新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編

地獄のフタの鍵があく

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「捕縛機構、ほぼ完全に機能を停止!」

「外殻具現化開始、転移エネルギーが蓄積中!」

「霊圧上昇、間もなく臨界点に達します!」

 誠も鳳も、無言で映像を見つめていた。

 あらゆる備えを回して柱を止めようとするが、最早焼け石に水であった。

 そして誰かが呟いた。

「始まる………」

 巨大な柱は、その姿をぐにゃりと歪ませる。空間を捻じ曲げ、外の世界に転移するのだ。

「あああっ………ああああああっ…………!」

 うてなは目を見開き、呆然とその様を見つめている。

 膝をつき、力なく肩を落とす彼女だったが、それも無理のない事だろう。

 千年の時をかけ、準備してきた柱の架け替えが失敗に終わる。

 それが意味する事は、日の本を覆う封印の崩壊であり、地の底に眠る邪神軍団の復活だからだ。

 全神連の長たる台にとって、その自責の念は途方もないものだろう。

 だがそこで闘神・永津彦が立ち上がった。

「これまでだ! 柱を砕く、皆備えよ!」

 永津彦は短く言うと、全身に力を漲らせた。

 腰の環頭太刀かんとうだちを抜き放つと、刀身には幾多の文字が浮かび上がる。

 台は震える声で永津に告げる。

「し、しかし永津彦様……今柱を破壊すれば、作り直すのにかなりの時がかかります! 簡易の柱でも百年以上……その間に、どれだけの魔が溢れ出るか」

「やむなしだ。全て出るよりましであろう……!」

 永津はそれだけ言うと、その場から姿を消した。

 そのまま映像の中に……柱の付近に現れると、手にした太刀を閃かせたのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 映像は激しく乱れ、しばし何も確認出来ない程だったが、やがてくだんの柱が粉塵の中に確認できた。どうやら破壊出来なかったようだ。

 ……いや、表面の光が大きく乱れ、回転速度も遅くなっている。多少なりともダメージを受けたのだろうが、それでも動きを止めるまでには至らなかったのだ。

 やがて柱は一際強い光を帯びると、唐突にその姿をかき消した。

「……………………っ!!!」

 見守る一同は言葉を失う。

 映像は外部へと切り替わり、柱は旧長野県の上空に現れていた。

 ………………ああ、それは何という光景だったのだろう。

 天に輝く光の柱は、明確な終わりの始まりを示していた。

 神代の昔、この国を形作った天沼矛あめのぬぼこが、再びこの地を打ち砕こうとするかのように。

 全ての災厄を解き放つ地獄のふたの鍵であり、世界を滅ぼす裁きの鉄槌は、無慈悲に地上に落下してくる。

 やがて降下する新しい柱に共鳴するように、地上に立つ古い柱も姿を現した。

 千年の長きに渡り、大地に張られた封印を押さえてきた柱は、その役目を終えた喜びを表すように輝いている。

 だが頭上から迫るのは、彼の望むような存在ではない。

 この国と人々を守るためではなく、滅ぼすために駆け下る、恐るべき邪神のつちなのである。

 そして降下する新しい柱の底に、長く鋭利な突起が伸びた。

 それは五重の塔の先端に瓜二つだ。

 最下部にある宝珠ほうじゅ部分、そこから伸びた棒状の九輪くりん

 禍々しい光を帯びて輝く先端部それは、回転式穴開け工具ドリルのように唸りを上げて、古い柱の上部に触れた。

 瞬間、古き柱全体に、波のような振動が伝わり、そして無数のひび割れが入った。

 と同時に、大地に張り巡らされた封印の網目が、燃えるような緋色ひいろとなって浮かび上がった。

 やがて一同の前に、永津彦が姿を戻した。彼は苦々しげに呟く。

「今の我では砕けなかったか。完全に起きる前だ。断ち斬れるかと思ったが……」

 いかに闘神・永津彦とはいえ、魔王ディアヌスと闘い、その力は消耗したままである。あの柱を止めるには、一歩力が足りなかったのだろう。

 そこで虚空に光が閃き、女神・佐久夜姫さくやひめも姿を現した。

 永津は女神に頭を下げる。

「奥方様、申し訳ありませぬ。我の力不足ゆえ、止める事叶いませんでした」

「でも十分遅くなったわ。ありがとう、邇邇芸ニニギ様もそうおっしゃると思います」

 佐久夜姫は気遣うが、さすがに焦りの表情が隠せない。

 それでも膝をつく台の肩に手を当て、出来るだけ優しい声で慰めた。

「大丈夫よ台、長い間よくやってくれました。顔を上げなさい、あなたのせいではないのだから」

「さ、佐久夜姫様……」

 台は弱々しく女神を見上げる。

 女神は尚も優しく言った。

「それに、全部が無駄ではないの。気付かずあのまま駆動させていれば、恐らく全てが壊れてたはずよ?」

 佐久夜姫はそこで一同を見渡して言った。

「皆のおかげで出来た猶予、この間になんとか手を打ちましょう。取り急ぎお姉ちゃんもここに……」

「いや、既に来ている」

 いつの間に現れていたのか、そこで女神・岩凪姫が進み出た。

「柱はまだ本調子ではない。霊力を十分に練り上げれば、3人なら止められるはずだ」

「せめて時忘れの秘宝があればね」

 悔しげに言う佐久夜姫に、岩凪姫は頷いた。

「魔王の足止めに使ったからな。相手は夜祖、それすら計算ずくだったかもしれんが……今更言っても仕方がない」
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