薬の話

KeiSenyo

文字の大きさ
1 / 1

薬の話

しおりを挟む
 根本的に、薬とは、何かを直す薬品ではない。それは循環を高め、生物に、その毒の存在を知らしめるために使われる。つまり、命の危険があるということだ。生物は皆どこにいても脅威にさらされている。しかしそれは当たり前のことで、どんな確率式も出来事に比べればあっさりと身を引く。薬品に確率などない。直るか、そうでないかだ。
 しかし薬は、確率などで測れない。それはいつ効果を発揮するか、よく分からないからだ。薬は、命と共にいる。命の働きを高める手段だ。その結果が、死を伴うことになろうとも。薬は死を追い出さない。薬は命を助けてくれるが。薬品にあるのは生か死かだけだが。だから、時に、最も死に追いやるものを「薬」と称することがある。実際は毒だが、信じて、薬とわざわざ言うことがある。それは薬品ではない。命を引き伸ばすものではない。だが命を助けることになる。そのために使われる。
 生き物の根の根。足元。いかにして命を肯定するか。毒と薬は同一のものだ。毒こそ薬に並ぶものだ。それは言い方の違いだ。誰もが毒に侵されるが、毒を吐き出すものが「薬」ではない。その毒を、うまく循環させるのが薬だ。それは薬品ではない。薬品は毒をそのからだから除去する。そうして終わる。毒は排泄され、また再び体の中に入る。そのたびに薬品は使われる。薬品は使われるものである。命から手放せないものである。
 薬品は毒とは並ばない。薬品は毒と対立する。そのものの考え方も、それと共に生きるやり方も。毒は身をたすくとは考えない。毒あってこそのこの世だとは思わない。毒はいったい克服されるものではない。毒とは敵である。薬品とは剣である。
 対峙し、戦争をして、永遠に終わらない侵略を繰り返す。どちらも互いを嫌悪し、仲良くはならない。すなわち、毒とは侵略者…絶望の源と考える。薬品は希望である。
 使用者はこの認識を大事にする。そして、薬に頼る世界をつくろうとする。薬こそこの世を正しくしてくれるものなのだ。直ることこそ自分があるべき姿になることなのだ。
 毒はみじめに排除される。正義は薬に軍配を上げる。しかし毒はなくならない。毒は進化する。また侵略が襲う。そして新しい薬品が開発され、人間はこれを頼りにする。

 そうした毒の循環は、新しく薬を見つける。それは薬品ではない。物語だ。薬品を使うことこそこの大事な認識の一粒になる。それと共に生きたということが、何より薬であった。つまり、命の危険があるということだ。薬品によって直らないものがある。毒は降りしきるのだという現実。しかし、薬品と共に生活したということが、何より人を慰める。信じて、薬とわざわざそれを言う。
 おそらくどんな挑戦も薬となるのだ。毒との戦いは終わらなくても、次々と「薬」は発明される。その循環こそが、毒と共に生きるということ。毒を克服していくということ。蜘蛛は、この時に生まれる。それを発見した時すでに蜘蛛の毒は世界中を循環している。毒は、希望と同じ場所に立つ。毒がなければ、希望も絶望も生まれないのだ。
 それがこの世の仕組みといってなんになるだろう。人間は毒と同時に薬も生み出しているのだ。一生懸命、生きていることが、この循環を推し進め、薬の効果を発揮して、毒を収めていく。知らぬ間に彼らは強くなっていた。蜘蛛は、彼らと見事に時を共にする。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...