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第6話 公開の侮辱
シャンデリアの眩い光が、王宮の広間を昼間のように照らし出している。
甘い果実酒の匂いと、濃厚な香水、そして人々の熱気が入り混じり、むせ返るような空気が漂っていた。
王家主催の祝宴。
貴族たちが集い、互いの権力と財力を誇示し合う華やかな社交の場。
私は深い紺色のドレスに身を包み、広間の壁際に静かに立っていた。
手にしたグラスの冷たさだけが、今の私を現実に繋ぎ止めている。
「遅れてすまない!」
喧騒を切り裂くように、アルベルトの声が響いた。
広間の入り口に現れた彼に、周囲の視線が一斉に集まる。
だが、人々の目はすぐに、彼の隣で寄り添うように立つ人物へと釘付けになった。
淡いピンクのドレス。
怯えたように周囲を見回し、アルベルトの腕にすがりつく小さな手。
ミレーヌだった。
「アルベルト様……私、こんな華やかな場所、初めてで……目が回りそうです……」
「大丈夫だ、ミレーヌ。僕がずっとそばにいるから」
アルベルトは優しく彼女に微笑みかけ、エスコートしながら広間の中央へと進み出た。
婚約者である私を壁際に放置したまま、堂々と。
周囲の貴族たちが、ヒソヒソと囁き交わす声が耳に届く。
「まあ、アルベルト様はまたあの男爵令嬢を……」
「でも、ミレーヌ様は本当に儚げで可愛らしいこと。守ってあげたくなるのも無理はないわ」
「それに比べて、リオナ様は……」
チラリと、何人かの視線が私に向けられる。
同情、嘲笑、そして冷ややかな好奇の目。
アルベルトは私の存在に気づくと、悪びれる様子もなく歩み寄ってきた。
もちろん、ミレーヌを伴ったままで。
「リオナ、悪いな。ミレーヌが一人で留守番するのは寂しいって泣くから、連れてきたんだ。君は一人でも平気だろ?」
あっけらかんと言い放つ彼の言葉に、周囲からクスクスという忍び笑いが漏れた。
「リオナ様は本当にしっかりしていらっしゃるから。今日も事前の事務手続き、完璧だったんでしょう?」
取り巻きの一人が、面白半分に口を挟む。
「ああ、彼女はそういう裏方の仕事が生きがいなんだ。僕みたいな表に立つ人間とは、役割が違うのさ」
アルベルトは朗らかに笑い、それに合わせて周囲の貴族たちもどっと笑い声を上げた。
「強い女は可愛げがない」
「事務官でもやらせておけばいいんだ」
公の場での、決定的な侮辱。
婚約者としての私の尊厳は、彼らの笑い声の中で木端微塵に砕け散った。
「リオナ様、ごめんなさい……私が我儘を言ったせいで……」
ミレーヌが涙目で私を見上げてくる。
だが、その唇の端が微かに歪み、優越感に浸っているのを、私は見逃さなかった。
♦︎♦︎♦︎
「……ご心配なく。私は裏方の仕事に誇りを持っていますから」
私はグラスを持ったまま、完璧な角度で微笑んでみせた。
感情は、もう一滴も残っていない。
心臓の奥が完全に凍りつき、ただ冷たい理性だけが頭の中で冴え渡っていた。
証言者は、これだけいる。
彼が私を公の場で侮辱し、役割を否定したという事実。
「……それでは、私は少し疲れたので、休ませていただきます」
私は静かに一礼し、笑い声が響く広間を後にした。
背後から、「式の日取り、延期した方がいいんじゃないか?」という誰かの声が、はっきりと聞こえた。
甘い果実酒の匂いと、濃厚な香水、そして人々の熱気が入り混じり、むせ返るような空気が漂っていた。
王家主催の祝宴。
貴族たちが集い、互いの権力と財力を誇示し合う華やかな社交の場。
私は深い紺色のドレスに身を包み、広間の壁際に静かに立っていた。
手にしたグラスの冷たさだけが、今の私を現実に繋ぎ止めている。
「遅れてすまない!」
喧騒を切り裂くように、アルベルトの声が響いた。
広間の入り口に現れた彼に、周囲の視線が一斉に集まる。
だが、人々の目はすぐに、彼の隣で寄り添うように立つ人物へと釘付けになった。
淡いピンクのドレス。
怯えたように周囲を見回し、アルベルトの腕にすがりつく小さな手。
ミレーヌだった。
「アルベルト様……私、こんな華やかな場所、初めてで……目が回りそうです……」
「大丈夫だ、ミレーヌ。僕がずっとそばにいるから」
アルベルトは優しく彼女に微笑みかけ、エスコートしながら広間の中央へと進み出た。
婚約者である私を壁際に放置したまま、堂々と。
周囲の貴族たちが、ヒソヒソと囁き交わす声が耳に届く。
「まあ、アルベルト様はまたあの男爵令嬢を……」
「でも、ミレーヌ様は本当に儚げで可愛らしいこと。守ってあげたくなるのも無理はないわ」
「それに比べて、リオナ様は……」
チラリと、何人かの視線が私に向けられる。
同情、嘲笑、そして冷ややかな好奇の目。
アルベルトは私の存在に気づくと、悪びれる様子もなく歩み寄ってきた。
もちろん、ミレーヌを伴ったままで。
「リオナ、悪いな。ミレーヌが一人で留守番するのは寂しいって泣くから、連れてきたんだ。君は一人でも平気だろ?」
あっけらかんと言い放つ彼の言葉に、周囲からクスクスという忍び笑いが漏れた。
「リオナ様は本当にしっかりしていらっしゃるから。今日も事前の事務手続き、完璧だったんでしょう?」
取り巻きの一人が、面白半分に口を挟む。
「ああ、彼女はそういう裏方の仕事が生きがいなんだ。僕みたいな表に立つ人間とは、役割が違うのさ」
アルベルトは朗らかに笑い、それに合わせて周囲の貴族たちもどっと笑い声を上げた。
「強い女は可愛げがない」
「事務官でもやらせておけばいいんだ」
公の場での、決定的な侮辱。
婚約者としての私の尊厳は、彼らの笑い声の中で木端微塵に砕け散った。
「リオナ様、ごめんなさい……私が我儘を言ったせいで……」
ミレーヌが涙目で私を見上げてくる。
だが、その唇の端が微かに歪み、優越感に浸っているのを、私は見逃さなかった。
♦︎♦︎♦︎
「……ご心配なく。私は裏方の仕事に誇りを持っていますから」
私はグラスを持ったまま、完璧な角度で微笑んでみせた。
感情は、もう一滴も残っていない。
心臓の奥が完全に凍りつき、ただ冷たい理性だけが頭の中で冴え渡っていた。
証言者は、これだけいる。
彼が私を公の場で侮辱し、役割を否定したという事実。
「……それでは、私は少し疲れたので、休ませていただきます」
私は静かに一礼し、笑い声が響く広間を後にした。
背後から、「式の日取り、延期した方がいいんじゃないか?」という誰かの声が、はっきりと聞こえた。
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