新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

魔族達の権力争い

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「……此度こたびの敗北は私の失態でございます。いかなる責めも私が」

 不知火しらぬいはそう言ってこうべを垂れた。

 歳の頃は50代ほど。がっしりした長身で、洗練されたジャケット姿。

 金の髪を乱れなく撫でつけ、口元の髭も整えられている。

 精悍せいかんさの中にも気品がうかがえ、傍目には余裕のある紳士に見えるだろうが、彼の内心は穏やかではない。

 眼前の岩壁に映し出される、平安貴族のような装いをした青年……つまり夜祖大神やそのおおかみへの報告中なのである。

 鹿児島攻めで一気に手柄を立てるはずが、逆に数万単位の軍勢が消滅。

 考えただけで胃が重くなる事態だったが、夜祖は意外にも淡白に言った。

「構わぬ。先の戦い、熊襲くまその責めを問う気はない」

「は……?」

 不知火は一瞬ほうけた声を上げたが、慌ててそれを取りつくろった。

「……いっ、いえ、有難き幸せに御座います」

 一体どういう風の吹き回しだ、と不知火は思ったが、そんな疑念を見透かしたように、夜祖は涼しげな目で言ってのける。

「礼は御前殿ごぜんどのに言うがいい。祖霊神おやがみ自ら責めを負い、尽力しようとしているのだ。これ以上私がどうこう言う事ではない」

 そういう事か、と不知火は安堵あんどした。

 いかに闇の盟主たる常夜命とこよのみことの覚えが目出度めでたき夜祖とは言え、熊襲御前くまそごぜん様をないがしろには出来ない。

 御前様が自ら戦いにおもむこうとしている以上、それ以上追求する事が出来ないのである。

 夜祖は尚も不知火に言った。

「とは言え御前殿の復活まで、時を稼ぐ必要があろう。気休めかもしれんが、我の手立ても使うがいい。人の産みだした災禍さいかみ子……不開門あかずのもん。あれなら神人も見えづらかろう」

「本当にありがとうございます。あれだけ大掛かりな壁を転移で運んでいただくのは、さぞお手間だったでしょう」

「気にするな。それでは幸運を祈るぞ」

 夜祖がそこまで言った途端、唐突に壁の映像は消えた。

「…………余計なお世話である。土蜘蛛の守護神かみよ」

 不知火は毒づき、そこでようやく一息つく。

 振り返ると、あのチャラ付いた風貌のほむらが、遠慮がちに声をかけてくる。

「ええと、マジですんません……」

 隣にいた燐火りんかも無言で頭を下げた。

 2人の後ろには、同族の若者達が並んでいる。

 皆、この戦いのために一族から選び出された者達である。

 時には人間社会に入り込んで工作し、時には鎧に乗って餓霊どもを指揮し。

 闇の御方おんかたに日の本を献上すべく、長らく活動を続けてきたのだ。

「俺っち、あんだけでかい事言ったのに、結局迷惑かけちまって……」

 焔は頭をかきつつそう言うが、不知火はそこで言葉を遮った。

「もうそんな事はどうでもいい。今やるべきは勝つ事だ。夜祖様の手前ああは言ったが、出来るだけ土蜘蛛つちぐもに借りは作りたくない。可能な限り我々で食い止め、御前様のご顕現けんげんまで時を稼げ」

 不知火がそこまで言うと、先ほどまで夜祖が映っていた岩壁に、あの黒き社の内部が映し出された。

 漆黒の床一面に、巨大な赤い魔法陣が輝き、そこから炎が湧き上がっている。

 周囲には注連縄しめなわ紙垂しでが飾られ、炎に焦げる事なく揺らめいていた。

 そして炎の海の中央に、場違いな程に優美な女性が座していたのだ。

 多数のひとえを重ねた衣装、長く垂らした艶やかな黒髪。

 頭上には黄金こがね色の髪飾り、そして眉間みけんや口元には、古の化粧よろしく花模様が描かれていた。

 今は衵扇あこめおうぎで口元を隠す彼女の背後には、やや透き通った丹色にいろ巨躯きょくが、脈動するようにうごめいていた。

 巨体は少しずつその色合いを強めていく。

「もうじきじゃ……もうじきわらわが世に戻るぞえ」

 女が目を細めると、炎が一際強く輝いたのだ。
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