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第八話:アイスティー
王宮の朝は、かつてないほどの静寂と、耐え難い渇きによって幕を開けた。
「……水が、出ない?」
アルフォンスは洗面台の蛇口を何度もひねった。 普段なら、魔石式のポンプによって地下から汲み上げられた清冽な水が、勢いよく溢れ出してくるはずだった。 だが、今日はカスカスという乾いた音が配管の奥で響くだけで、一滴の水滴すら落ちてこない。
「おい! どうなっているんだ!」
彼は苛立ち、蛇口を叩いた。 手洗いも、洗顔もできない。 何より、昨夜から一睡もできず、恐怖とストレスでカラカラに乾いた喉を潤すことができない。
アルフォンスはふらつく足取りで廊下に出た。 窓から差し込む日差しは強く、今日も暑くなりそうだ。 空調用の魔石が切れた王宮内は、すでに蒸し風呂のような熱気が籠もり始めていた。
「水だ……誰か、水を持ってこい……!」
叫んでも、誰も応えない。 かつて数百人の使用人が働いていたこの巨大な城には、今やアルフォンスとミナ、そして逃げ遅れた数名の老人しか残っていないのだ。
彼は厨房へと走った。 そこなら、水瓶に汲み置きがあるかもしれない。
しかし、厨房で彼が見たのは、空っぽになった水瓶と、それを呆然と見つめるミナの姿だった。
「……ないの」
ミナは乾いた唇を震わせて言った。 その顔は厚化粧が汗でドロドロに崩れ、目の下の隈はさらに濃くなっている。 ショッキングピンクの裂けたドレスは脱ぎ捨てられ、今は薄汚れたシュミーズ(肌着)一枚という、令嬢にあるまじき姿だった。
「水がないのよ、アルフォンス様ぁ……。喉が渇いて死んじゃう……」
「井戸は? 中庭の井戸があるだろう!」
「見てきたわよ……。でも、釣瓶のロープが切れてて、深い底が見えるだけだったわ。……誰かが、ロープを持って逃げたのよ」
ミナはその場に座り込み、ヒステリックに泣き出した。 涙さえも水分不足で枯れているのか、乾いた嗚咽だけが響く。
「嫌よ……こんなの嫌……。暑い、臭い、喉が渇いた……」
アルフォンスは、彼女の姿を見て、急激に怒りが湧き上がってくるのを感じた。 それはミナへの怒りではない。 自分たちをここまで追い詰めた「元凶」への、理不尽で身勝手な怒りだ。
「……セレスティアだ」
彼は拳を握りしめ、爪が掌に食い込む痛みで意識を保った。
「あいつがやったんだ。水道局に手を回して、王宮への供給を止めさせたんだ。……そこまでするか? たかが婚約破棄くらいで、僕たちを干からびさせて殺す気か!?」
アルフォンスの中で、何かが切れた。 プツン、という音と共に、プライドという名の箍が外れ、代わりに被害妄想という名の怪物が暴れ出した。
「許さない……絶対に許さないぞ、セレスティア!」
彼は厨房を飛び出し、馬小屋へと向かった。 馬はほとんど盗まれていたが、一頭だけ、老齢で足の悪い馬が残されていた。 鞍もない。手綱もない。 だが、今の彼には関係なかった。
「おい、起きろ!」
彼は老馬のたてがみを掴み、無理やり引きずり出した。 馬がいななき、嫌がる素振りを見せるが、アルフォンスはそれを無視して背に跨った。
「行くぞ! ハイゼンベルク邸だ! あいつに直接、文句を言ってやる!」
裸馬に跨り、薄汚れたシャツとズボン姿の王子が、王宮を飛び出していく。 ミナが後ろで「待ってぇ! 私を置いていかないでぇ!」と叫んでいたが、彼は振り返らなかった。 今、彼の頭の中を占めているのは、セレスティアへの抗議と、冷たい水を飲みたいという渇望だけだった。
***
王宮からハイゼンベルク公爵邸までは、馬車で三十分ほどの距離だ。 しかし、足の悪い老馬での移動は、永遠のように長く感じられた。
真夏の日差しが容赦なく照りつける。 アスファルトならぬ石畳からの照り返しが、アルフォンスの体力を奪っていく。
「はぁ……はぁ……」
彼はすでに汗だくだった。 シャツは肌に張り付き、髪からは脂汗が滴る。 喉の渇きは限界を超え、視界がチカチカと点滅していた。
沿道の市民たちが、奇異なものを見る目で彼を見上げている。
「おい、あれ……アルフォンス殿下じゃないか?」 「まさか。あんな浮浪者みたいな格好で、痩せこけた馬に乗ってるなんて」 「でも、あの金髪……」 「うわ、臭ってきそうだな」
ひそひそ話が聞こえてくる。 普段なら「不敬罪だ!」と怒鳴り散らすところだが、今の彼にはそんな気力もない。 ただひたすらに、ハイゼンベルク邸を目指す。 そこに行けば、水がある。 涼しい部屋がある。 そして、全ての元凶であるセレスティアがいる。
「着いた……」
目の前に、巨大な鉄の門が聳え立った。 ハイゼンベルク公爵邸。 その門扉は、王宮のそれよりも立派で、手入れが行き届き、黒々と輝いている。 門の向こうには、青々とした芝生と、噴水が水を噴き上げているのが見えた。
「水だ……!」
アルフォンスは馬から転げ落ちるように降ろり、門に縋り付いた。 鉄柵の隙間から手を伸ばすが、噴水には届かない。
「開けろ! 僕だ! アルフォンスだ!」
彼は門をガンガンと揺らした。 すると、門番小屋から制服を着た警備兵が出てきた。 王宮の老兵とは違い、筋肉質で精悍な若者だ。装備も最新式で、腰には魔石銃を携えている。
「何用でしょうか。ここはハイゼンベルク公爵邸です。関係者以外は立ち入り禁止となっております」
警備兵は、アルフォンスを見ても眉一つ動かさず、事務的に告げた。 まるで、ただの不審者を扱うような態度だ。
「無礼者! 僕の顔を見忘れたか! 第二王子アルフォンスだぞ!」
「……存じ上げております。ですが、アポイントメントのない方の入館はお断りするよう、総帥代理より厳命されております」
「総帥代理? セレスティアのことか! あいつを呼べ! 話があるんだ!」
「セレスティア様はご多忙です。お帰りください」
「ふざけるな! これは王命だ! ここを開けろ!」
アルフォンスが叫び続けていると、門の奥から、一台のカートが近づいてきた。 乗っていたのは、執事のセバスだ。
「……騒がしいですね。近所迷惑になりますよ」
セバスは門の内側から、冷ややかにアルフォンスを見下ろした。
「セバス! お前からも言ってやれ! 僕がセレスティアに会いに来たんだ!」
「お嬢様は、現在重要な商談中でございます。……ですが、あまりにも外が騒がしいと集中できないとのことで。『特別に』お通しするようにと仰せつかりました」
「ふん、やっと分かったか! 最初からそうすればいいんだ!」
アルフォンスは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。 門が重々しい音を立てて開く。 彼は胸を張って敷地内に入ろうとしたが、足がもつれて躓きそうになった。
「どうぞ、こちらへ。……お馬はお預かりしておきましょう。もっとも、これ以上歩かせるのは虐待に近いようですが」
セバスの皮肉を無視し、アルフォンスは屋敷へと向かった。 玄関ホールに入った瞬間、ひんやりとした空気が彼を包み込んだ。 最新式の魔石空調システムだ。 汗が一瞬で冷やされ、天国のような心地よさを感じる。
「ああ……涼しい……」
「客間へご案内します。……廊下を汚さないよう、ご注意ください」
セバスに案内され、通されたのは一階の応接室だった。 フカフカの絨毯、座り心地の良さそうな革張りのソファ。 そして、窓の外には美しい庭園が広がっている。 王宮の荒れ果てた景色とは、天と地ほどの差だ。
「ここでお待ちください」
セバスが退室すると、アルフォンスはソファに倒れ込んだ。 生き返るようだ。 この快適さ。これこそが、自分がいるべき場所だ。
「……やっぱり、セレスティアは僕を愛しているんだ」
彼は都合よく解釈を始めた。 でなければ、こんなにすぐに屋敷に入れてくれるはずがない。 きっと、強がって冷たくしていただけで、本当は僕に会いたかったに違いない。 そうでなければ、こんな快適な環境を用意するはずがない。
「少しキツく言ってやれば、泣いて謝るだろう。そうしたら、また元通りにしてやるさ」
そう独り言を呟いていると、ドアが開いた。
「あら、ずいぶんとくつろいでいらっしゃいますわね」
現れたのは、セレスティアだった。 涼しげなアイスブルーのドレスを纏い、銀髪を緩くアップにしている。 その美しさは、汗と泥にまみれたアルフォンスとは対照的に、透き通るような清潔感に溢れていた。
「セレスティア!」
アルフォンスは立ち上がろうとしたが、彼女の背後に控える二人の屈強な護衛(帝国騎士の制服を着ている)を見て、腰を浮かせたまま固まった。
セレスティアは優雅に歩み寄り、向かいのソファに腰掛けた。 彼女の手には、何も持たれていない。扇子さえも。 それは、アルフォンスを「駆け引きが必要な相手」とすら見ていない証拠だった。
「何の御用でしょうか、アルフォンス殿下。わたくし、これでも忙しいのですけれど」
「用だと? 決まっているだろう! 抗議しに来たんだ!」
アルフォンスは声を荒らげた。 涼しい部屋で少し体力が回復したせいで、その傲慢さがまた頭をもたげていた。
「抗議? 何に対する?」
「全てだ! 王宮への嫌がらせを今すぐやめろ!」
「嫌がらせ?」
セレスティアは小首をかしげた。
「具体的におっしゃっていただけます?」
「とぼけるな! 水だ! 水道を止めたな! それに食料も、ドレスも、何もかも! お前が商会に圧力をかけて、僕たちに売らないようにしたんだろう!」
「ああ、そのことですか」
彼女は事もなげに言った。 まるで、明日の天気の話題でもするかのように。
「訂正させていただきますわ。圧力をかけたのではありません。『取引を停止』したのです」
「同じことだろう!」
「いいえ、全く違います」
セレスティアの目が、スッと細められた。 室温がさらに数度下がったような錯覚を覚える。
「商取引というのは、商品やサービスに対して、対価が支払われることで成立します。王家は、長期間にわたり対価を支払っておりません。水道料金、食材費、被服費……すべて未払いです」
「だ、だから! 払うと言ってるだろう! 税金が入れば……」
「『いつか払う』は、ビジネスの世界では『払わない』と同義です。信用がない相手に、商品を渡す馬鹿な商人はいません」
「でも、水くらいは……! 水は命に関わるんだぞ! それを止めるなんて、人道的にどうなんだ!」
アルフォンスは必死に食い下がった。 人道。道徳。 それらは、彼が今まで一度も顧みなかった言葉だが、自分が被害者になった途端、最強の盾として持ち出してくる。
セレスティアは、ため息をついた。 そして、パチンと指を鳴らす。
すぐにメイドが入ってきて、テーブルの上にトレーを置いた。 そこには、水滴のついた背の高いグラスが一つ。 中には、琥珀色の液体と、カランカランと涼しげな音を立てる『氷』が入っていた。
「……アイスティーですわ」
セレスティアが勧める。 アルフォンスの目が釘付けになった。 氷。 この真夏に、氷の入った冷たい飲み物。 喉が鳴った。
「の、飲んでいいのか?」
「ええ、どうぞ。……ただし」
アルフォンスがグラスに手を伸ばそうとした瞬間、セレスティアがそれを制した。
「代金は、前払いでお願いします」
「は……?」
「金貨一枚です」
「き、金貨一枚!? たかが一杯の紅茶に!?」
アルフォンスは叫んだ。 金貨一枚といえば、平民の四人家族が一ヶ月暮らせる金額だ。
「高いとお思いですか? いいえ、これが『適正価格』です」
セレスティアは淡々と説明を始めた。
「まず、この茶葉はハイゼンベルク領の標高2000メートルの高地で栽培された最高級品です。それを摘む人件費、運送費がかかります。次に、この氷。魔導式冷凍庫を稼働させるための魔石コスト、および維持管理費。そして、この快適な室温を保つための空調コスト。さらに、わたくしという『商会総帥』が、あなたのために時間を割いているタイムチャージ」
彼女は指を一本ずつ折りながら数え上げた。
「それら全てのコストとリスクを合算すれば、金貨一枚でも安いくらいですわ。……特に、支払い能力のないハイリスクな顧客相手なのですから」
「そ、そんな……。僕は今、金を持っていない……」
アルフォンスはポケットを探ったが、あるのはハンカチ一枚だけだった。
「では、お引き取りください。……商品は、対価と引き換えです」
セレスティアは冷酷に告げた。 目の前にある、キンキンに冷えたアイスティー。 グラスの表面を伝う水滴が、まるで宝石のように輝いて見える。 手を伸ばせば届く距離にあるのに、それは永遠に手の届かない彼岸にあるようだった。
「頼む……一口でいいんだ……。喉が渇いて死にそうなんだ……」
アルフォンスはプライドを捨てて懇願した。 膝をつき、手を合わせる。
「後で必ず払う! 何倍にしても払うから!」
「……アルフォンス殿下」
セレスティアは、蔑むような目で彼を見下ろした。 怒りすら感じていない。 ただ、哀れな生き物を観察する科学者のような目だ。
「あなたは以前、わたくしに言いましたわね。『愛はお金では買えない』と」
「う、うん……言った……」
「その通りです。愛はお金では買えません。……ですが、水も、食料も、快適な暮らしも、そして他人の敬意も、すべて『信用』という通貨で購われるものです」
彼女はグラスを手に取り、ゆっくりと口元へ運んだ。 そして、アルフォンスが見ている前で、それを一口飲んだ。
カラン……。
氷がグラスに当たる音が、残酷なほど美しく響く。
「……冷たくて、美味しいですわ」
「あ……ああ……」
アルフォンスは絶望の声を漏らした。 彼女が飲んだのは、ただの紅茶ではない。 彼の希望そのものだった。
「あなたは、王族という生まれ持った『信用』を、ご自身の愚かさと怠慢で食いつぶしました。そして今、破産したのです」
セレスティアはグラスを置いた。
「これは嫌がらせではありません。復讐ですらない。……ただの『結果』です。あなたが積み重ねてきた選択の、当然の帰結なのです」
「結果……」
「ええ。対価を払わず、感謝もせず、ただ搾取することしか知らなかったあなたが、搾取される側……いいえ、誰からも相手にされない『無価値な存在』になった。それだけのことです」
セレスティアは立ち上がった。
「お話は以上です。……セバス、お客様をお見送りして。お車(馬)のご用意も忘れずに」
「かしこまりました」
セバスが音もなく近づき、アルフォンスの腕を掴んだ。 その力は強く、抵抗することなど不可能だった。
「ま、待て! セレスティア! 水を! 水だけでも!」
「お帰りください。……外の噴水の水なら、多少は飲めるかもしれませんわよ? お腹を壊すかもしれませんが」
最後に投げかけられた言葉は、氷よりも冷たかった。
アルフォンスは引きずられるようにして屋敷を追い出された。 玄関の扉が閉まると同時に、あの天国のような涼しさは断たれ、再び灼熱の地獄が彼を襲った。
「うっ……ううっ……」
彼はふらふらと門の外へ出た。 係留されていた老馬が、心配そうに彼に鼻を擦り寄せる。
「……ちくしょう……ちくしょう……」
アルフォンスは泣いた。 涙はすぐに乾いてしまったが、心の渇きは癒えることがない。 彼は屋敷を振り返った。 窓の向こうで、セレスティアがまだ冷たいアイスティーを飲んでいる姿が、幻のように目に焼き付いていた。
「……適正価格……」
その言葉が、呪いのように頭の中でリフレインする。 自分が今まで当たり前のように享受してきた全てのものには、誰かが支払ったコストがあった。 それを無視し続けたツケが、今、利子をつけて回ってきたのだ。
アルフォンスは老馬の首に縋り付き、トボトボと王宮への帰路についた。 熱せられた石畳の上を歩く彼の影は、陽炎のように揺らめき、今にも消えてしまいそうだった。
***
屋敷の中。 セレスティアは、アルフォンスが去った後の窓辺で、静かに庭を眺めていた。 手には、まだ氷が残るグラス。
「……よろしかったのですか? 水一杯くらい恵んでやっても」
背後から、ジークフリートの声がした。 彼は隣の部屋で、今のやり取りを全て聞いていたのだ。
「甘やかしては意味がありませんわ。……それに」
セレスティアは振り返り、悪戯っぽく微笑んだ。
「一度冷たいものを知ってしまえば、ぬるい地獄にはもう戻れませんもの。……あの冷たさの記憶こそが、彼にとって最大の拷問になりますわ」
「相変わらず、容赦がないな」
ジークフリートは苦笑し、自分のグラスを掲げた。
「乾杯しようか。……『適正価格』という名の、冷徹な正義に」
「ええ。……そして、情熱的な未来に」
二人のグラスが軽く触れ合い、チン、という澄んだ音が鳴った。 氷が溶け出し、紅茶の色を少しずつ薄めていく。 だが、その味わいは、時間が経つほどに深みを増していくようだった。
一方、灼熱の道を帰るアルフォンスには、もう冷やすべき熱情も、癒やすべき愛も残されていなかった。 ただ、終わりのない渇きだけが、彼を待っていた。
【文字数:5288文字】
「……水が、出ない?」
アルフォンスは洗面台の蛇口を何度もひねった。 普段なら、魔石式のポンプによって地下から汲み上げられた清冽な水が、勢いよく溢れ出してくるはずだった。 だが、今日はカスカスという乾いた音が配管の奥で響くだけで、一滴の水滴すら落ちてこない。
「おい! どうなっているんだ!」
彼は苛立ち、蛇口を叩いた。 手洗いも、洗顔もできない。 何より、昨夜から一睡もできず、恐怖とストレスでカラカラに乾いた喉を潤すことができない。
アルフォンスはふらつく足取りで廊下に出た。 窓から差し込む日差しは強く、今日も暑くなりそうだ。 空調用の魔石が切れた王宮内は、すでに蒸し風呂のような熱気が籠もり始めていた。
「水だ……誰か、水を持ってこい……!」
叫んでも、誰も応えない。 かつて数百人の使用人が働いていたこの巨大な城には、今やアルフォンスとミナ、そして逃げ遅れた数名の老人しか残っていないのだ。
彼は厨房へと走った。 そこなら、水瓶に汲み置きがあるかもしれない。
しかし、厨房で彼が見たのは、空っぽになった水瓶と、それを呆然と見つめるミナの姿だった。
「……ないの」
ミナは乾いた唇を震わせて言った。 その顔は厚化粧が汗でドロドロに崩れ、目の下の隈はさらに濃くなっている。 ショッキングピンクの裂けたドレスは脱ぎ捨てられ、今は薄汚れたシュミーズ(肌着)一枚という、令嬢にあるまじき姿だった。
「水がないのよ、アルフォンス様ぁ……。喉が渇いて死んじゃう……」
「井戸は? 中庭の井戸があるだろう!」
「見てきたわよ……。でも、釣瓶のロープが切れてて、深い底が見えるだけだったわ。……誰かが、ロープを持って逃げたのよ」
ミナはその場に座り込み、ヒステリックに泣き出した。 涙さえも水分不足で枯れているのか、乾いた嗚咽だけが響く。
「嫌よ……こんなの嫌……。暑い、臭い、喉が渇いた……」
アルフォンスは、彼女の姿を見て、急激に怒りが湧き上がってくるのを感じた。 それはミナへの怒りではない。 自分たちをここまで追い詰めた「元凶」への、理不尽で身勝手な怒りだ。
「……セレスティアだ」
彼は拳を握りしめ、爪が掌に食い込む痛みで意識を保った。
「あいつがやったんだ。水道局に手を回して、王宮への供給を止めさせたんだ。……そこまでするか? たかが婚約破棄くらいで、僕たちを干からびさせて殺す気か!?」
アルフォンスの中で、何かが切れた。 プツン、という音と共に、プライドという名の箍が外れ、代わりに被害妄想という名の怪物が暴れ出した。
「許さない……絶対に許さないぞ、セレスティア!」
彼は厨房を飛び出し、馬小屋へと向かった。 馬はほとんど盗まれていたが、一頭だけ、老齢で足の悪い馬が残されていた。 鞍もない。手綱もない。 だが、今の彼には関係なかった。
「おい、起きろ!」
彼は老馬のたてがみを掴み、無理やり引きずり出した。 馬がいななき、嫌がる素振りを見せるが、アルフォンスはそれを無視して背に跨った。
「行くぞ! ハイゼンベルク邸だ! あいつに直接、文句を言ってやる!」
裸馬に跨り、薄汚れたシャツとズボン姿の王子が、王宮を飛び出していく。 ミナが後ろで「待ってぇ! 私を置いていかないでぇ!」と叫んでいたが、彼は振り返らなかった。 今、彼の頭の中を占めているのは、セレスティアへの抗議と、冷たい水を飲みたいという渇望だけだった。
***
王宮からハイゼンベルク公爵邸までは、馬車で三十分ほどの距離だ。 しかし、足の悪い老馬での移動は、永遠のように長く感じられた。
真夏の日差しが容赦なく照りつける。 アスファルトならぬ石畳からの照り返しが、アルフォンスの体力を奪っていく。
「はぁ……はぁ……」
彼はすでに汗だくだった。 シャツは肌に張り付き、髪からは脂汗が滴る。 喉の渇きは限界を超え、視界がチカチカと点滅していた。
沿道の市民たちが、奇異なものを見る目で彼を見上げている。
「おい、あれ……アルフォンス殿下じゃないか?」 「まさか。あんな浮浪者みたいな格好で、痩せこけた馬に乗ってるなんて」 「でも、あの金髪……」 「うわ、臭ってきそうだな」
ひそひそ話が聞こえてくる。 普段なら「不敬罪だ!」と怒鳴り散らすところだが、今の彼にはそんな気力もない。 ただひたすらに、ハイゼンベルク邸を目指す。 そこに行けば、水がある。 涼しい部屋がある。 そして、全ての元凶であるセレスティアがいる。
「着いた……」
目の前に、巨大な鉄の門が聳え立った。 ハイゼンベルク公爵邸。 その門扉は、王宮のそれよりも立派で、手入れが行き届き、黒々と輝いている。 門の向こうには、青々とした芝生と、噴水が水を噴き上げているのが見えた。
「水だ……!」
アルフォンスは馬から転げ落ちるように降ろり、門に縋り付いた。 鉄柵の隙間から手を伸ばすが、噴水には届かない。
「開けろ! 僕だ! アルフォンスだ!」
彼は門をガンガンと揺らした。 すると、門番小屋から制服を着た警備兵が出てきた。 王宮の老兵とは違い、筋肉質で精悍な若者だ。装備も最新式で、腰には魔石銃を携えている。
「何用でしょうか。ここはハイゼンベルク公爵邸です。関係者以外は立ち入り禁止となっております」
警備兵は、アルフォンスを見ても眉一つ動かさず、事務的に告げた。 まるで、ただの不審者を扱うような態度だ。
「無礼者! 僕の顔を見忘れたか! 第二王子アルフォンスだぞ!」
「……存じ上げております。ですが、アポイントメントのない方の入館はお断りするよう、総帥代理より厳命されております」
「総帥代理? セレスティアのことか! あいつを呼べ! 話があるんだ!」
「セレスティア様はご多忙です。お帰りください」
「ふざけるな! これは王命だ! ここを開けろ!」
アルフォンスが叫び続けていると、門の奥から、一台のカートが近づいてきた。 乗っていたのは、執事のセバスだ。
「……騒がしいですね。近所迷惑になりますよ」
セバスは門の内側から、冷ややかにアルフォンスを見下ろした。
「セバス! お前からも言ってやれ! 僕がセレスティアに会いに来たんだ!」
「お嬢様は、現在重要な商談中でございます。……ですが、あまりにも外が騒がしいと集中できないとのことで。『特別に』お通しするようにと仰せつかりました」
「ふん、やっと分かったか! 最初からそうすればいいんだ!」
アルフォンスは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。 門が重々しい音を立てて開く。 彼は胸を張って敷地内に入ろうとしたが、足がもつれて躓きそうになった。
「どうぞ、こちらへ。……お馬はお預かりしておきましょう。もっとも、これ以上歩かせるのは虐待に近いようですが」
セバスの皮肉を無視し、アルフォンスは屋敷へと向かった。 玄関ホールに入った瞬間、ひんやりとした空気が彼を包み込んだ。 最新式の魔石空調システムだ。 汗が一瞬で冷やされ、天国のような心地よさを感じる。
「ああ……涼しい……」
「客間へご案内します。……廊下を汚さないよう、ご注意ください」
セバスに案内され、通されたのは一階の応接室だった。 フカフカの絨毯、座り心地の良さそうな革張りのソファ。 そして、窓の外には美しい庭園が広がっている。 王宮の荒れ果てた景色とは、天と地ほどの差だ。
「ここでお待ちください」
セバスが退室すると、アルフォンスはソファに倒れ込んだ。 生き返るようだ。 この快適さ。これこそが、自分がいるべき場所だ。
「……やっぱり、セレスティアは僕を愛しているんだ」
彼は都合よく解釈を始めた。 でなければ、こんなにすぐに屋敷に入れてくれるはずがない。 きっと、強がって冷たくしていただけで、本当は僕に会いたかったに違いない。 そうでなければ、こんな快適な環境を用意するはずがない。
「少しキツく言ってやれば、泣いて謝るだろう。そうしたら、また元通りにしてやるさ」
そう独り言を呟いていると、ドアが開いた。
「あら、ずいぶんとくつろいでいらっしゃいますわね」
現れたのは、セレスティアだった。 涼しげなアイスブルーのドレスを纏い、銀髪を緩くアップにしている。 その美しさは、汗と泥にまみれたアルフォンスとは対照的に、透き通るような清潔感に溢れていた。
「セレスティア!」
アルフォンスは立ち上がろうとしたが、彼女の背後に控える二人の屈強な護衛(帝国騎士の制服を着ている)を見て、腰を浮かせたまま固まった。
セレスティアは優雅に歩み寄り、向かいのソファに腰掛けた。 彼女の手には、何も持たれていない。扇子さえも。 それは、アルフォンスを「駆け引きが必要な相手」とすら見ていない証拠だった。
「何の御用でしょうか、アルフォンス殿下。わたくし、これでも忙しいのですけれど」
「用だと? 決まっているだろう! 抗議しに来たんだ!」
アルフォンスは声を荒らげた。 涼しい部屋で少し体力が回復したせいで、その傲慢さがまた頭をもたげていた。
「抗議? 何に対する?」
「全てだ! 王宮への嫌がらせを今すぐやめろ!」
「嫌がらせ?」
セレスティアは小首をかしげた。
「具体的におっしゃっていただけます?」
「とぼけるな! 水だ! 水道を止めたな! それに食料も、ドレスも、何もかも! お前が商会に圧力をかけて、僕たちに売らないようにしたんだろう!」
「ああ、そのことですか」
彼女は事もなげに言った。 まるで、明日の天気の話題でもするかのように。
「訂正させていただきますわ。圧力をかけたのではありません。『取引を停止』したのです」
「同じことだろう!」
「いいえ、全く違います」
セレスティアの目が、スッと細められた。 室温がさらに数度下がったような錯覚を覚える。
「商取引というのは、商品やサービスに対して、対価が支払われることで成立します。王家は、長期間にわたり対価を支払っておりません。水道料金、食材費、被服費……すべて未払いです」
「だ、だから! 払うと言ってるだろう! 税金が入れば……」
「『いつか払う』は、ビジネスの世界では『払わない』と同義です。信用がない相手に、商品を渡す馬鹿な商人はいません」
「でも、水くらいは……! 水は命に関わるんだぞ! それを止めるなんて、人道的にどうなんだ!」
アルフォンスは必死に食い下がった。 人道。道徳。 それらは、彼が今まで一度も顧みなかった言葉だが、自分が被害者になった途端、最強の盾として持ち出してくる。
セレスティアは、ため息をついた。 そして、パチンと指を鳴らす。
すぐにメイドが入ってきて、テーブルの上にトレーを置いた。 そこには、水滴のついた背の高いグラスが一つ。 中には、琥珀色の液体と、カランカランと涼しげな音を立てる『氷』が入っていた。
「……アイスティーですわ」
セレスティアが勧める。 アルフォンスの目が釘付けになった。 氷。 この真夏に、氷の入った冷たい飲み物。 喉が鳴った。
「の、飲んでいいのか?」
「ええ、どうぞ。……ただし」
アルフォンスがグラスに手を伸ばそうとした瞬間、セレスティアがそれを制した。
「代金は、前払いでお願いします」
「は……?」
「金貨一枚です」
「き、金貨一枚!? たかが一杯の紅茶に!?」
アルフォンスは叫んだ。 金貨一枚といえば、平民の四人家族が一ヶ月暮らせる金額だ。
「高いとお思いですか? いいえ、これが『適正価格』です」
セレスティアは淡々と説明を始めた。
「まず、この茶葉はハイゼンベルク領の標高2000メートルの高地で栽培された最高級品です。それを摘む人件費、運送費がかかります。次に、この氷。魔導式冷凍庫を稼働させるための魔石コスト、および維持管理費。そして、この快適な室温を保つための空調コスト。さらに、わたくしという『商会総帥』が、あなたのために時間を割いているタイムチャージ」
彼女は指を一本ずつ折りながら数え上げた。
「それら全てのコストとリスクを合算すれば、金貨一枚でも安いくらいですわ。……特に、支払い能力のないハイリスクな顧客相手なのですから」
「そ、そんな……。僕は今、金を持っていない……」
アルフォンスはポケットを探ったが、あるのはハンカチ一枚だけだった。
「では、お引き取りください。……商品は、対価と引き換えです」
セレスティアは冷酷に告げた。 目の前にある、キンキンに冷えたアイスティー。 グラスの表面を伝う水滴が、まるで宝石のように輝いて見える。 手を伸ばせば届く距離にあるのに、それは永遠に手の届かない彼岸にあるようだった。
「頼む……一口でいいんだ……。喉が渇いて死にそうなんだ……」
アルフォンスはプライドを捨てて懇願した。 膝をつき、手を合わせる。
「後で必ず払う! 何倍にしても払うから!」
「……アルフォンス殿下」
セレスティアは、蔑むような目で彼を見下ろした。 怒りすら感じていない。 ただ、哀れな生き物を観察する科学者のような目だ。
「あなたは以前、わたくしに言いましたわね。『愛はお金では買えない』と」
「う、うん……言った……」
「その通りです。愛はお金では買えません。……ですが、水も、食料も、快適な暮らしも、そして他人の敬意も、すべて『信用』という通貨で購われるものです」
彼女はグラスを手に取り、ゆっくりと口元へ運んだ。 そして、アルフォンスが見ている前で、それを一口飲んだ。
カラン……。
氷がグラスに当たる音が、残酷なほど美しく響く。
「……冷たくて、美味しいですわ」
「あ……ああ……」
アルフォンスは絶望の声を漏らした。 彼女が飲んだのは、ただの紅茶ではない。 彼の希望そのものだった。
「あなたは、王族という生まれ持った『信用』を、ご自身の愚かさと怠慢で食いつぶしました。そして今、破産したのです」
セレスティアはグラスを置いた。
「これは嫌がらせではありません。復讐ですらない。……ただの『結果』です。あなたが積み重ねてきた選択の、当然の帰結なのです」
「結果……」
「ええ。対価を払わず、感謝もせず、ただ搾取することしか知らなかったあなたが、搾取される側……いいえ、誰からも相手にされない『無価値な存在』になった。それだけのことです」
セレスティアは立ち上がった。
「お話は以上です。……セバス、お客様をお見送りして。お車(馬)のご用意も忘れずに」
「かしこまりました」
セバスが音もなく近づき、アルフォンスの腕を掴んだ。 その力は強く、抵抗することなど不可能だった。
「ま、待て! セレスティア! 水を! 水だけでも!」
「お帰りください。……外の噴水の水なら、多少は飲めるかもしれませんわよ? お腹を壊すかもしれませんが」
最後に投げかけられた言葉は、氷よりも冷たかった。
アルフォンスは引きずられるようにして屋敷を追い出された。 玄関の扉が閉まると同時に、あの天国のような涼しさは断たれ、再び灼熱の地獄が彼を襲った。
「うっ……ううっ……」
彼はふらふらと門の外へ出た。 係留されていた老馬が、心配そうに彼に鼻を擦り寄せる。
「……ちくしょう……ちくしょう……」
アルフォンスは泣いた。 涙はすぐに乾いてしまったが、心の渇きは癒えることがない。 彼は屋敷を振り返った。 窓の向こうで、セレスティアがまだ冷たいアイスティーを飲んでいる姿が、幻のように目に焼き付いていた。
「……適正価格……」
その言葉が、呪いのように頭の中でリフレインする。 自分が今まで当たり前のように享受してきた全てのものには、誰かが支払ったコストがあった。 それを無視し続けたツケが、今、利子をつけて回ってきたのだ。
アルフォンスは老馬の首に縋り付き、トボトボと王宮への帰路についた。 熱せられた石畳の上を歩く彼の影は、陽炎のように揺らめき、今にも消えてしまいそうだった。
***
屋敷の中。 セレスティアは、アルフォンスが去った後の窓辺で、静かに庭を眺めていた。 手には、まだ氷が残るグラス。
「……よろしかったのですか? 水一杯くらい恵んでやっても」
背後から、ジークフリートの声がした。 彼は隣の部屋で、今のやり取りを全て聞いていたのだ。
「甘やかしては意味がありませんわ。……それに」
セレスティアは振り返り、悪戯っぽく微笑んだ。
「一度冷たいものを知ってしまえば、ぬるい地獄にはもう戻れませんもの。……あの冷たさの記憶こそが、彼にとって最大の拷問になりますわ」
「相変わらず、容赦がないな」
ジークフリートは苦笑し、自分のグラスを掲げた。
「乾杯しようか。……『適正価格』という名の、冷徹な正義に」
「ええ。……そして、情熱的な未来に」
二人のグラスが軽く触れ合い、チン、という澄んだ音が鳴った。 氷が溶け出し、紅茶の色を少しずつ薄めていく。 だが、その味わいは、時間が経つほどに深みを増していくようだった。
一方、灼熱の道を帰るアルフォンスには、もう冷やすべき熱情も、癒やすべき愛も残されていなかった。 ただ、終わりのない渇きだけが、彼を待っていた。
【文字数:5288文字】
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