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第33話 逃げ道を塞ぐ
静まり返った大講堂に、私の冷静な声だけが響き渡っていた。
「……以上が、監査院の解析によって復元された、魔導台帳および王都中央銀行の送金記録のすべてです」
証言台の上に、分厚い書類の束をトン、と揃えて置く。
紙が擦れる小さな音が、今のこの空間ではひどく大きく聞こえた。
「嘘よ……こんなの、何かの間違いだわ!」
ミレーヌが床にへたり込んだまま、甲高い悲鳴を上げた。
彼女の顔は蒼白になり、今まで完璧に貼り付けていた『可哀想な令嬢』の仮面が、音を立ててひび割れていく。
「私、何も知らないって言ってるじゃない! お義父様が勝手にやったのよ! そうよ、侯爵様が私に罪をなすりつけるために、私の名前を使ったんだわ!」
「なっ……! 貴様、恩知らずなことを!」
侯爵が顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
今まで結託して甘い汁を吸っていた者たちが、己の身を守るために醜く噛み合い始めた。
私はその様子を、ただ冷え切った目で観察していた。
「……責任の所在については、すでに監査院が実働部隊を動かしています」
私が淡々と告げると、彼らの動きがピタリと止まった。
「証拠が確定した時点で、白夜回廊の霧門は完全に監査院の管理下に置かれ、関連する偽装口座はすべて凍結されました。あなた方がこれ以上、不正な資金を動かすことは不可能です」
逃げ道は、もうどこにもない。
私が白夜回廊でギード商会をはじめとする商人たちと協力し、関所利権の差押えを執行したあの日の手続きが、ここで最大の効力を発揮していた。
「う、嘘だ……僕の領地が、僕の家が……」
アルベルトが頭を抱え、その場に崩れ落ちる。
彼はまだ、自分が何をしてしまったのか、そしてミレーヌがどんな女だったのかを、受け止めきれていないようだった。
「……黙りなさい!」
不意に、マグダ修道院長が鋭い声を上げた。
彼女は銀糸の刺繍が施された修道服を翻し、証言台の私を睨みつける。
「たかが関所の口座を凍結した程度で、教会の権威が揺らぐとでも? 私は王都の教会本部から正式に認められた修道院長です! このようなでっち上げの証拠で私を裁くなど、神が許しません!」
マグダはまだ、自分の背後にある巨大な組織の力で、この場をひっくり返せると思っている。
観覧席に座る高位の聖職者たちも、彼女を庇うように立ち上がりかけていた。
教会の内部調査に監査院が介入することは、彼らにとっても不都合なのだ。
「……監査院よ。これ以上の審議は、教会の独立性を侵す恐れがある。この件は我々が引き取ろう」
観覧席の最前列にいた枢機卿の一人が、重々しい声で宣言した。
その言葉に、マグダの顔に醜い笑みが浮かぶ。
どれほど決定的な証拠を突きつけても、彼らはこうして権力でもみ消してきたのだろう。
だが、私は決して揺るがない。
背後に立つレオンハルト卿の静かな息遣いが、私に勇気を与えてくれていた。
「……教会の独立性、ですか」
私は持っていたもう一つの書類――白夜回廊から持ち帰った、修道院の『裏帳簿』を高く掲げた。
「では、神の御名のもとで行われていた『真の救済』について、ここで明確に開示していただきましょう」
「……以上が、監査院の解析によって復元された、魔導台帳および王都中央銀行の送金記録のすべてです」
証言台の上に、分厚い書類の束をトン、と揃えて置く。
紙が擦れる小さな音が、今のこの空間ではひどく大きく聞こえた。
「嘘よ……こんなの、何かの間違いだわ!」
ミレーヌが床にへたり込んだまま、甲高い悲鳴を上げた。
彼女の顔は蒼白になり、今まで完璧に貼り付けていた『可哀想な令嬢』の仮面が、音を立ててひび割れていく。
「私、何も知らないって言ってるじゃない! お義父様が勝手にやったのよ! そうよ、侯爵様が私に罪をなすりつけるために、私の名前を使ったんだわ!」
「なっ……! 貴様、恩知らずなことを!」
侯爵が顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
今まで結託して甘い汁を吸っていた者たちが、己の身を守るために醜く噛み合い始めた。
私はその様子を、ただ冷え切った目で観察していた。
「……責任の所在については、すでに監査院が実働部隊を動かしています」
私が淡々と告げると、彼らの動きがピタリと止まった。
「証拠が確定した時点で、白夜回廊の霧門は完全に監査院の管理下に置かれ、関連する偽装口座はすべて凍結されました。あなた方がこれ以上、不正な資金を動かすことは不可能です」
逃げ道は、もうどこにもない。
私が白夜回廊でギード商会をはじめとする商人たちと協力し、関所利権の差押えを執行したあの日の手続きが、ここで最大の効力を発揮していた。
「う、嘘だ……僕の領地が、僕の家が……」
アルベルトが頭を抱え、その場に崩れ落ちる。
彼はまだ、自分が何をしてしまったのか、そしてミレーヌがどんな女だったのかを、受け止めきれていないようだった。
「……黙りなさい!」
不意に、マグダ修道院長が鋭い声を上げた。
彼女は銀糸の刺繍が施された修道服を翻し、証言台の私を睨みつける。
「たかが関所の口座を凍結した程度で、教会の権威が揺らぐとでも? 私は王都の教会本部から正式に認められた修道院長です! このようなでっち上げの証拠で私を裁くなど、神が許しません!」
マグダはまだ、自分の背後にある巨大な組織の力で、この場をひっくり返せると思っている。
観覧席に座る高位の聖職者たちも、彼女を庇うように立ち上がりかけていた。
教会の内部調査に監査院が介入することは、彼らにとっても不都合なのだ。
「……監査院よ。これ以上の審議は、教会の独立性を侵す恐れがある。この件は我々が引き取ろう」
観覧席の最前列にいた枢機卿の一人が、重々しい声で宣言した。
その言葉に、マグダの顔に醜い笑みが浮かぶ。
どれほど決定的な証拠を突きつけても、彼らはこうして権力でもみ消してきたのだろう。
だが、私は決して揺るがない。
背後に立つレオンハルト卿の静かな息遣いが、私に勇気を与えてくれていた。
「……教会の独立性、ですか」
私は持っていたもう一つの書類――白夜回廊から持ち帰った、修道院の『裏帳簿』を高く掲げた。
「では、神の御名のもとで行われていた『真の救済』について、ここで明確に開示していただきましょう」
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