黄金の認識標

KeiSenyo

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黄金の認識標

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 つい、昨日の事だ。僕は延々と続く階段を迷いなく下っていた。階段に終わりは見えなかった。別に、終わりなどなくて良かったのだが、僕は一段一段下りて行くことに集中し切っていたから、むしろ終点は自分の目に映らなかっただけかもしれない。
 僕のそばに誰かがいた。しかし誰なのかはよく分からない。影のように僕の肩後ろにくっついて、僕と同じスピードで階段を下りてくるのだ。だが、どうやら生き物ではないらしい。肩後ろから、息をふしゅ、ふしゅうと掛けてくる。その息は管を通して吹き掛けてくるようで、真っ直ぐな圧力を感じた。少なくとも動物が口から漏らすような息ではなかった。
 さてこうして段のある坂道をずっと下りていく空間は暗かった。薄ぼんやりと明かりは射しているのだが、視界はほとんど利かない。僕以外に歩いている人はいなかったが、ただ立っていたり、座っていたりしている人はいた。彼らは能動的にそこへやって来たのではないようで、この場所への入り口である、明るいドアが彼らのすぐそばに開いていた。僕は、僕が入ってきたドアが階段の遥か上の方にあったことは知っているが、目指すゴールがこの足元に必ずあるものと確信しているので、後ろを懐かしく振り向くことはしなかった。
 それが昨日の事――つまり、今僕は、この素敵な旅の終了を迎えていた。いやはや、最後はもう両足利かず、へとへとになりながらゴールしたのだ。僕は倒れ込みながら終点の平地に体を投げ出した。すると、これは予感していたことなのだが、顔を上げると見渡す限りどこまでも続く丘陵が広がっていた。僕の背後には、巨大な薄暗闇に覆われた「現在」という名の神殿が聳えていた。ここから下りてきたということは、過去にも未来にも自分が広がりうることに同義だった。そう、今まで、この暗がりに自分は繋ぎ止められていたのだろう。そして、何らかの形でそこから出て行きたくなったのだ。僕は、ふうっと呼吸をして、かぶりを振った。
 すると、ずっとくっついてきた肩の裏の生き物でない者が、ぐしゃっと潰れた。嫌な音だなと思ったが、それは僕の頭の上に乗り、すこぶる快適な帽子に変身した。僕は、どこかこの存在に見覚えがあったが、今やっと思い出した。それは、僕自身の「今」をぎゅっと濃縮した代物だったのだ。それは「物」で、物であること以外を僕は厳しく禁じていたのだ。何もかも、この物体につぎこんでいたように思う。出会った人間も、出来事も、僕の感情も、すべてを。
 僕は背後の神殿を出たおかげで、こうして僕の掛けた力を取り外したのだろう。さあ、これからどこへ行こうかと考えた。すると、向こうから元気のいいお嬢さんがやって来て、僕に向かって「どこに行きたい?」と訊いてきた。僕はお嬢さんと一緒に行けるところがあれば、そこに行きたいと答えた。彼女は頷き、ついておいでと誘った。僕たちは緑色に輝く草っ原を、陽気にうたいながら、躍々と越えていった。
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