働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜

烏羽 楓

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第三章 成長する魔王と迫る”冒険者組合”の影

第23話「魔王に教えられる魔王」

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 ――戦いが終わってから、数日が経った。

 双角の迷宮には、ようやく平穏が――訪れるわけもなく。
 
 今日もコアルームには、耳をつんざく怒号が響き渡っていた。

「だ・か・ら! なんど言わせるんじゃ! この、虚けうつけ!」

 低い石造りの天井に、声が反響して倍増する。鼓膜に突き刺さる怒声。
 
 うるさいなぁ……でも、なんだか懐かしいな、この感じ。
 
 ああ、そうだ。社畜時代、会議室の隅で上司に詰められていたあの光景。
 目の前のホワイトボードに赤字でぐちゃぐちゃと書かれる数値と、威圧的な声。
 
 説教の声量とテンポまで一致してやがる。

「聞いておるのか!」

「聞いてるって。そう怒鳴るなよ」

「なら、なんでこうなるのじゃ!」

 俺が生返事をすると、リルベアは苛立たしげに、モニターに映し出されたダンジョン構造図を、ぴしっと指で突く。

 S級冒険者との戦いが終わったあと、俺は久々にダンジョンステータスを開いてみたら――。

──────────────────
【ダンジョンステータス】
名前:双角の迷宮
階層数:10
配下数:3(レイラ、ゼトス、リルベア)
魔物数:241
罠設置数:73
拡張ポイント:5240
経験値:10304/32200
──────────────────

 とんでもなくポイントが貯まっていた。
 戦闘の激しさを考えれば当然かもしれないが、それでも桁がひとつ違うと笑うしかない。

 それもあって、リアの指導を受けながら、ダンジョン構造を見直し、ついでに増築計画も練ることになり、今に至る――が、どうやら俺のやり方は彼女のお眼鏡にかなわなかったらしい。

「ヴァルトのやり方は、回りくど過ぎる。これでは経験値が貯まり辛く、拡張ポイントの無駄遣いだと言っておろうが」

 リルベアは腰に手を当て、大きくため息をついた。
 
 その仕草すら、やっぱり社畜時代の上司に似ている。

 ため息と共に「使えねーな」とか言われた時の、あの胃の痛くなる感じ。

 元人間の俺と、根っからの魔王である彼女――考え方が違うのは当然だ。
 
 ただ、どうにも彼女は”人間を積極的に狩る構造”を作りたがっているように見える。

「リアの言ってることは分かるけど、俺は別に人間を殺したいわけじゃないんだ」

「それは知っておる。だがなヴァルトよ、魔素は放っておけば溜まっていくが、拡張ポイントは経験値を貯めねば増えん。ならば魔素で次々と魔物を召喚して下等生物どもと戦わせる方が、魔素も消費できて経験値も貯まる。これが最も効率の良いダンジョンの回し方なのじゃ」

 理屈は理解できる。でも、人間を狩る前提なのはやっぱり気になる。
 
 リルベアは構わず続けた。

「それに、魔素が満ち過ぎると勝手に魔物が生まれ、スタンピードが起こるんじゃぞ?」

「スタンピード?」

 聞き慣れた単語に、記憶が少しだけよみがえる。
 
 ああ、そういえばあったな、そんなイベント。
 配信現場では大盛り上がりで、コメント欄はお祭り騒ぎ。
 
 おかげでサーバー負荷が跳ね上がり、俺はトラブル対応で三日三晩まともに寝られなかったんだっけ……。

「スタンピードが起こるなら、それこそ大量に魔物が生まれて良いことじゃん」

 ぼそっと呟いた俺の一言に、リルベアは目を丸くし――すぐに重いため息を吐いた。

「おぬし、本当に何も知らんのじゃな」

 え、なに。俺、そんなに変なこと言ったか?

 俺が怪訝そうな顔をしていると、リルベアは腰を下ろし、真剣な声で続ける。

「スタンピードで生まれる魔物は、こちら側の制御が効かぬ、本当の有象無象じゃ。そして最後に生まれるのは、“悪食”と呼ばれるバケモノじゃ。あれは人も魔族も関係なく襲い、急速に成長していく。成長の度合いによっては、わらわでも負ける」

「……は?」

 耳に入った言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
 リアでも負ける? そんな存在が生まれるのか?

 そんなの絶対に生まれさせちゃダメだろ……!

 もし今の俺のやり方を続けていて、そんな化け物が生まれてしまったら――。
 
 その想像だけで、背筋を冷たいものが這い上がってくる。

 胸の奥に、不気味な予感が沈殿した。
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