1 / 1
毒の話
蜘蛛がいる。青い蜘蛛。空色に鮮やかに、表面が塗られている。人工物のようだが、たしかに生物として動く。自分の意思を持つ。
そこへ、狸がやってきた。狸はぽんぽこお腹を叩き、蜘蛛を威嚇する。蜘蛛は反撃に口から糸を飛ばす。例の、ぬるぬるとしたくっつくやつだ。狸はそれを迷惑そうに弾く仕草をする。勿論、糸に絡め取られてしまう。
狸は動けなくなってしまった。蜘蛛は、そろそろと狸に近寄り、その顎を広げ、捕食しようとする。しかし、圧倒的に狸の方がでかい。それに、蜘蛛の顎では狸の毛皮も噛み砕けなかった。蜘蛛は、狸の口の中に入ろうと試みる。体の中から食い荒らしてしまおうというわけだ。しかし、逆に狸に噛み砕かれ、蜘蛛の浅はかな試みは無残に失敗する。
だがこれで終わりというわけでもない。蜘蛛には毒があったから、その毒が狸の全身を回り、道連れにした。誰も生きていない。この不毛な戦闘に誰一人生き残った者はいない。毒の回った狸を誰かが食らう。その者も死ぬ。そしてその者にも毒が回り、それを食した者もやはり死ぬ。死が連鎖する。どんどん連鎖していく。
いいや、それにも終わりはある。毒に強い生き物が登場した。それは、狸や蜘蛛よりもはるかに小さい。毒ほどその栄養とはならない生物だ。その生き物は毒を粉々に分解し、すべての生物が食べられるようにする。その生き物は身を持って解毒を行う。自らがあとから食べられてしまう。
小さな生物ほど強いのかもしれない。彼らは食われる最下層の者かもしれないが、解毒は彼らによって行われるのであれば。巡り巡ってまた毒ある蜘蛛に彼らは食べられてしまうが。毒自身になってしまうが。
これが毒の正体である。世界は毒に満ちている。いいや、その毒の、循環に満ちている。かろうじてこの連鎖循環から逃れられた生物がいる。彼らは、毒の価値を知らない。毒をもって何事か語らない。毒のないところに彼らは住んでいたから、毒されたものは、毒のある場所へと渡り歩く。両者は交わらない。同一の世界に互いがいるのだが、一方は毒を必要とせず、一方は毒の価値を知る者たちを巡り歩く。青い蜘蛛。それはどこで生まれただろうか。ふと生まれていた気がする。どこに?
それが毒を持っていたといつ誰が知っただろう。いつからか、それは始まったはずだ。その毒が巡り、大勢の者たちを倒し、小さな者たちに分解されていくということが。始めから、世界の成り立ちの最も初めからそれは行われたのではなかった。ある時その毒の存在を誰かが知り、伝えたのである。「毒のあるものが誕生した」と、訴えたのである。その瞬間、その世界に毒は満ちた。毒は循環する季節のようなものになった。誰もがそれを食べていたと知るようになった。分解されうるのだという発見をした。
さてこの毒のない場所に、新たに蜘蛛が誕生した。その蜘蛛は四つ足で、今度は赤い。はたしてその蜘蛛は、毒を持っているだろうか。もしそのような報告がされれば、世界にその毒は瞬く間に満ち、分解され、巡回するだろう。その瞬間、ある一つの垣根がおそらく消え去るのだろう。いいや、もしかしたら、新しい垣根を見つけるかもしれない。またその毒が、ない場所を。
そこへ、狸がやってきた。狸はぽんぽこお腹を叩き、蜘蛛を威嚇する。蜘蛛は反撃に口から糸を飛ばす。例の、ぬるぬるとしたくっつくやつだ。狸はそれを迷惑そうに弾く仕草をする。勿論、糸に絡め取られてしまう。
狸は動けなくなってしまった。蜘蛛は、そろそろと狸に近寄り、その顎を広げ、捕食しようとする。しかし、圧倒的に狸の方がでかい。それに、蜘蛛の顎では狸の毛皮も噛み砕けなかった。蜘蛛は、狸の口の中に入ろうと試みる。体の中から食い荒らしてしまおうというわけだ。しかし、逆に狸に噛み砕かれ、蜘蛛の浅はかな試みは無残に失敗する。
だがこれで終わりというわけでもない。蜘蛛には毒があったから、その毒が狸の全身を回り、道連れにした。誰も生きていない。この不毛な戦闘に誰一人生き残った者はいない。毒の回った狸を誰かが食らう。その者も死ぬ。そしてその者にも毒が回り、それを食した者もやはり死ぬ。死が連鎖する。どんどん連鎖していく。
いいや、それにも終わりはある。毒に強い生き物が登場した。それは、狸や蜘蛛よりもはるかに小さい。毒ほどその栄養とはならない生物だ。その生き物は毒を粉々に分解し、すべての生物が食べられるようにする。その生き物は身を持って解毒を行う。自らがあとから食べられてしまう。
小さな生物ほど強いのかもしれない。彼らは食われる最下層の者かもしれないが、解毒は彼らによって行われるのであれば。巡り巡ってまた毒ある蜘蛛に彼らは食べられてしまうが。毒自身になってしまうが。
これが毒の正体である。世界は毒に満ちている。いいや、その毒の、循環に満ちている。かろうじてこの連鎖循環から逃れられた生物がいる。彼らは、毒の価値を知らない。毒をもって何事か語らない。毒のないところに彼らは住んでいたから、毒されたものは、毒のある場所へと渡り歩く。両者は交わらない。同一の世界に互いがいるのだが、一方は毒を必要とせず、一方は毒の価値を知る者たちを巡り歩く。青い蜘蛛。それはどこで生まれただろうか。ふと生まれていた気がする。どこに?
それが毒を持っていたといつ誰が知っただろう。いつからか、それは始まったはずだ。その毒が巡り、大勢の者たちを倒し、小さな者たちに分解されていくということが。始めから、世界の成り立ちの最も初めからそれは行われたのではなかった。ある時その毒の存在を誰かが知り、伝えたのである。「毒のあるものが誕生した」と、訴えたのである。その瞬間、その世界に毒は満ちた。毒は循環する季節のようなものになった。誰もがそれを食べていたと知るようになった。分解されうるのだという発見をした。
さてこの毒のない場所に、新たに蜘蛛が誕生した。その蜘蛛は四つ足で、今度は赤い。はたしてその蜘蛛は、毒を持っているだろうか。もしそのような報告がされれば、世界にその毒は瞬く間に満ち、分解され、巡回するだろう。その瞬間、ある一つの垣根がおそらく消え去るのだろう。いいや、もしかしたら、新しい垣根を見つけるかもしれない。またその毒が、ない場所を。
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「お前の看病は必要ない」と追放された令嬢——3日後、王子の熱が40度を超えても、誰も下げ方を知らなかった
歩人
ファンタジー
「お前の看病などいらない。薬師がいれば十分だ」
王太子カールにそう告げられ、侯爵令嬢リーゼは静かに宮廷を去った。
誰も知らなかった。夜ごとの見回り、薬の飲み合わせの管理、感染症の予防措置——宮廷の健康を守っていたのは薬師ではなくリーゼだったことを。
前世で救急看護師だった記憶を持つ彼女は、辺境の診療所で第二の人生を始める。
一方、リーゼが去った宮廷では原因不明の発熱が蔓延し、王太子自身も倒れる。
迎えに来た使者にリーゼは告げる——「お薬は出せます。でも、看護は致しません」
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
『お前を愛する事はない』旦那様、それではごきげんよう
あんど もあ
ファンタジー
結婚初夜に「お前を愛する事はない」と言われたアレクシア。成金男爵令嬢が名門旧家の伯爵家の令息との恋を実らせたはずが、彼は贅沢を享受したいだけで、愛する女性は別にいた。それから三年。アレクシアは夫から家を追い出される事になるが……。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。