巨人の話2

KeiSenyo

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巨人の話2

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 巨人はいなかった、と断定することができる。それは、もうそんなものは見かけなくなったからだ。人間の争いは今や荒々しく土地を荒廃させるものだ。昔と比べても、その破壊力は増している。人間は頭がいい。その体力を超える武器を次々に作り出し、世界中で覇権を争う。こんな時代に、巨人などいるはずがない。
 そして過去にも、そんな存在がいたはずがない。なぜなら、もしいたならば痕跡があるはずではないか。何らかの痕跡が。人間を打ちのめしたという足跡が!彼らは人間の天敵だったのだから。そう伝説では伝えられている。巨人にとって、我々はずっとちっぽけな生き物で、それでいて自分たちを何とかしてやりこめようとする、奸智と猜疑心に満ち溢れた生き物だと。我々はこんなにも世の中に溢れてしまった。だから、昔天敵であったはずの巨人などいなかったのだ。
 そう思う理由はもう一つある。我々人間にはおよそ巨人らしき風格と権益を所持した者はいない。勿論、我々は彼らではないのだから、そうなのだ。だがもし伝説の通り我らが彼らに羨望なり憎悪なり燃やしていたのであれば、彼らを食って、自分のものにしたかったのではないか。カニバリスムの理論よろしく、相手を自分の一部とすれば、もう相手の優れたるところは自分のものになるのだから。我々は、ずっとそうしてきたではないか!あらゆる動植物を食して、彼らの力と認識を加えて、こんなにも世にはびこったのである!そうではないか。
 私という嫌悪感の認識は、一言で言うと、人間を恐れている。人間を猜疑に満ちた目で見ている。こんな動物は亡んだっていいと思っている。私の隣で人が亡くなった。私に何も言わず、石を食べたのだ。彼は私の隣で死にたかったのだろうか。彼は天涯孤独の身だった。私は彼と話をしていた。突然、彼は石を持って私に見せて、これを食べるんだ、そうすれば、あらゆることから自分は解放されていくからと。私はただ彼を見つめ眺めるだけだった。彼は胃から夥しい血を流して死んだ。…
 私の隣で、そうした人間が幾重も重なり死んでいく。この世の中はなんと絶望に満ちているのだろうと思えてならない。そう言う私自身も、天涯孤独の身なのだ。誰が起こしたか知らないが、今期の戦争は、最もみじめで悲惨なものだろう。人間を蹂躙し、何も残さない、耕した土地ほどこの期に覆されてしまったものはない。我々は命をなくした。我々は疲れ果てた。
 巨人はいなかった。それをカニバリスムよろしく食したのであれば、我々はこんなに悲惨なことはしなかった。我々は彼らに憧れもしなかった。彼らがもし目標たりえたならば、我々はもう少しましな生活をしてきたはずだった。ひょっとすると、私は巨人の現出を望んでいるのではないか。彼らがもし生きていたならと、淡い、それこそ本当に薄い期待を抱いて生きているのではないか。人間同士が互いを憎しみ合うほどみっともないものはない。出口のない怒りは決して消え去ることなく、世界の荒廃に手を貸すばかりである。
 だが不思議な期待がある…私の中に、巨人は潜在しているのではないか?と。とんでもない、おかしなことを言い出したとは言ってほしくない。では、そう言うあなたにも、そうした潜在的意識はないというのか。山のように大きく、不羈の、自然児たる堂々者は!巨人が我々の作り出した一種の幻想なら、もう一度、作り出してもいいのではないかと思う。彼らに憧れた、彼らをどうしても打ち倒さねばならないという気概を、生命力を、圧倒的な志を、我々に持たせてほしいと願う。我々に「巨人はいた」と思わせてくれないか。そしてそれは今も現在すると言ってはもらえないか。私は憂鬱だ。塞ぎこんでいる。何か夢が欲しいのだ。それは夢で構わない。
 結局私ほど巨人の力を受けるのにふさわしくない小心者はいない。多分、夢を見るだけで、きっと十分なのだ。…だがそれは幻想だから、たちどころに崩され、不安に襲われるだろう。今度こそ私は自殺するかもしれない。
 長々としゃべったが、これは私の遺書なのだ。だから、まともに取り合ってほしくはないし、別に私の話に応えなくてもいい。私は自殺する。そうした覚悟を、一度ここでしたためておきたかったのだ。



 ということを書いたはずだが、残念ながら私は生き延びてしまった。私はもう一度巨人を探してみようと思う。自分の心にではなく、外に。どこかにきっといるのだと思えてならない。これは、妄念だろうか?いや、違う。人間が伝説で書くほどだ。きっと彼らは存在していたのだ。ふむ、この結論に、不満を抱える読者はいるだろうが。絶望が見せる判断は少なくとも地上の下を目指している。考えが圧倒的になり、否定が大になる。
 それは一時的なものなのだ。だからといって、私が絶望から立ち直ったとは言い難いが。絶望を持っているからこそ巨人を探しに行くのだと言ってはどうだろう。こうした言い方はいいgood
 満足ならば、決して、彼らを探そうとはしないだろうから。
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