新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第五章その4 ~神のギフト!?~ 魔王の欠片・捜索編

VS魔王の細胞

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 そこから先は、恐らくごく短い時間だったのだろう。

 着地した誠達は、瞬時に『その相手』を確認した。

 直径2メートル程もある細胞片は、赤黒く輝きながら伸縮を繰り返し、それ自体1つの命であるかのように脈動していた。

 周囲には強烈な邪気が吹き出し、その気に触れた草木は、凄まじい勢いで進化の系譜けいふを暴走していた。

 木々は絡み合い、枝葉は人の手足に変化する。無数の根が地を這うように成長すると、蛇の尾となってのたうち回った。

 何も無い所から生命が生まれ、また朽ちては姿を消していく。神代の魔法そのものだったし、まるで超現実主義シュルレアリスムの絵画の世界だ。

 しかしそれに見とれるいとまが許されぬ事も、その場の誰もが理解していた。

 猛烈な風の音にかき消されまいと、コマが必至に叫ぶのが聞こえる。

「黒鷹、みんな、長時間ここに居ちゃ駄目だ! 取り込まれるよ!」

 つまり抵抗力の差はあれど、いずれ正気を乱され、『奴ら』のようになるという事だ。

 誠はコマに怒鳴り返す。

「コマ、あれをどうしたらいい!?」

「捕まえる! でも弱らせないと駄目だよ!」

「了解っ!」

 誠達は一斉射撃を開始した。

 細胞は餓霊達と同様、光の幾何学模様で攻撃を弾く。

 だがいかに魔王の肉片とは言え、まだ力を使いこなせていないのだろう。

 攻撃が長時間続くと、電磁バリアは少しずつ輝きを弱めていくのだ。

「ようし、いいぞみんな! まだ自我が無いし、防御も上手くないみたいだ!」

 …………だが、コマがそう言った次の瞬間だった。

 唐突に、周囲の地表に白い何かが広がったのだ。

「!!?」

 足元を見ると、そこかしこから白い粘液が湧き出している。

 更に驚くべき事に、そのねばつく液体の中から、次々異形いぎょうが立ち上がってきたのだ。

 歯を剥き出し、口から唾液を垂らすそれらは、誠達が戦い続けてきた活動死体ゾンビ……つまり餓霊どもだった。

「餓霊を……呼び出してるのか!?」

 誠は白い餓霊を次々撃ち抜く。

 しかし異形はどんどん湧き上がり、やがて形も進化していった。

 大きさこそ普通の餓霊の数倍程度だが、その姿には覚えがある。

厨子王ずしおう!? いや、荒金丸あらがねまるか!?」

 かつて対峙した、強力な餓霊の親玉どもである。

 今度は別の場所から、更に巨大な姿が湧き上がってくる。

 多脚の山椒魚さんしょううおのようなその形は、九州の鹿児島避難区を襲った城喰いだったのだ。

「城喰い……嘘だろ!?」

 いや、事態はそれだけにとどまらない。

 鬼や熊襲くまそ一族などが乗り込んでいた鎧もあったし、古代の武具を身につけたむくろ……つまり幽鬼兵団の姿もあった。

 彼らは射撃しても切り伏せても、次々地面から湧き上がってくる。

 やがて細胞のすぐ傍に、何かがゆっくりと身を起こした。

 全身を白い粘液に包まれているが、項垂れ、長い髪を垂らす様は……あの魔王ディアヌスによく似ていた……!!!

 白き怪物どもはますます力を増し、次第に射撃も通じなくなっていく。

 誠は事の次第に気付いて叫んだ。

「まずいっ、こっちの記憶を吸い取ってるんだ!」

「嘘やろ!? そんなんどないして倒せ言うねん!」

 難波が悲鳴のように答え、一同は後ずさった。

 元より魔王の身の一部、その本領を発揮すれば、誠達の隊だけで倒せる相手ではないのだ。

「このままじゃ無理だな。でも、だからって逃げるわけには……」

 コマは悲痛な呟きを漏らすが、そこで鶴が口を開いた。

「みんな、任せて。私がしずめるわ……!」

「駄目だよ鶴っ、これ以上力を使ったら!」

 コマが叫ぶが、鶴は静かに首を振る。

「仕方がないの。他に方法が無いわ」

「……………………分かったよ」

 コマは項垂れ、弱々しく答える。

 やがて鶴は胸の前で手を合わせた。

 合わせた手の間から、何か清らかな波動が不可視の力となって、幾度も誠達を突き抜けていく。

 ほぼ時を同じくして、魔王の細胞は暴れ始めた。怒り狂い、光を放って大きく脈打つ。

 凄まじい邪気が、そして雷が、十重二十重とえはたえに放たれた。

 激しい押し合いがいつ果てるともなく続き…………やがて視界が真っ白に染め上げられた。

 ……そして数瞬の後。

 あの悪魔の細胞は、ひとまず活動を止めていたのである。

 もちろん完全に浄化されたわけではない。

 大地は不気味な音を立ててくすぶっていたし、廃墟と化した市街にも、色濃い霧が漂っていた。

 魔王の細胞は、未だ納得していないかのように蠢きながら、少しずつ周囲に邪気を振り撒いていた。まるで死してなお毒気を放つ、殺生石せっしょうせきのようである。

「コマ、これって抑え込めたのか……?」

 誠が尋ねると、コマは静かに答える。

「実際、かなりやばかったよ。もし目覚めてたら……もしこれが人の手に渡ってたら、それこそ世の中をひっくり返す事になってたかもね」

 コマはそこまで言って、鶴に優しく身を寄せた。

「……頑張ったね。偉かったよ、鶴」

 鶴もコマに頬を寄せる。

(何だ……?)

 誠は妙な違和感を感じた。

 今まで喧嘩したり、冗談を言い合っていた2人のこんな態度に、ただならぬものを感じ取ったのだ。

「ヒメ子……」

 誠は問いかけようとした。身の内に芽生えた疑問を口にしかけていた。

 けれどそれは許されなかったのだ。

 霧が薄れていくにつれ、辺りに倒れる人影に気が付いたからだ。

 青い肌を持ち、後に『黄泉人よみびと』と呼ばれる事になる彼らは、細胞がしずめられても消える事が無かったのだ。

 今は気を失い、まぶたを閉じる彼らだったが、目覚めた時にどういう行動を取るかは明白だった。

 誠達は至急女神と連絡を取り、事の次第を報告したのだ。
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