薬の話

KeiSenyo

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薬の話

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 根本的に、薬とは、何かを直す薬品ではない。それは循環を高め、生物に、その毒の存在を知らしめるために使われる。つまり、命の危険があるということだ。生物は皆どこにいても脅威にさらされている。しかしそれは当たり前のことで、どんな確率式も出来事に比べればあっさりと身を引く。薬品に確率などない。直るか、そうでないかだ。
 しかし薬は、確率などで測れない。それはいつ効果を発揮するか、よく分からないからだ。薬は、命と共にいる。命の働きを高める手段だ。その結果が、死を伴うことになろうとも。薬は死を追い出さない。薬は命を助けてくれるが。薬品にあるのは生か死かだけだが。だから、時に、最も死に追いやるものを「薬」と称することがある。実際は毒だが、信じて、薬とわざわざ言うことがある。それは薬品ではない。命を引き伸ばすものではない。だが命を助けることになる。そのために使われる。
 生き物の根の根。足元。いかにして命を肯定するか。毒と薬は同一のものだ。毒こそ薬に並ぶものだ。それは言い方の違いだ。誰もが毒に侵されるが、毒を吐き出すものが「薬」ではない。その毒を、うまく循環させるのが薬だ。それは薬品ではない。薬品は毒をそのからだから除去する。そうして終わる。毒は排泄され、また再び体の中に入る。そのたびに薬品は使われる。薬品は使われるものである。命から手放せないものである。
 薬品は毒とは並ばない。薬品は毒と対立する。そのものの考え方も、それと共に生きるやり方も。毒は身をたすくとは考えない。毒あってこそのこの世だとは思わない。毒はいったい克服されるものではない。毒とは敵である。薬品とは剣である。
 対峙し、戦争をして、永遠に終わらない侵略を繰り返す。どちらも互いを嫌悪し、仲良くはならない。すなわち、毒とは侵略者…絶望の源と考える。薬品は希望である。
 使用者はこの認識を大事にする。そして、薬に頼る世界をつくろうとする。薬こそこの世を正しくしてくれるものなのだ。直ることこそ自分があるべき姿になることなのだ。
 毒はみじめに排除される。正義は薬に軍配を上げる。しかし毒はなくならない。毒は進化する。また侵略が襲う。そして新しい薬品が開発され、人間はこれを頼りにする。

 そうした毒の循環は、新しく薬を見つける。それは薬品ではない。物語だ。薬品を使うことこそこの大事な認識の一粒になる。それと共に生きたということが、何より薬であった。つまり、命の危険があるということだ。薬品によって直らないものがある。毒は降りしきるのだという現実。しかし、薬品と共に生活したということが、何より人を慰める。信じて、薬とわざわざそれを言う。
 おそらくどんな挑戦も薬となるのだ。毒との戦いは終わらなくても、次々と「薬」は発明される。その循環こそが、毒と共に生きるということ。毒を克服していくということ。蜘蛛は、この時に生まれる。それを発見した時すでに蜘蛛の毒は世界中を循環している。毒は、希望と同じ場所に立つ。毒がなければ、希望も絶望も生まれないのだ。
 それがこの世の仕組みといってなんになるだろう。人間は毒と同時に薬も生み出しているのだ。一生懸命、生きていることが、この循環を推し進め、薬の効果を発揮して、毒を収めていく。知らぬ間に彼らは強くなっていた。蜘蛛は、彼らと見事に時を共にする。
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