働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜

烏羽 楓

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第一章 しゃべる石ころ、魔王になる

第1話「俺はしゃべる石ころらしい」

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 ……暗い。
 
 いや、暗いなんてもんじゃない。何も見えないし、何も感じない。ただ、思考だけがぽつんと宙に浮いているような、不気味な感覚。

 目を開けているのか閉じているのか、それすらも分からない。

 というか、そもそも――俺、生きてんのか?

 意識はある。けど体の感覚はゼロだ。手も足も、どこにも存在している気配がない。あるのはただ、やけにクリアな思考だけ。

 ……最後に覚えているのは、あのアパート。床が崩れて、天井が落ちてきて――

 そうだ、俺は死んだ。

 ってことは、ここは死後の世界ってやつか?

 ……いや、でも、それにしちゃ意識がやけにハッキリしすぎてる。
 
 もっとこう、ふわふわしてるとか、人生を走馬灯で振り返ってるとか……そういうのじゃないの?

 疑問が渦を巻く中、それを遮るように、不意に“それ”はやってきた。

《システムの最適化を開始します――魔王チュートリアルへの移行を確認》

 ……は?

 声が、聞こえた。それも、耳じゃなくて脳に直接響いてくる感じ。人工音声っぽい機械的な女の声。冷たいけど、不思議と不快じゃない。

 てか今、“魔王”って言ったよな? おい、ちょっと待て。

 思わず思考の中で声を上げる。

 誰かがふざけてるのか? いや、そもそも俺には声すら出せない。ただ「思ったこと」がそのまま響いてるだけだ。

 頭の中で、じわじわと最後の光景が蘇る。

 あの瞬間――地震、崩壊する部屋、そして……確か、何かに飲み込まれるような感覚の直後に、こう聞こえた。

《――魔王が誕生しました》

 ……え、魔王って俺なの?

 戸惑いと困惑と、ちょっとした諦めがないまぜになる。

 その時だった。

《初期認証完了。あなたは、“魔王”として確定されました》

 まただ。今度は、さっきよりも少しだけ柔らかい音声。さっきまでの無機質なナビゲーターとは違って、少しだけ人間味のある――まるで、誰かが心を込めて話しかけてくるような声だった。

《ようこそ、ヴァルト・ノクス。世界に選ばれし“魔王”よ》

 ……誰だよ。
 
“ヴァルト・ノクス”。……なんだその中二ネーム。いや、悪くない。むしろ、ちょっと格好いいかも。
 
 気がつけば、なぜかその名前が、自分の中にすとんと落ちる感覚がした。

 黒川 陣、三十代、社畜エンジニア。終わりは情けなく、始まりも意味不明。

 だけど今、この真っ暗な場所で――俺は確かに、“ヴァルト・ノクス”という名前を授かった。

《これより、魔王としてのチュートリアルを開始します》

 次の瞬間、世界がぶち抜かれたような眩しさに襲われた。

 視界が一気に広がる。真っ暗だった空間に、やけに精密な地形が広がっていた。洞窟? いや、どこか人工的な――そう、ゲームで見たようなダンジョンの構造だ。

 岩盤に囲まれた薄暗い空間。その中心に――なぜか、自分が“存在”している感覚がある。

 ……あれ、ちょっと待て。これってまさか――。

 ふと視線を下げようとして、気づいた。

 視線を動かせない。正確には、“そこ”から動けない。

 俺の意識が固定されている。

 視点が動かない。体がない。けど、喋れる。

 唯一感じ取れるのは、自分の“核”としての存在感。周囲の空気の揺らぎと、微かに反響するダンジョン内の魔力の流れ。

 そして、直感的に理解する。

 ――俺、しゃべる石ころになってない?

 うそだろ!? 魔王って、もっとこう……角生えてたり、マント翻してたり、そういう見た目じゃないのかよ!?

《安心してください。あなたは“核”です。これは魔王としての第一段階に過ぎません》

 第一段階って、これより下があるのかよ……

《これより、核の能力を解放し、眷属を生み出すチュートリアルに移行します》

 待て、まだ気持ちの整理が――

 俺の抗議を無視して、世界の声は静かに告げた。

《さあ、“魔王”としての一歩を、踏み出してください》

 理不尽だ。意味不明だ。……だけど――なんか、ちょっとワクワクしてる俺がいるのがムカつく。

 お? なんだ、この内から溢れる暖かい感じ……。 

 そう思った瞬間、俺の“核”に、異様な魔力が満ち始めた――。
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