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28話
しおりを挟む「何ということだ……」
眉を顰めつつ呆然と呟いた裁判長に、弁護士は新たな証人の尋問の許可を請う。
続いて証言台に立ったのは、気弱そうな若い女性であった。リチェーツォ伯爵家に仕えるメイドである、と身分を明かした。
「私……見た、のです」
メイドは震える声で言った。
「貴女は何を見たのですか?」
「事件のあった日とその前日、お屋敷にイゾルデお嬢様の、その……お知り合いの方が出入りされるのを——」
弁護士はさらに尋問を重ね、証人から詳細を引き出していく。
「つまり、貴女は事件前日、以前から屋敷を出入りしていた上級貴族の男性が、被害者であるイゾルデ嬢が激しく言い争う声を聞いた。さらに事件当日、彼女が何者かに殺害された日にも、その男性が屋敷に出入りするのを見た、と証言するのですね?」
「はい、確かに見ました」
傍聴席からは驚きや疑問の色を帯びた、大きなどよめきが起こる。ここに来て、酷く疑わしげな貴族の登場に、裁判長は内心溜め息を吐いた。
「裁判長、よろしいでしょうか」
検察官が発言の許可を得て、立ち上がる。
「現場には、被告人の私物である帽子が残されていました。これが決定的な証拠であることは依然、変わりありません」
「うむ……」
「裁判長」
弁護人が挙手し、意見を述べた。
「その物証は事件より数週間前、被告人が紛失したものです。検察側の証人が偽証を行った疑いを考慮すると、被告人は何者かに陥れられ、事件の容疑者として仕立て上げられた可能性が——」
「意義あり!」
検察官が鋭い声を上げる。
「検察側の証人は偽証などしておりません」
「では、直ちに彼を証言台へ呼び戻してください」
裁判長の要請に、検察官は言葉を詰まらせる。
「……少々、お時間をいただきたい」
「どのくらいかかりそうですか?」
「可及的速やかに」
「答えになっていませんね」
検察官の返答に呆れる裁判長へ、弁護士は再び挙手し、発言の許可を求めた。
「裁判長、弁護側は被告人の冤罪を一刻も早く晴らすべきと考えております。そこで、決闘裁判の履行を提案致します」
「決闘裁判——!?」
法廷に今日一番のどよめきが起こった。
カンカンカンッ——。裁判長は静粛を求め、木槌を打ち鳴らす。
「弁護側の提案は理に適っていると判断します。決闘裁判の履行を認めましょう」
決闘裁判とは、建国当初より行われてきた王国独自の司法制度である。裁判長が判決を下し難いと判断した場合に限り、双方の選出した騎士が代理として決闘し、勝利した方を勝訴とするのだ。
「弁護側は被告人の代理闘士として騎士ハル・ガアシュを指名します」
——なっ!!
カナフはハルの名を耳にし、驚きのあまり大きく目を見開いた。傍聴席へと首を巡らすと、訳知り顔の学園長と視線が交わり、目配せを返される。
こうして、判決は決闘裁判の勝敗へと委ねられた。カナフの命運を決する決闘裁判、馬上槍試合は明日の夜明けと共に、王都円形闘技場にて行われる運びとなったのだった。
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