデコボコの輪っかだった。

「練習あるのみさ。僕もさいしょは銅とか、安価な素材でたくさん練習したよ」
「ニケは何歳くらいから始めたの?」
「5歳くらいかなぁ……僕のかあさまに教えてもらったんだ」
「ニケのお母上…そういえば、まだあいさつしてないな…ていうか、きみのお父上……王様とかにもしてないけど大丈夫?」
「……父は忙しいからね。かあさまは臥せっておられるし……。大丈夫だよ。ここは離宮だから、なにも気兼ねしないで」
「えっ……ニケのお母上、大丈夫なの」
「まあ、なんとかね……」
ニケは母上を慕っているようだが、あまり聞かない方がいいのだろうか。

「そっか……ニケも色々あるんだな」
「まぁね……恵まれてる環境だとは思うけど、あんまりここにいると息が詰まるっていうかね……だから、ときどき宮殿から抜け出して、冒険者になって息抜きしてる」
「そうだったのか……お父上からは止められたりしなかった?冒険者なんて危険だからやめろとか……」
「全然。勝手にしろってかんじ。父は僕の顔なんて見たくないのさ」
「そんなこと……」
深く聞いてはいけないような雰囲気を察し、俺は口をつぐんだ。



それから、魔法薬作り、魔法での金属形成、魔法効果の付帯などの訓練に明け暮れた。ニケのアトリエにある書物を読ませてもらい、知識を吸収することも欠かさなかった。


「ノア、私とジンは市街地に出かけます。クラフターの修行、がんばってくださいね」
「あんまり根を詰めすぎないようにね~」
「いってらっしゃい。お土産期待してるよ~」


その日の夕食の席に、エトワールとジンは現れなかった。

「ニケ、エトワールとジン知らない?」
「ああ、あのふたりなら行くところがあるって国を出たよ」
「えぇ!?」

「エトワールは故郷のエルフの里に、ジンは人間の姿じゃなくても魔法が使えるようする方法がないか、ホルデウム様に聞きに帰るって言ってたかな……ノアがあんまり集中してたから、声をかけられなかったみたい」
「そんな…ひとことくらい、声かけてほしかったなぁ……」
ジンはともかく、エトワールまで……

「それとこれ、お土産だって。渡しておいてって頼まれたんだ。」
それは鳥の細工が付いた銀の髪留めだった。

『髪が目に入ると、目が悪くなってしまいますよ』

俺を心配するエトワールのやさしい声が、耳によみがえった。



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