『処刑されたはずの悪役令嬢は、3回目の人生で『完璧な悪女』を目指して嫌われたい〜なのに、なぜか今度は王太子殿下から求婚されています〜』

ラムネ

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第18話 無人島に漂着して『わがまま』を言っていたら、いつの間にか南国リゾートが完成していました

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「……揺れるわ」

私は不機嫌だった。 最高に、最悪に、吐き気がするほど不機嫌だった。

場所は、バルドゥール帝国が用意した最新鋭の魔導装甲船『鉄の鯨』号のVIPルーム。 私たちは今、未開の地『暗黒大陸』を目指して、荒れ狂う外洋を航海中である。

「ねえ、いつ着くのよ。もう三日も海の上じゃない。私の肌が潮風で荒れたらどう責任を取ってくれるのかしら?」

私はふかふかのソファに寝そべりながら、不満を垂れ流した。 目の前には、甲斐甲斐しく世話を焼くアレクセイ様がいる。

「ごめんね、リリス。この海域は『魔の三角地帯』と呼ばれていて、海流が複雑なんだ。でも大丈夫、君の肌を守るために、僕はさっきから保湿魔法をかけ続けているから」

「やめて、ベタベタしますわ」

「そうか。じゃあ、風魔法で乾燥させようか?」

「パサパサになりますわ!」

アレクセイ様との不毛なやり取り。 部屋の隅では、ハインリヒが船酔いでダウンしており、キョウヤが刀の手入れをし、ポチ(ドラゴン)は小型化して私の膝の上で眠っている。 マリアとシドたちは別室で航海日誌をつけているはずだ。

「……退屈ね」

私は窓の外、鉛色の空を見上げた。 暗黒大陸へ行って『本物の魔王』に殺してもらう。 その計画はいいのだが、移動時間が暇すぎる。 悪役令嬢たるもの、移動中も優雅に悪事を働きたいところだが、船の上ではできることが限られている。

その時だった。

『……警告。イベント発生』

頭の中に、あの少年の声――『観測者』の声が響いた。 彼は今、私の『記録係』として透明化して同行している。

「イベント?」

『はい。本来のシナリオでは、暗黒大陸へ向かう一行は、ここで「自然の猛威」という試練を受けることになっています』

ゴゴゴゴゴ……!

船体が大きく軋んだ。 窓の外が、一瞬にして真っ暗になる。 雷鳴。 そして、山のような高波が迫ってくるのが見えた。

「な、なによあれ!?」

「嵐だ!」 アレクセイ様が私を抱きしめる。

「違う! あれは『リヴァイアサン』だ!」 飛び起きたハインリヒが叫ぶ。

波の中から現れたのは、神話級の海竜リヴァイアサン。 ポチ(終焉の竜)と並ぶ、海の最強生物だ。 そいつが、口から極太の水流ブレスを吐き出そうとしていた。

『これは「強制イベント:遭難」です。回避不能。……諦めて流されてください』

観測者が淡々と告げる。

「ふざけんじゃないわよ! 私の服が濡れるじゃない!」

私は叫んだが、遅かった。 リヴァイアサンのブレスが船体に直撃する。 最新鋭の装甲船が、紙屑のように砕け散った。

「キャアァァァァッ!」

私の意識は、冷たい海の中に沈んでいった。

          ◇

「……ん」

頬に当たる、ザラザラとした感触。 波の音。 鳥の鳴き声。

「……生きてる?」

私はガバッと起き上がった。 そこは、白い砂浜だった。 空は憎らしいほどの快晴。 ヤシの木のような植物が生い茂り、どこまでも続く青い海。

典型的な、南の島だ。

「リリス!」

「ママ!」

アレクセイ様とポチが駆け寄ってくる。 どうやら全員無事らしい。 ハインリヒ、キョウヤ、シド、ガストン、マリア、ゼクス、そして透明化を解除した観測者の少年。 全員がずぶ濡れになりながら、砂浜に集合していた。

「よかった……君が無事で本当によかった……!」

アレクセイ様が涙目で私を抱きしめる。 海水で濡れたシャツが透けて、無駄に筋肉質な胸板が見えている。 ちょっと目のやり場に困る。

「離してくださいまし。……ここ、どこですの?」

「解析しました」 シドが眼鏡(割れていない、さすがだ)を光らせる。 「現在位置不明。魔力干渉によりコンパスも地図も機能しません。……おそらく、海図に載っていない『無人島』かと」

無人島。 サバイバル。

(……最悪だわ)

私は天を仰いだ。 公爵令嬢である私が、野宿? 虫とか出るんでしょ? お風呂もないんでしょ?

でも……待てよ?

これはチャンスかもしれない。 サバイバル生活において、最も足手まといになるのは「何もできない高慢な令嬢」だ。 「お腹すいた!」「こんな固いベッドで寝られない!」「虫けら(仲間含む)はあっちへ行って!」とわがままを言い続ければ、さすがのアレクセイ様たちも愛想を尽かすはず。 「こいつ、非常事態に何言ってるんだ?」と軽蔑され、置き去りにされるかもしれない!

(ふふふ……やってやるわ。伝説の『お荷物ヒロイン』になってやる!)

私は砂浜にドカッと座り込んだ。 そして、女王様のように足を組んだ。

「喉が渇きましたわ」

私は言った。

「誰か、最高級のフルーツジュースを持ってきて。氷入りでね。……あと、日差しが強いから、今すぐエアコンの効いた部屋を用意してちょうだい」

無茶振りだ。 無人島で氷? エアコン? あるわけがない。 さあ、困りなさい。怒りなさい。

「……リリス」

アレクセイ様が真剣な顔で頷いた。

「わかった。君を熱中症にさせるわけにはいかない。すぐに用意する」

「は?」

「野郎ども、動け!」 ハインリヒが号令をかける。 「リリス様の玉座を作るぞ! 木材を集めろ!」 「食料確保班、出動!」 ガストンとキョウヤが森へ走る。

彼らは本気だった。 私の理不尽な要求を「ミッション」として受け止め、全力で叶えようと動き出したのだ。

          ◇

数十分後。

「お待たせしました、姉御」

キョウヤが戻ってきた。 その手には、巨大なヤシの実のようなフルーツと、竹のような筒。

「水分補給です。……ですが、ただのジュースでは姉御の舌に合わないでしょう」

彼は刀を抜いた。

「『設定無視・氷結斬り』」

キンッ。 刀身が冷気を帯びる。 彼がフルーツを一閃すると、果汁が瞬時にシャーベット状に凍結した。

「どうぞ。天然果汁100%のフローズンスムージーです」

「……」

私はストロー(竹製)で一口飲んだ。 甘い。冷たい。美味しい。 王都のカフェで飲むより美味しいかもしれない。

「……悪くないわね」

悔しいけど認めるしかなかった。

「ママ、コッチモ!」

ポチが、巨大な葉っぱで作った団扇で私を扇いでくれている。 「風魔法・微風(ブリーズ)」 シドが魔法で冷風を送り込んでくる。 天然のエアコンだ。 涼しい。快適だ。

「リリス様、日除けのガゼボが完成しました!」

ガストンとハインリヒが、流木とツルで組み上げたとは思えないほど立派な東屋(あずまや)を完成させていた。 屋根には美しい花が飾られ、床には柔らかい草が敷き詰められている。

「……何よこれ。リゾート?」

私は呆れた。 サバイバルの緊張感がゼロだ。

「まだです! リリス様が満足されるには程遠い!」 マリアが目を輝かせている。 「お姉様はお腹が空いているはずです。無人島といえば……これですよね!」

マリアが指差した先。 森の奥から、ガサガサと音を立てて現れたのは……。

巨大な『マンモス』だった。 いや、マンモスというより、全身が燃えるような赤い毛で覆われた『炎の魔獣』だ。 体長10メートル。 牙からは溶岩が滴り落ちている。

「グルルル……!」

魔獣が私を睨む。 普通なら悲鳴を上げて逃げる場面だ。

「きゃっ! 怖い! 殺して!」(本心:私を殺して)

私は叫んだ。 しかし、口から出たのはまたしても違った。

「……あら。なんて美味しそうな『お肉』なのかしら」

(えっ!?)

私の悪食スキルが、生存本能とリンクして暴走した。

「あの赤身……焼けばきっとジューシーだわ。あの牙は、砕いてスパイスにすれば最高の刺激になりそう……。ねえ、アレクセイ。わたくし、あれが食べたいわ」

私は扇で魔獣を指差した。 「あれを狩ってこい」という、暴君の命令。

「御意」

アレクセイ様が消えた。 ドガァァァン!! 一秒後、魔獣は白目を剥いて倒れていた。

「新鮮な食材が手に入ったね。さあ、リリス。君の指示通り、バーベキューにしよう」

「指示してない! ただの願望!」

結局、私たちは砂浜で盛大なバーベキュー大会を開くことになった。 魔獣の肉は、ポチのブレスで絶妙に焼かれ、私が適当に調合した現地の野草(実は高級ハーブだった)で味付けされた。

「美味い!」 「最高だ!」 「無人島生活、悪くないな!」

宴会になってしまった。 焚き火を囲み、エール(の代わりの果実酒)を飲み、歌い踊る一行。 私はその中心で、一番良い肉を食べさせられながら、遠い目をしていた。

「……遭難って、もっとこう、悲惨なものじゃなかったかしら」

『……観測データ更新。リリス様の「わがまま」は、集団の士気を高め、生存率を飛躍的に向上させるリーダーシップとして機能しています』

観測者の少年が、焼き肉を食べながらメモを取っている。 黙りなさい。

          ◇

翌日。 私はさらなる無理難題をふっかけることにした。

「お風呂に入りたいわ」

私は朝一番に宣言した。 砂と潮風でベタベタする。 シャワーもないこの島で、お風呂なんて無理だ。 「川で水浴びでもしてください」と言われれば、「冷たいのは嫌!」とゴネるつもりだった。

「お風呂ですね。承知しました」

シドが地図(昨夜作成済み)を広げた。

「この島の地下には、マグマ溜まりが存在します。地質調査の結果、島の北側に源泉がある可能性が高い。……掘りましょう」

「掘る?」

「ガストン、ポチ。出番です」

「おう!」 「アイアイサー!」

ガストンとポチ(人間形態)が、スコップを持って走り出した。 数分後。

プシューッ!!

巨大な水柱が上がった。 湯気だ。 温泉だ。

「出ました! 天然温泉です! しかも美肌効果のある硫黄泉!」

「嘘でしょ……」

「さらに、キョウヤが岩を削って『露天風呂』を作成しました。マリア様が浄化魔法でお湯を適温に保ち、周囲に目隠しの竹垣を作りました」

完成してしまった。 オーシャンビューの絶景露天風呂が。

「さあ、リリス。一番風呂をどうぞ」

アレクセイ様がバスタオル(どこから出した?)を差し出す。

「……入るわよ。入ればいいんでしょ!」

私はヤケクソで服を脱ぎ(もちろんマリア以外は立ち入り禁止にして)、湯船に浸かった。

「はぁ~……」

声が出た。 気持ちいい。 悔しいけど、最高に気持ちいい。 海を眺めながらの源泉掛け流し温泉。 王宮のバスルームより豪華かもしれない。

「リリスお姉様、お背中流しますね」 マリアがやってくる。 「この泥パック、島の火山灰で作ったんです。お肌がツルツルになりますよ!」

エステ付きだった。 私は泥パックを顔に塗られながら、天を仰いだ。 これはサバイバルではない。 バカンスだ。

          ◇

一週間後。

無人島は、変貌を遂げていた。

私の「家が欲しい」というわがままにより、ガストンとハインリヒが高床式のログハウスを建設。 「フカフカのベッドじゃなきゃ嫌」という要望に対し、ポチが集めた鳥の羽毛でキングサイズのベッドが完成。 「夜は明るくないと怖い」と言えば、シドが発光する苔を培養してイルミネーション街道を整備。 「虫が嫌い」と言えば、キョウヤが半径1キロ以内の虫を『殺気』だけで追い払った。

結果。 そこには、五つ星リゾートホテル顔負けの『ヴィラ・リリス』が爆誕していた。

「……どうしてこうなった」

私はログハウスのテラスで、トロピカルジュースを飲みながら呟いた。 目の前には、白砂のプライベートビーチ。 パラソルの下では、アレクセイ様たちがビーチバレーを楽しんでいる。

「リリス! 見てくれ、新しい水着を作ったよ!」 アレクセイ様が手を振る。 葉っぱで作った際どい水着だ。見たくない。

「リリス様、今日のランチは『マンモスのステーキ・トリュフソース添え』です!」 ガストンがシェフの格好(葉っぱ製)で叫ぶ。 トリュフもこの島にあったらしい。

この島、資源が豊富すぎる。 というか、私の「悪女スキル(強欲)」が、隠された資源を次々と発見させている気がする。 「あそこの土、色が気に入らないわ(掘り返せ)」→レアメタル発見。 「あの木、邪魔よ(切り倒せ)」→最高級香木だった。

私はこの島の生態系を破壊し、資源を搾取する『環境破壊の悪魔』になるつもりだったのに、なぜか『開拓の女神』になってしまっている。

その時。 観測者の少年が、私の隣に現れた。

「リリス様。……面白いデータが取れました」

「なによ。また『士気が上がりました』とか言うんでしょ?」

「いいえ。……この島の正体についてです」

観測者は、足元の地面を指差した。

「この島……動いています」

「は?」

「正確には、ここは島ではありません。……超巨大な『海亀』の甲羅の上です」

「……はい?」

言われてみれば、時々地面が揺れる気がしていた。 地震だと思っていたが、あれは亀の動きだったのか?

「しかも、ただの亀ではありません。これは『神獣アスピドケロン』。暗黒大陸への渡し守と言われる伝説の存在です」

「渡し守?」

「はい。どうやらリリス様の『わがまま(環境整備)』によって甲羅が綺麗になり、マッサージ効果(温泉掘削)で血行が良くなったため、亀が目を覚ましたようです。……今、この亀はリリス様に恩義を感じ、猛スピードで暗黒大陸へ向かっています」

「嘘でしょ!?」

私はテラスから身を乗り出した。 確かに、島の景色が流れている。 ものすごい速さで移動している。

「亀タクシー……」

私は頭を抱えた。 遭難して漂流するはずが、超豪華客船(亀)に乗って目的地へ直行することになってしまった。

「……もう、なんでもいいわ」

私は諦めて、ジュースを飲み干した。

「着いたら教えて。それまでエステの続きをするから」

          ◇

数日後。 私たちはついに、『暗黒大陸』に上陸した。 亀が接岸し、「アリガトウ、マッサージキモチヨカッタヨ」とテレパシーを残して去っていった。

目の前に広がるのは、常夜の闇に包まれた大地。 紫色の霧が漂い、枯れた木々が不気味な影を落としている。 遠くには、天を衝くような黒い塔――『真・魔王城』が見える。

「ここが……暗黒大陸」 ハインリヒが剣を抜く。 「空気が重いな。……さすがは魔物の本拠地だ」

「リリス、離れないでくれ。何が起きるかわからない」 アレクセイ様が私を守るように立つ。

しかし、私はワクワクしていた。 このおどろおどろしい雰囲気。 これこそが求めていたものだ。 リゾート生活も楽しかったけど、やっぱり私は「破滅」が似合う女。 この大陸でこそ、本当の『悪』になれるはず!

「行くわよ! 目指すはあの塔! 本物の魔王に喧嘩を売りに行くわ!」

私が第一歩を踏み出そうとした、その時。

「――お待ちしておりました、姉上」

霧の中から、声がした。

「……姉上?」

現れたのは、一人の少年だった。 銀色の髪、赤い瞳。 アレクセイ様に少し似ているが、もっと幼く、そして……どこか壊れているような危うさを持つ美少年。 背中には、漆黒の翼が生えている。

「誰?」

「忘れてしまったのですか? ……僕は『ルシファー』。この暗黒大陸の王であり……あなたの『運命の片割れ』ですよ」

ルシファー。 堕天使の名を持つ少年。

「リリス姉上。……僕と一緒に、この世界を壊しましょう?」

彼は無邪気に微笑み、私に手を差し出した。 その手には、世界の終わりを予感させる、ドス黒い魔力が渦巻いていた。

(……来た)

私は直感した。 彼こそが、私が求めていた「最高の共犯者」だ。 アレクセイ様のような「守ってくれる愛」ではない。 私と共に堕ちてくれる「破滅の愛」。

「ええ、いいわよ」

私は彼の手を取ろうとした。

「リリス! ダメだ!」 「触れるな、リリス!」

アレクセイ様とハインリヒが飛び出してくる。 しかし、ルシファーは指を鳴らしただけで、二人を壁まで吹き飛ばした。

「邪魔だよ、人間風情が。……姉上は僕のものだ」

ルシファーが私を抱き寄せる。 冷たい。 氷のような体温。 でも、その冷たさが心地よかった。

「さあ、行きましょう。……『終わりの始まり』です」

ついに、私は「魔王」の手を取った。 物語は最終章へ。 愛と狂気、そして世界の存亡をかけた、最後の戦い(という名の痴話喧嘩)が幕を開ける。
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