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14話
しおりを挟む杖に魔術の光を灯してみると、道中には小さな魔物のまだ新しい骸が、目印のように転がっていた。ハルにかけた魔術の残滓を辿り、カナフは洞窟の奥深く、騎士達討伐対象らしき大型の魔物が死闘を繰り広げる場所へと行き着く。そこは他と比べて天井が高くひらけた空間だった。
魔物は獅子の頭を持ち、背には鷹を思わせる翼を生やしている。尾は双頭の蛇だった。動きは素早く、また、翼による飛行も可能のようである。魔術まで使うのか——カナフは蛇が呪文を詠唱しているのに気付いた。
魔物は翼を広げ、地面を蹴って空中へと飛び上がる。
——来る!
カナフが自身の周囲に結界魔術を張ってすぐに、幾本もの雷撃が地面に走った。
ハルは——!? カナフはすぐさま、騎士がいる方向へと目を向ける。ハルは盾を地面に突き刺し、雷撃を防いでいた。カナフはほっと胸を撫で下ろす。
「ハル、大丈夫か!?」
カナフが駆け寄りながら声をかけると、ハルは驚いた声を上げた。
「カナフ!? どうしてここに!?」
「加勢に来た! 怪我は?」
「これくらい、心配ない」
カナフは乱雑に布が巻かれた腕に目を留めると、すぐに杖を掲げて呪文を唱える。温かな光が溢れ、傷はあっという間に傷が癒えていった。ハルは痛みが完全に消えたことに目を見開く。
「あの岩陰に移動しよう。状況を聞かせてくれ」
魔物は空中に浮かび上がったまま、呪文の詠唱を続けている。おそらく治癒魔術で自身の傷を癒そうとしているのだろう。騎士達はさせまいと弓矢を射かけているが、難なく回避されてしまっている。
「作戦会議では、魔物が魔術を使うとの報告はなかったが」
「あ、ああ……想定外の事態に私達も驚いた。対策が不十分で苦戦している」
「厄介だな……」
カナフはそう言ったが、さほど危機感を感じてはいなかった。上級魔術師である彼は、魔物に効果的な魔術をいくつも習得している。
——だが……。カナフはハル達騎士が魔物を倒すべきだと考えた。ハル達騎士というか、ハルに魔物を倒してほしい。手柄を立てれば、出世しやすくなるのではないか?
「よし、僕が魔術で魔物の動きを止める。宙空から下に降りてきた直後を狙って僕が魔術を放つ。君はその間に攻撃を。この作戦でどうだろう?」
「あ、ああ……問題ない」
「そうだ、剣を出してくれ。炎属性を付与しておこう」
「炎属性……?」
カナフが呪文を唱えると、ハルの剣に炎の加護が宿り、赤い光を帯びた。
「魔術さえ封じてしまえば、格段に戦いやすくなるはずだ。まずは尾の蛇から狙うといい」
「——承知した!」
魔物が傷の治療を終え、地面へと降り立った瞬間を狙って、カナフは魔術を発動させた。毒々しい色の無数の蔦が魔物へと絡みつき、四肢の自由を奪う。
その隙を見逃さず、ハルは岩場の陰から飛び出し、地面を蹴って高く跳躍すると、双頭の蛇へと剣を振り下ろした。魔術により強化された刃は、硬い鱗に覆われた肉を易々と両断した。
切り落とされた尾の蛇達はなおも蠢き、呪文の詠唱を続けている。
「させるか!」
ハルは頭部目がけて剣を突き立て、止めを刺した。蛇の動きがようやく完全に止まる。
「今だ! かかれ——!!」
隊長の声を合図に、騎士達が魔物へと一斉に飛びかかる。魔物は毒の蔦によりいまだ身動きのとれぬまま、騎士達から数多の渾身の一撃を浴びた。
そしてついに、鼓膜を突き破らんとする断末魔の叫びを上げ、息絶えた。巨体が地に倒れ伏す轟音が鳴り響くと同時に、戦いに勝利した騎士達の歓喜の声が、洞窟内に響き渡るのだった。
「やったな! カナフ!」
ハルは喜びの滲んだ声でカナフに言葉を投げたが、応える声は返らなかった。
「カナフ——?」
地に伏した魔物の傍らで、勝利の喜びに浸る騎士達を尻目に、ハルはカナフを探す。
だが、魔術師の姿はどこにも見当たらなかった。
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