新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART1 ~この恋、日本を守ります!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
70 / 117
第一章その4 ~さあ復活だ~ 懐かしきふるさとの味編

私の弟子に何をしている?

しおりを挟む
「さあ岩凪姫様、そろそろ頃合ですぜ」

「うむ。ちょっと待て、今飲み終わるから」

 岩凪姫は杯を傾けて酒を飲み干すと、設けられた壇上へと昇った。

「皆、かしこまらないでいいから、そのままで聞いて欲しい。10年ぶりの宴はどうだっただろうか」

 一同は、突然現れた見慣れぬ女神に戸惑ったが、恐らく偉い人だと思ったのだろう。大人しく話を聞いてくれた。

「いつもこうとはいかないが、今日は特別だ。皆が生まれ育ったこの国の幸は、これから先を戦い抜くための勇気をくれるはずだ」

 女神は更に言葉を続ける。

「この10年、皆には辛い思いをさせてしまった。泣きたい事もあったろう。投げ出したい事も多々あっただろう。それでも人の心を捨てず、よくぞここまで耐えてくれた。お前達は私の誇りだし、私はここに宣言しよう。お前達が積み重ねた時間は、決して無駄では無かったと。今こそ反撃の時なのだし、本当にもう少しなのだ」

 人々の中には、俯いて涙を流す人もいた。きっと長い苦難の時を思い出しているのだろう。

「私はお前達を見捨てぬし、この身が消えるその時まで、お前達と共に戦う。だから最後の勇気を振り絞って、この未曾有の大災害に決着をつけようではないか。明けない夜はないのだし、日はまたいつか昇るのだから」

 人々は知らず知らずに拍手を送っていた。

 手に容器を持っているので、少し遠慮気味の拍手だったが、無数の鳩が羽ばたくようなその音は、目に見えぬ幸運が一斉に舞い込んで来るような……そんな吉兆のように誠には思えた。

 鶴は壇上を見上げ、しきりに感心している。

「流石はナギっぺね。締めるところは締めるものだわ」

「…………ああ」

 誠も素直に頷いた。

 あの女神の元で、そしてこの鶴と一緒なら、本当に日本を取り戻せるかもしれない。遠い幻かと思っていた微かな希望が、今は目の前にあるように感じられた。

 ……だがその時だった。

 会場の端で、不意に悲鳴が上がったのだ。悲鳴は次々に繋がり、人々は恐れるように広場の左右に分かれていく。

「ヒメ子はここにいてくれ。この後、壇上に上がる段取りだろ」

「でも黒鷹」

「頼む」

 誠がそう言って人々の前に出ると、そこには特務隊のパイロットの一団がいたのだ。

 先頭はやはりあの不是である。相変わらず粗暴な態度で人々を押し退け、広場の中心に進んで来る。

 行く手を塞ぐ出店が蹴飛ばされ、調理器具が音を立てて地面に落ちた。

 誠が不是の前に立ち塞がると、不是も気付いて足を止めた。忌々しそうに眉をしかめ、尖った言葉を投げかけてくる。

「……おい出来損ない。何だこりゃ、一体何のバカ騒ぎなんだよ」

「単なる宴会だ。上の許可はちゃんと取ってる」

「ああ? 俺らは聞いてないってんだよ」

 不是は足早に近寄ると、鋭い膝蹴りを見舞ってきた。

 周囲に悲鳴が上がり、誠はよろめいた。

 本当を言うと、避けられないわけではない。避けると後で面倒になるから、敢えて受けてきただけだ。

 ただ今回は、誠も虫の居所が悪かった。皆の楽しい時間を邪魔された怒りで、瞬間的に攻撃を見切り、威力のほとんどを受け流したのだ。

 手ごたえの浅さを感じ取ったのか、不是は余計に怒り狂った。

「こいつ、手向かいしやがって! そもそも船団長は蛭間のおっさんだろ、何シカトしてくれてんだ?」

「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」

 見かねたカノンが駆け寄るが、そこで再び例の3人組が立ちはだかった。

 長髪をオールバックにした先頭の少女は、申し訳なさそうにカノンにささやく。

「……悪く思わないでね、こっちも生活かかってんの。すぐ終わるからさ」

 不是はなおも誠に歩み寄る。

「弱い連中ばっか集めて、お山の大将やってんじゃねえぞ! いつまでもままごとやってる腰抜けがよ!」

 不是はそこで右の拳で殴り付けた。

 誠は今度は避けず、まともに受けた。再び人々から悲鳴が上がる。

 倒れ込んだ誠の髪を掴み、不是は力任せに引き起こした。

「分かったらさっさと撤収しろ。バカ騒ぎはこれで終わり……」

 不是はそこまで言って、弾けるように振り返った。

「うおっ!?」

 いつの間にか女神が近寄り、彼を見下ろしていたのだ。

「…………小僧。貴様一体何をしている?」

 不是は本能的な恐怖を感じて誠を放し、後ずさった。

「答えろ。私の弟子に何をしていると聞いておるのだ」

「……っ」

「どうした、その頭に付いているのは口ではないのか。返事が出来ぬ無用な口は、天宇受賣あめのうずめ殿に切り落とされたと聞くぞ? 3秒以内に答えろ、1、」

「……こ、これは教育だぜ」

 不是はたじろぎながらも答えたのだが。

「言うに事欠いて教育だと!? 馬鹿も休み休み言え!!」

「ぐっ……!」

 女神の怒声にひるむ不是だったが、それでも何とか言葉を返す。

「……な、何が悪いってんだよ。生きるなら蹴落とすんだ、弱い連中集めてお遊戯してる方がおかしいんだろうが……!」

「では聞くぞ。皆があらゆる手を使って殺し合った時、お前は今と同じ地位を得られるのだな? お前より強い者が、全ての善意を捨てて襲って来ても、お前は後悔しないのだな?」

 女神は右手を前に突き出し、不是は思わず飛び退すさった。先ほどまでの余裕は微塵も無く、冷や汗が額のあちこちに滲んでいる。

「それ見たことか。やったもの勝ちというが、それはお前を倒せる者が、そうしないからほざける事。貴様は自分より強い者に守られ、見逃されているだけなのだ」

「う、うるせえよ……! 強ぇからって見下しやがって……」

「……見下す? よく言う、自ら地べたに寝ておいて」

 女神は少し嘲笑うように言った。

「虚勢で誤魔化せるのは人だけだ、私はお前のこころを見ている。怖い怖いと泣き叫び、歩こうともせぬ駄々っ子め」

「しっ、知らねえよっ、うるせえよ!! 俺らはガキの時からそうだったんだ、今更あの地獄が嘘でしたなんて、」

「いい加減にしろ、この愚物がっ!!!」

 女神の怒声は城郭全体を揺らし、その場にいた者の全身を叩いた。

「ちょ、ちょっと……ヤバイよこいつ、もうやめようよ……!」

 恋人らしき女が不是の腕を引っ張るが、鳳が刀を手に歩み寄った。

「無理ですよ、術で足を縛りました。引き千切りでもせぬ限り動けませんが……何ならお斬りしましょうか?」

「な、何なのよ、こいつら……」

 女は震えて不是にしがみついた。



 女神は怒りを込めたげんを続ける。

「はっきり言う。貴様の知る薄ら甘い地獄など、本当の闇は軽々と超えて来る。地の底で封じられているあ奴らが、この世に這い出たら何をするか。それを知ったら、お前は尻尾を巻いて逃げ帰るだろう」

 女神はそこでついと手を振った。

 光が虚空に輝いて、不是の足元の地面に宿る。不是は足が動くようになったのか、ふらふらと後ずさった。

「貴様らの悪事はいずれ裁かれる。分かったら早々に立ち去れ!」

 しばし呆然としていた特務隊の一同だったが、やがて1人、2人ときびすをかえし、我先に逃げ帰っていった。

 人々はせきを切ったように歓声をあげるが、女神はその場に取り残された特務隊の3人に目を向ける。

「お前達の性根は違うようだな。悪い事は言わぬ。早く縁を切るがいい」

「……そ、そうも……いきませんので」

 後ろに立つ2人を庇うように前に出ると、長髪をオールバックにした少女が引きつった顔で答えた。

「あたしらだけの生活じゃないし、それなりに恩義もあるので」

 女神はしばらく少女を見つめていたが、やがてこう告げた。

「そうか、だが覚えておけ。いかな恩義も、不義で打ち消される日は必ず来る。その時、舵取りを誤らぬようにな」

 3人はしばし戸惑っていたが、やがてその場を後にしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...